episode:14 阿部まりあ

会議室の中には、ざっと30人以上はいるだろう。各クラスの代表がゾロゾロと教室に入ってくる。うちの学校は各学年4クラス編成で、市内では1番大きな高校になる。敷地も広く校舎も大きいため、普段他の学年がいる教室に行くことはあまりない。入学して早2年になるが、こういう行事の度に初めて見る先輩がいたりと楽しいものだ。


「おまたせ」


隣の席に座ったのは、同じクラスの堂島だ。


「もう一人って堂島だったのか」


ふと後ろの席を確認すると、同じクラスの舘優子と阿部まりあが座っていた。舘は女子バスケ部の時期エースでよく話す間柄だ。

驚いたのは、阿部まりあだ。こいつは女子の中でも浮いた存在だ。1年の時は違うクラスだったが、授業にはあまり出席しないうえに上級生の男子と校内で...なんて噂はよく聞いていた。

2年になり同じクラスになったが、教室で見かけたのは数回だ。そんな阿部まりあが静かに座っているのが不自然でしょうがない。


「神崎くん」


俺の視線に気づいたのか、阿部まりあが話しかけてきた。俺の肩がビクリと反応した。


「係になったんやね」


後ろを振り返ると、机に肘をついて爪を磨いている阿部まりあが意味深な顔をしてこちらを見ていた。なんて反応していいのか分からず「おう」と返事をした。


「透も係になったのね」


隣にいた舘がため息をついて話しかけてきた。その様子からすると、舘も誰かに頼まれたのだろう...。


「神崎は前田の代わりに請け負ってくれることになったんだよ」


隣にいた堂島が簡潔に説明してくれた。


「つーか、阿部がいるのは意外だわ!」


堂島が笑いながら、阿部まりあに声をかけた。俺も気になっていたし、ナイス堂島!


「あたしは参加する気なかったんよ?でもヤスヤスが、係になったら留年は免れるっていったから、しょうがなくやね」


それを聞いて納得した。ヤスヤスというのはうちの担任のことだろう。


「でも、参加してラッキーやわ。神崎くんとお話ししてみたかったんよ」


阿部まりあがじっとりした目で俺を見てきた。なんだか悪寒がする...。


「透はいかんよ!奏ちゃんがいるから」


隣で黙っていた舘が人差し指を立ててまりあに忠告した。俺はため息をつきながら「そんなんじゃないよ」と訂正した。幼馴染だけあって、勘違いされるのは多い。この年まで幼馴染とつるんでいるのは珍しいだろう。


「静かに~」


3年の代表らしき人物の声で教室が一気に静かになった。俺と堂島も体の向きを前に戻し、話を聞く姿勢にはいった。


集会ではこれからの予定や各クラスの役割分担の話し合いが行われた。

約1時間半の集会を終え、教室から少しづつ生徒が減っていく。


「なんかめんどくさそうやね~」


ため息をつきながら、まりあが大きく背伸びした。長い栗色の髪が大きく揺れると同時にふわりといい香りがした。


「神崎このまま帰る~?」


堂島が机の上の物を片付けながら、少し疲れた声で俺に話しかける。

約1時間半...話し合いは3年がメインで下の学年は静かに話を聞くだけだった。授業よりも長い話を聞くだけの1時間半は地獄だ。


「教室戻るわ。横断幕まだやってるかもだし」

「小田か」

「あたしは部活いく。先輩達が体育祭準備でいないからきっとグダグダやってるんだろうし...喝入れてくる」


館が鞄を肩にかけ、右手で握りこぶしを作り清々しい顔をしていた。

さすが次期エース。頼もしい限りだ。


「また明日」

「ばいばい」


館と堂島が教室から出て行った。

気が付くと他の生徒もいなくなっていて、教室には俺と阿部まりあの二人だけ...。異様な空気だ。


「神崎くんが教室いくなら、あたしも行こうかな~」


阿部まりあが甘ったるい声で言った。髪の毛先を指でくるくるしている。


「あ、そう。じゃ、いくか」

「は~い」


阿部まりあが俺の後ろをちょこちょこ付いてくる。

少しくせっ毛の長い栗色の髪が揺れる。


何を考えているか解らないし、あまり話したことはない苦手なタイプだが、男にモテるのは少しわかる気がする。


俺とまりあは特に話すことなく自分たちの教室に戻った。

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