episode:13 体育祭係

「お願い神崎!この通り!」


教室に戻ると、同じクラスの前田が神崎に頭下げていた。神崎は前田を前に困った顔をしていた。


「お前が適任なんだよ~」


前田が半泣き状態で神崎にしがみついていた。俺がいない間になにがあっただろうの。近くで現場を眺めていた堂島に声をかけた。


「なになに前田どうしたん?」

「体育祭の係、親に反対されたらしよ」


体育祭の係はクラスから、男女2名ずつ計4人が推薦や立候補により決められる。前田は去年も体育祭で係をやっていた。見ている感じ、係の仕事内容は本当にめんどくさそうで、正直誰もがやりたくないと思っているはずだ。きっと「今年もよろしく」と誰かに押し付けられた...というところだろうか。

しかし、どうして親に反対されているのだろう...。


「俺は部活があるの~」

「体育祭前は規制されているだろぉ。神崎頼むよぉ」


前田が情けない声を出しながら、神崎にしがみついたまま離れようとしない。


去年の仕事内容は、各種目ごとの人数の調節や横断幕の作成、準備や後片付けなど賃金が出てもおかしくない仕事内容だった。雑用だけでなく、クラスの盛り上げ役として、みんなをまとめ引っ張っていくリーダー的役割もある。


確かに、いつもクラスの盛り上げ役である神崎はみんなからの信頼も厚く、リーダーシップもある。俺から見ても適任だろう。

しかし、前田は前田でみんなをまとめるのがうまかったり、頭の回転の速いやつだ。俺からしたら、前田も適任である。


「あれ、どうしたの?」


ある女子の一言で教室の空気がガラリと変わった。教室の入り口に不思議そうな顔をして立っていたのは、花島だった。


「奏~?」


後ろには花島の友人の木村萌乃がいた。


「花島からも言ってやってくれないか~」


今度は花島に泣きつこうとした前田の腕を引っ張って神崎があきらめ気味にため息をついた。


「わかったよ。そん代わり、手伝える範囲でいいから協力はしろ」

「神崎~愛してるよ~」


前田は半泣きで神崎に抱き着き、ほっぺたにキスしようとしていた。

それを入り口から見ていた木村が「気持ち悪い~」と引き気味でいい、教室に笑い声が響いた。






******





「あれ、部活いかんの?」


放課後、椅子から立とうとしない神崎に話しかけた。


「これから係の集会なんだよ」

「まじ?」


なにやらこれから体育祭係のミーティングがあるらしい。話を聞くところ、全学年全クラスの代表がスローガンや規約を決める1回目の集会らしい。

...すでにめんどくさそうだ。


「そういえば、前田はなんで親に反対されてたんだ?」

「前田の兄さんが留学するとかで、実家の店の手伝いを兄さんの代わりに前田がやることになったんだと」


それを聞いて仕方がないと思ってしまった。

係をやってしまうと学校での拘束時間が増えるうえに、その上家の手伝いなんて前田の体がもたないだろう...。


「来週から部活の時間規制始まるし、どんだけ体育祭に力入れてるんだよ」


やれやれと神崎が肩をガクリと落とした。

「がんばれよ」としか声をかけることができなかった。


「そういえば、横断幕のほうは?」


思い出したかのように神崎が顔を上げた。


「先週手伝ったときは4割完成ってところだったな」


横断幕はクラスの美術部を中心に1ヵ月前から制作を始めている。横断幕にも“美術賞”という枠で得点に加算されるため、力を入れてるクラス(特に3年生とか)はもっと前から制作をしているらしい。

うちのクラスの美術部は他のクラスに比べ少ないため、係や部活に属していない人は積極的に手伝うことにしている。


「げっ。4時半だ。行くわ」


神崎は嫌々と重そうに身体を起こすと、鞄を手に取り「じゃあな」とおれに向かって手を振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る