episode:10.5 目撃
「よっ」
裏口を出ると透くんが片手にビニール傘を持って座っていた。
透くんは毎回、バイト終わりに迎えに来てくれる。
時間は20時半になるところだ。
「おまたせ~」
へとへとしながら透くんから傘を受け取った。
今日のバイトは17時から19時半のショートシフトだったが、急遽1時間の残業になってしまった。私のバイトしているコンビニは、学校付近というのもあってか客足は多い方だ。
雨は夕方より強くなっていた。
「あ、1時間前くらいに小田くんが来たの」
「え?」
「急いでたみたい」
透くんの顔を見ると、眉間にしわを寄せていた。
傘から雨がたくさん零れ落ちる。ローファの防水効果が限界のようで、ソックスがじわじわ濡れていくのが分かる。
家まではバイト先から約10分の所にある。
透くんの家は私の家の向かいにあり、小さい頃から家族ぐるみで仲がいい。よく両親同士で旅行に行くほどだ。そのたびに、私と私の姉と透くんと3人でお留守番していた。
道路が次第に大きくなり、バイパス通りにでる。いつもの道だ。
「うわ~。モール混んでるね」
20時半だというのにモールの駐車場はほぼほぼ埋まっていた。店はレストランとゲームセンター、ホテルだけが営業している。駅前という事もあり、平日でも夜遅くまで営業している。
私たちの家からモールはすぐで、家の窓から一望できるほど近い。学校への道は、必ずモールの周辺を通って帰る。
雨で歩行者はいつもより少ないが、モールだけがいつも通りだ。
モールの入口に差し掛かったとき、ゲートの向こう側に見慣れた制服を来た人影が見えた。ここは学校の近くだから、うちの生徒がいるは珍しくない。むしろたまり場と言える程だ。
だけど、その人影にはよく見覚えがあった。
「.....小田くん...?」
ゲートの向こう側...もう閉店していた店の前にいたのは、間違うはずもなく小田くんだった。
小田くんの向かいにも誰か立っている。店が暗くなっていて、顔は見えない。
「あいつ...なにして...」
透くんがいいかけて、ハッとした顔をしていた。
車のライトが小田くんと向かいにいる人物を照らす。
「えっ...井手さん...」
小田くんと向かいにいたのは井手さんだ。
何を話しているか、何をしているかは見えない。
どうしてこんな時間にこんな所に...?
頭がグルグルして、胸の奥がぎゅっとなった。鼓動が早くなる。
井手さんが小田くんの手を引っ張り雨の中走っていくのが見えた。向かった先は...
「わっ!」
透くんに手を引っ張られ思わず声が出た。
「帰ろう」
透くんの顔はすごく切なそうだった。私を心配してくれてるんだろうな...。透くんが私の手を優しく握った。温もりに涙が出てくる。
「うん...」
小田くんと井手さんが向かった先を隠すように透くんは私の手を引っ張った。
でもね、私にはちゃんと見えてたよ...。
私は透くんの手を握り返し、ゆっくり歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます