episode:16 開発室②

家から駅まで歩いて20分、そこから電車で10分。駅の目の前にある一際目立つ建物が私の会社だ。


『KIREE』


主に健康器具やダイエット商品をプロデュース、制作する会社だ。


私は見慣れた廊下をコツコツと歩く。廊下にはアンティーク好きの社長が海外から取り寄せた高級感溢れるライトやサイドボードが置いてある。

木造3階建てで私が担当しているフロアのオフィスは3階にある。建物内にはもちろんエレベーターがあるが、健康のため最近は階段も使うようにしている。


毎日階段を使っているからと言って、慣れるわけではない...。私ももう26だ...。ここまでくるだけで汗だくだ。


開発室②が私の仕事部屋だ。開発②部長のデスクが正面にあり、左右にデスクが二つずつある。部屋の真ん中には部長が好きな観葉植物がある。正直邪魔だ...。


デスクに着くと持っていたカバンを投げるようにデスクの上に置いた。


「おはようございます!」


隣の席の茉優ちゃんが元気にあいさつをしてくれる。いつも明るいこの子が私には太陽に見える。


「おはよう。元気だね~」


私は茉優ちゃんに微笑む。茉優ちゃんは私のパートナー的な役割で基本、茉優ちゃんとマンツーマンで仕事をしている。今受け持ちの“ヤセルクン”は彼女がつけた商品名だ。


「そういえばこの前の先輩から頂いたデータ、社長絶賛してましたよ~。使用前に体脂肪率を管理できる機能を制作会社と打ち合わせ中みたいですよ」

「お~やった!」


私は小さくガッツポーズをした。

少年に頼んだ甲斐があったな...。私の見る目はなかなか衰えない!


「それにしてもいいアイディアですね。私も先輩から聞いた時はなるほどと思いましたもん!」

「ふふふありがとう!さて、今日の仕事を始めますか!」


後で少年に差し入れしよう。

何を持っていこうか考えながら、私は自分の椅子に座った。


茉優ちゃんも自分の席に座りノートパソコンに電源を入れた。


『ガチャ』

「おはようございます」「おはよう」


一人は少し眠そうに眼を擦りながら、もう一人は真っ直ぐに自分のデスクに向かった。同じ部署の河野くんと立川さんだ。

河野は茉優ちゃんの同期で二十歳組だ。髪に寝癖が軽くついている。いつもだるそうに仕事しているが、頭がよく回る後輩で私は好きだ。

立川さんはバリバリ仕事ができるOLだ。OLの鏡だ。肩まで伸びた黒い髪もいつも寝癖一つない真っ直ぐなストレートで服装もいつもパリッとしている。


「部長は今日も遅刻?」


立川さんが眼鏡をクイッとあげながらため息をついた。


「そうみたいですね~」


茉優ちゃんのパソコン画面から視線を上げて返答した。

部長はTHEおじさんで、いつものほほんとしている。今ものんびり電車で出勤中だろう...。


「そういえば。昨日、井手宛に電話があったぞ」


立川さんが席を立ち、折り返しの連絡先と名前の書いたメモを私のデスクに貼った。

メモには(広京製造 おだ)と書かれていた。


広京製造は“ヤセルクン”の製造を提携した大手製造会社だ。

私が受話器を手に取った瞬間にドアがガチャっと開いた。


「おはよう~」


部長がすまんすまんと部屋に入ってきた。座っていた私達は立ち上がり各々「おはようございます」と一礼し座った。


「井手、来客」


部長が入口を指さす。入口にはグレーのスーツを来た男性が片手に封筒を持って立っていた。


「小田さん!おはようございます!わざわざご足労いただいたんですか?」

「電話より早いと思いまして」


あははと笑ったのは広京製造の小田さんだった。まさに私が電話を掛けようとした相手だ。


「立ったまま話もあれですし1階に行きましょうか」


私はそう言って自分のパソコンを静かに閉じて席を立った。



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