episode:15 過去

「あ、小田くん今日はいいよ」

「え」


神崎を待っている間、横断幕作りを手伝おうかと思ったけど、美術部にまさかの即断りをされてしまった。他のクラスと比べてもうちの進み具合は遅い。


「今日は部活に行かなきゃいけなくて作業できないんだよね」


そう言われたら仕方ない...

今日は先に帰るか...


「じゃあ、明日手伝うよ」

「ありがとう。ホント助かるよ」


神崎にメッセージを送り、学校を後にした。







******






「誰もいないね~」


教室に戻ると、誰一人いなかった。


「神崎くんは、奏ちゃんが好きなんやね」


いきなりのまりあの発言に拍子抜けした。ちなみに俺はそんな事を一言も言ったことはない。


「そんなんじゃねーよ。幼馴染だから仲いいだけ」

「そうなんやね。うちは親の都合で転校が多くて、幼馴染どころか友達もいなかったから羨ましいなぁ」


まりあが自分の席に座り、机の上に顎をおいた。ほとんど登校しないまりあが席に座っているのは新鮮だ。まりあの席は一番後ろの席、その前が光の席で光の前の席が俺だ。


俺も自分の席に座り後ろを向いた。いつも後ろを振り向いても光しかいなかったけど、今はまりあが座っている。いつもの教室なのにまるで違う空間だ。


「親の仕事何?」


俺がまりあに問いかけた。まりあが少し俯いて話す。


「うち、お父さんがいないんよ」

「...」

「あたしが物心ついた時からお母さんは毎回違うお父さんをつれてきてな。小さい頃はお父さんてたくさんいるもんやと思ってたくらい」


まりあはそういいながら鼻で笑った。俺は反応に困り、黙っていた。


「男の人と上手くいかなくなっては引っ越して、新しい男見つけて...」

「大変だな」

「まあ、大変“だった”かな」


まりあが一瞬寂しそうな顔をした。


「亡くなったんよ」

「え?」

「急性アルコール中毒...1年前にな。それからは母親のおばあちゃん家。が、ここってわけよ」


まりあが淡々と話す。俺はジッとまりあの顔を見つめ、話を聞いた。


「おばあちゃんとお母さんは縁を切ったみたいでな。親戚とも疎遠だったから...あたしの引き取り手なかなか見つからなくて、おばあちゃんがしょうがなくあたしを引き取ったんやけど、縁を切った娘の子どもなんて厄介者やろ?なるべく自分のことは自分でしたくて学校に秘密でバイトして...まあ、バレて今はここにいるんやけどね」


意外だった。学校には来なく、男との噂が絶えないまりあが実はバイトして学費を貯めていたとか両親がいないとか...想像していた阿部まりあとは全然違った。

正直、体育祭の係をやっていなかったら知りえなかった事だろうし、知ろうともしなかっただろう。


「強いな」


話聞き終わった俺から出た一言だった。その言葉を聞いたまりあの顔はポカーンとした顔をしていた。そんなまりあの驚いている顔を見た俺も驚く。


「え?なんで驚いてる?」

「あ、いや...つ...よい...」


急に戸惑うまりあが可愛く見えた。俺は可笑しくなって笑いが込み上げてきた。


「あ~もうおしまい!調子狂うわ!」


まりあが勢いよく立ち上がり「もう帰る」と教室を出て行った。

外は薄暗くなっていた。


「俺も帰るか...」


夕日が教室内を照らしている。正直、めんどくさいと思っていた体育祭係だけど不思議と明日が楽しみになった。

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