サッカーは金のかからない趣味
金がない あー金がない 金がない
清酒購入により大打撃を受けていた我が家の家計は、ダンジョンに入ろうとするのを止めた守衛によりついに壊滅判定を受けることとなった。使い魔も入ダン税を払わなければならないのはまだ分かる。入るのにも出るのにも納税させる上の人間をぶん殴りたいが仕方ない。しかし使い魔にもリングがいるっていうのは聞いてない。しかも使い魔所有者ということで私の税額が2ランクも上がっている。一定額以上マナを稼げばこれにさらに補正がかかるというのだからやってられない。
即引き返し、ジャンク屋でカトリーヌに中古のリングを少し揉めたが買い、やっとダンジョンに入れたのは15時を回ったところだった。いつもなら探索を取りやめる時間だが、今の懐具合ではそうもいかない。
普段ならもう少し早く辿り着いたのだが、使い魔カトリーヌのことを探ってくる組織の多いこと多いこと。あまりに大勢から挨拶されたからどこの誰か全員は覚えきれなかった。
まだ戦闘で使ったこともないし立て込んでるからと断ったが、大きな組織にはしばらくしたら時間を作って今度はこちらから正式な挨拶をするべきか。順番一つでも揉め事の種になるので、情報屋から色々仕入れなくてはならないな。あー金がまた飛んでいく。めんどくさい。
けん制し合ってるし、使い魔を契約者から奪うことは不可能なので、武力行使がないのだけがせめてもの救いか。
索敵方法や罠の見つけ方、敵の特徴や高く売れる部位など、様々な探索の心得を簡易なものではあるが3時間かけてダンジョンを歩きながらカトリーヌに伝えた。屋台で買ったこの冷めた串とパンを食べきると、ぶっつけ本番になるが魔法も駆使して奥を目指す。できれば魔法で温めたいが、あの暴走状態になって大人しく食べるか不安だし仕方ない。
どれくらいの効果の魔法を持っているかだとか、どれくらいの顕現レベルでどれくらいの魔力逆流が起き抜けるまでどれくらいの時間がかかるかとか、魔力逆流状態だとどれくらい強化されどれくらい判断力が落ちるのかとかできれば本番前に実験したかったことが山ほどあった。しかしお金がなかった。
「カトリーヌ、それでは目隠しとできるだけ防御力と回復力が重点的に上がるよう身体強化魔法をお願いします。あとこの四叉路はできれば左に行くよう誘導お願いします。」
ここまで潜ってもまだ3組の斥候が距離を開けて付いて来ているんだから、その働きぶりに頭が下がる。まーカトリーヌが今のところ何も仕事してなく、報告できることがないからそりゃ帰れないよな。
「あるじよ、痛みのカットはどうする?」
痛みはできることならほとんどカットしたいところだが、そうすると被弾を厭わず突っ込みそうだな。
「3、いや5割カットでお願いします。」
靴ひもをしっかり確認し、剣を抜き構える。
「赤き月は既に落ち 空に残った星々たちは ガラスの小瓶にしまいましょ
波の音は貝殻に 空だけ残りここにある 《宵闇の薄布》」
「……」
折角俺様が気合の入った雄叫びを上げたのに、真っ暗で声も聞こえないとかこの魔法はつまらん。さっさと出たい。カトリーヌ次の魔法はまだか。
急にカトリーヌがおぶさって来て、何をしやがると思ったが、どうやら背中に乗ったまま、服を引っ張って進む方向を指示するのか。よかろう。俺様のスピードを見せつけてやる。
800mほど走り、闇を抜けた先には間抜けな顔したコボルト3匹。
「ヒャッハー、ワンコロサッカーしようぜ。お前ボール役な。」
1匹・2匹・3匹、うーん、いい飛びっぷり。3匹目の盾持ちが重い癖に一番よく飛んだ。
「カトリーヌ、マナ回収は任せたぞ。」
オラオラ、次のボールはどこだ。
あるじよ、任せるのは別に構わぬが、そのまま走り去られると追いつけぬではないか。あのあほあるじは付いて来ぬのに気づいたとしても、待つということはせぬであろうな。
心臓に短剣を突き刺し、マナ結晶を魔法で引っ張り上げる。
こうなれば我の愛馬を呼ぶしかあるまい。戦闘には使えぬ顕現するだけの簡易詠唱で勘弁してやるが、それでも今日ダンジョンで集めたマナの大半を触媒として消費することになるであろう。しかし全てはあやつの責任だ。
「カトリーヌの名において命ず 我が愛馬プニルよここに来たれ」
八本足の白く美しい馬がいななきと共に現れる。
「うむうむ、
気持ちよさそうに我が撫でるのに身を任せる。
「じっくりと可愛がってやりたいが、済まぬがあるじに追いつかねばならぬ。今日も頼むぞ。」
軽く飛び乗り横乗りになると、一声嘶き駆け出した。
我があるじもプニルほどかしこればいいのにな。思わずたてがみをなでながら愚痴ってしまう。道の先にあるじの姿は見えないが、ヒャッハーだのシャーだのうりゃーだのあるじの間抜けな声が聞こえるから間違えることはない。
「カトリーヌ、いい馬乗ってるじゃん。そいつを寄こせ。」
あった途端にあるじはあほなことを言い始めた。
「我の可愛いプニルをあるじのような野蛮な男に預けるはずなかろう。そもそもマナ回収作業で遅れる我がプニルを失えば、追いつけなくなるのが道理であろう。一緒に乗るならば問題ないが、マナを回収するのを待つ気なぞあるじにはないのであろう?」
「白馬ではやはり俺様には似合わぬな。黒馬か狼を召喚してくれ。」
こやつ我の話を全く聞いておらぬ。
「我が持っておるのはプニルだけよ。欲しいのならあるじが好きなものを捕まえよ。」
こやつ我の返事に大きなため息を付きおった。ぶん殴ってやろうか。
「無駄な時間を使ったな。ヒャッハー、サンドバッグはどこだ。」
行ったか。あの状態のあるじと話すのは非常に疲れるな。さっさと元のあるじに戻って欲しいものだ。
この時の我は気付いておらなんだ。日付が変わるような時間になっても元の主に戻ることはなく、ずっと探索に付き合わされることになることを。
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