episode:17 誘い

「お待たせしました~。こちらがアイスコーヒーで、こちらがアールグレイのホットです。こちらの中にお砂糖・ミルクが入っていますのでご自由にお使いください」


店員がにっこりと微笑み、丸いテーブルの真ん中にある透明でオシャレな瓶とミルクが入っている小さなミルクポットを手のひらで差す。


建物1階にはカフェがあり、2階3階がうちの会社になっている。小洒落たカフェは来客や接待の時には何かと便利でよく利用させてもらっている。


向かいに座った小田さんがコーヒーにミルクをトポトポ注いでいる。甘党なのかポットが空になるまで入れていた...。


色...白いなぁ...


何度か会ったことはあるものの向かいに座りまじまじと顔を見るのは初めてかもしれない。肌の色は白く、かけている黒縁の眼鏡が存在感をアピールしてる。ピシッとしたワイシャツに左手首の腕時計...性格がよっぽどアレでない限りモテない筈がない。


「井手さんの案を取り入れた商品の作成書を持ってきました」

「いい案ですね。改善案。男の俺では思いつかない案です」


そういって小田さんは、さっきまで手に持っていた大きめの封筒から書類を出した。書類の上部に大きく『ヤセルクン改』と書いてあった。


「仕事早いですね。FAXとかメールでもよかったのに...わざわざすみません」


私は書類を受け取り眺める。改のデザインは色味がピンク白に変更されていて、より女性が使いやすそうな印象になっていた。


「あ、いえ、あの...」


小田さんが何かを言いたげに言葉を詰まらせていた。


「はい?」


私は、どうしましたと小田さんに問いかける。小田さんが少し顔を赤らめて言葉を選びながらゆっくり話す。


「もし...迷惑でなければ、今度...お時間あるときにお食事でも行きませんか」


最後の方は若干早口で、でも私の目を真直ぐ見て...。

私自身、牧野さんのことはまだ引きずっていて...この誘いに、どういう意図があるのかはわからない。でも、素直に嬉しい。


「私、引くぐらい食べますよ」


笑って言った。小田さんが少しホッとした顔をして「俺も負けません」といった。


そのあと、小田さんとLINEの交換をし、書類を受け取って見送った。

私は自分のオフィスに戻った。気分は少し高揚した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る