3.17歳の秋
高校生活最後の演劇コンクール。私達の高校は県代表になり中部大会まで進んだけれど、何の賞も取れなかった。
これでもう、完全に部活からは引退。明日からは受験勉強まっしぐらだ。
卒業した先輩たちも見に来てくれて、
「よく頑張ったね」
「私達の代は県代表にもなれなかったもんね」
と励ましてくれたけど、なかなか落ちてしまった気分は上がらない。
一年前は残念な結果だったけど、二年前、啓子先輩が部長のときは中部大会まで進んだ。そして、啓子先輩が書いた脚本が『創作脚本賞』に選ばれた。
せめて同じ賞は取りたいよねって、みんなで知恵を絞ったのに。
「……そう言えば、啓子先輩は来てないんですね」
啓子先輩は地元の大学に進学していた。だから去年は、コンクールだけじゃなく文化祭にも来てくれてたのに。練習中にも一度顔を出してくれて、ジュースを差し入れしてくれたし。
だけど今年は、一度も啓子先輩を見ていない。
「あー……」
啓子先輩と同じ代の先輩がちょっと気まずそうな顔をし、隣にいた先輩と顔を見合わせる。
「多分、それどころじゃないんじゃないかな」
「うん、そうだね」
「……何かあったんですか?」
きっと大っぴらに言える話じゃないんだろうな、と声を潜める。
他の人には言わないから私には教えてほしい、という気持ちを込めて先輩たちを見つめると
「絶対にここだけの話ね」
とキツめの声で言われた。
無言でうん、と頷く。
「啓子、いま大学を休学してるらしいのよ」
「え? どうしてですか?」
「うーん……」
また先輩二人がお互いの顔を見合わせる。
「私達も噂でしか聞いてないんだけどね。どうやら妊娠したらしくて」
「ええっ……」
「しぃーっ!」
大声を出しそうになって、慌てて両手で自分の口を押える。大きく息を吐いてどうにか心を落ち着けると、ゆるゆると両手をはずした。さっきよりも3ランクぐらいボリュームを下げる。
「いつ、結婚されたんですか?」
「してないと思う。そんな話も聞かないし」
「……見かけた人の話だと、夏頃にはだいぶんお腹が大きかったみたいだから。もう生まれてるんじゃないかな」
「そうなんですか……」
「だから、内緒ね」
……ということは、シングルマザーになったっていうこと? 啓子先輩が?
これは確かにこれ以上深く聞けないや、と思わず口をつぐむ。
先輩たちもそれ以上は私に説明することなく、他の後輩の方に行ってしまった。
確かイトコが啓子先輩と同い年で、同じ地元の大学に行っていたはず。
聞いてみようかな、と一瞬思ったけど、すぐにやめた。
私は啓子先輩の連絡先は知らなかった。憧れていた先輩だけど、卒業しても連絡を取り合うほどの仲ではなかった。
そんな私が興味本位で詮索するの、絶対におかしいと思ったから。
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