episode:11 キス

『ピピピピッピピピピッ・・・』


枕の下から煩わしい音が鳴り響く。いつもとは違う布団の感触に違和感を覚えながら枕の下にあるスマホに手を伸ばす。目はまだ覚めきっていない。


「ん~」


半ば寝ぼけながら横に手を伸ばすと、何やら物体があり、もぞもぞ動いていた。


ここは...どこだ...?


ボーッとする頭で横を見ると俺の横に髪の毛で覆われた塊があるではないか。

怖いのが苦手な俺は思わず叫んだ。


隣に寝ていたのはもちろん井手さんで、井手さんが俺の声に飛び上がるように起きた。


「なっ?!どうした?」


怯えながら井手さんが布団の中に潜る。子どものようだ。


「すいません...寝ぼけていました...」


井手さんに頭を下げると、井手さんは俺の肩をポカポカ叩く。


「も~う!やめてよ~」

「すいませんって」


井手さんとの戯れを終え、俺たちはホテルを出る準備をする。

アパートまでは15分~20分程。いくら朝方とはいえ、高校生とホテルから出てくるOL...見つかったらヤバいだろう。


「俺、先に出ますね」

「では、我はシャワー浴びていきます」


井手さんが謎に敬礼をしてニコリと微笑んだ。


「あ、金...」


そう言って財布を取ろうとした俺の手を掴み、井手さんが優しく微笑む。


「出させるわけにはいかないよ」


こんな高級な部屋に泊まっておきながら、いくら自分の意志じゃなくとも1円も出さないのは気が引けた。


「お姉さんに任せなさい!」


さっきより強い口調で井手さんが言った。俺は諦め、財布を上着の中にしまった。


「気をつけて下さいね」


俺はそう言い、部屋のドアノブに手をかけた。


「あ」


後ろから井手さんの声がし、振り返る。

井手さんの唇が俺の頬に優しくあたる。俺は固まり、井手さんの顔を見る。


「フフフ。間抜けな顔」


そう言われ、俺は顔から火が出そうな思いだった。

完全にからかわれている...。

悔しさを感じながら部屋を出た。





******





「はよ」


朝礼開始ギリギリに席に着いた。俺は後ろの席の神崎に挨拶した。

席につき、鞄から教科書を引っ張り出す。


「お前あほか?」


準備している俺に神崎が耳打ちした。

俺はなんのことわからず聞き返した。


「昨日、見た」


その二言に俺は神崎の方を勢いよく振り返った。


「しかも奏と」


俺は頭を抱えた。どの場面のことを言っているかは分からないが、どの場面も好きな子に見られていいものではなかったからだ。


俺が説明に困っていると、担任が教室に入ってきた。

朝礼が始まり、教室が静かになる。


俺は神崎に説明する話をまとめていた。まるで彼女に浮気現場を見られて、言い訳を考えている彼氏の気分だ。

神崎に説明する義理はないと思うかもしれない...。しかし、神崎は俺の背中を押してくれる唯一無二の友人であり、一見ただのチャラ男に見えるが話の芯が通った奴だ。花島もそうだが、神崎にも失望はされたくない。


気が付くと朝礼が終わっていた。1限目は他のクラスと合同授業のため、教室移動だ。


俺は移動時間で神崎に説明した。

話を聞いていた神崎は浮かない顔をしていたが、俺は隠さず全て話した。

話を聞き終わった神崎はため息をついた。


「まあ...わかったけどさ...奏にはなんて説明するんだよ」


俺もそれが一番困っていることなのだ。神崎とは違い、全てを話すべきではないだろう。簡潔に且つ納得のいく理由が必要だろう。


「とりあえず休み時間に話す。変に勘違いされたまま終わりたくない」


神崎が無言で頷いた。

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