教えてカトリーヌ先生その1
何者かに追われて屋根の上を走っていた。息が上がって、足も棒のようになっていたが、それでも動かし続けた。不戦協定が結ばれている商業地区に逃げ込めば治安を乱しとして殴られ豚箱行きになるのは免れないが、殺されることはない。それだけが心の支えだった。
そして
ガハッ
背中から地面に落ちて、空気を求めて喘いだ。しばらくして落ち着きを取り戻し、痛みの残る頭を抱え周囲を見渡すと見覚えのあるベッドと布団。何だベッドから落ちただけか。久しくこの夢は見てなかったのにな。
苦笑いし頭を抱えながら部屋を見渡す。ちゃぶ台の上にはカレーのこびりついた鍋に食器、そして酒瓶。
そうか、頭が痛いのも二日酔いだったか。そして昨日のことを思い出し、一瞬で血の気が引いた。
ベッドの上には変なポーズで気持ちよさそうに眠る使い魔のカトリーヌ。どうやら昨日の記憶は夢ではなさそうだ。先ほどの目覚めはカトリーヌに蹴られて落ちたのだろう。昨日寝る前にかなりやばいことを言った記憶があるが、ベッドには入れてくれたらしい。
昨日の人格が入れ替わったかのような状態のことや、聞き流して記憶にない契約の詳細など聞きたいことが山ほどあったし寝る前のことを謝らなければならいので、カトリーヌを起こすべきか否か少し悩んだが、寝起きがいいかどうか知らないので安全策で寝かしたままにした。
待つ間にこのちゃぶ台の上の大惨事を何とかするか。
既に日も高くなりやることもなくなった頃に、我が家の眠り姫様が目を覚ました。
「おはようございます。カトリーヌさん。」
少し驚いたように、擦っていた顔をこちらに向けた。
「あるじよ、急に丁寧になって何か変な物でも食べたのか?」
「昨晩寝る前に失礼なこと言ってすみませんでした。どちらかと言えば昨日の方がおかしいのです。カトリーヌさんを門から引き揚げた後、オーラのような何と言うべきか分からない変な物が体に入り、体が強化され、性格が変わってしまったのですが、何かご存じでしょうか?」
カトリーヌはふむと顎に手を当て、珍しく目を開け下から覗き込み、何度か私の体を上から下まで確認してきた。
「なるほど、我はとんでもないあほと契約してしまったかもしれぬと少し後悔しておったがこういうことであったか。あまりにも破天荒な相手に我も冷静さを失っておったかもしれぬな。それと我のあるじになったのだからカトリーヌと呼び捨てでよいぞ。」
そして、布団から足を出しベッドに座り込んだ。
「少し長い話になるぞ。使い魔契約と言うものは主から使い魔に報酬として魔力が契約のパスを通じて流れ込んでおる。魔力は多い方から少ない方に流れるものだが、主より使い魔の方が魔力が多いことも多々ある。その場合も使い魔契約の魔法陣により魔力を圧縮してパスを通す機能が主に作られるので普通は問題ない。ただ100倍を越える魔力差が主と使い魔の間にあると、使い魔から主に魔力が逆流する。
あるじに起きたのはこの逆流現象だな。《辺獄》出身の我の高濃度魔力を浴びたのなら逆流した魔力が抜けきるまでは体が強化され、欲望が肥大化しててもおかしくない。ただ使い魔契約の儀式は契約者に相応しい使い魔を探す機能があるため、そのような契約者とはマッチングしないようになっているはずだが、昨晩の契約の感触では将来性が考慮されたようだ。
ふむ、契約時ではなく、我がこの世界に顕現した時に逆流した理由か。魔力圧縮機構と契約パスの穴は、鍵を使って門を開いた時にできる。そう、その右手だ。そして契約パスを仮接続するのが使い魔がこの世界に顕現した時というだけよ。我が魔力を今ぐらいに抑えておれば、今のように逆流せずに無事であるが、最初の顕現と言うことで顕現レベルを上げておったから逆流してしまったようだな。
我が魔法を使うにも顕現レベルを上げねばならぬから、あるじはこれから大変よな。魔法を使うたびに我への借金が増えるし、欲にまみれて暴走してしまう。
ふむ、たくさん喋って疲れたな。魔法に精通している我でなければこれ程の情報は得られなかったであろう。存分に感謝するとよい。あるじよ差し当たっては喉が渇いたので水を頼む。」
水を渡して、顕現レベルについても尋ねたが、
「あるじよ、それについて喋るなら使い魔とは何かとまた延々と喋らなくてはならない。先ほどの話の報酬も受け取っていないので拒否する。
報酬とは何だと?昨日の契約の話を聞いていなかったのか?ふむ仕方あるまい。
昨日の契約は簡単に言うと我の知識や魔法を使うとあるじの我への魔力の借金が増え、我においしいものを食べさせる義務が生じるというものだ。またあるじの魔力は我のものだから魔法を覚えたり、神に仕えることを禁止しておる。
あるじよ、宣言通り早う強くなれ。何も気にせず一緒に戦えるようになるのを待っておるぞ。」
これは思った以上に前途多難だった。カトリーヌを仲間にして楽になったと思いきや、もしかすると前より大変かもしれない。でもあの停滞のままでいるよりは前に進める切っ掛けになるはず。
「あるじよ、こんな話をしたせいでもう昼ではないか。ご飯を食べに行くぞ。」
半分は誰のせいだよと思ったが、反論はせず手を引かれて家を出た。
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