episode:7 メッセージ

「なにしてん?」


神崎の声で顔を上げた。向かいの席にいる神崎が俺のスマホを覗きながら怪しげな顔をしていた。


「LINE」


そう返事だけして、またスマホの方に集中する。

今は物理の授業でいつもとは違う教室で授業だ。授業中のスマホはご法度だが、物理室のテーブルは特殊な作りをしていて、一番後ろの俺の位置は先生からしたら死角の席だ。

普段は授業中にスマホ操作はしないのだが、今日はスマホを見てないとどうもソワソワしてしまう。なぜなら、目を離した隙に何十件という量の通知が来ているからだ。


数日前から、井手さんから託された「ヤセルクン」を使っているのだが、そのことで井手さんとやり取りをしている。今までは、あまりいい印象は持っていなかったのだが、やり取りしてみると不思議なもので意外と仕事熱心でしかっりしていることが分かった。

時間が合わないせいか同じアパートに住んでいるが、朝食を作ってもらったあの日から井手さんを目撃していない。


スマホの画面が少し明るくなった。井手さんからのメッセージだ。


【つまり歩数測定のほかに体重測定ができたら便利ってこと?】


「ヤセルクン」は有名なシューズブランドと提携し、デザイン性やフィット感・安定性が押しの商品というだという。しかも他の企業が出しているステップ台よりも安価らしい。


【はい。ステップ台といえばお年寄りが使うイメージがありますが、デザイン性からして若い女性に売り込みたいのかなと思いまして...。若い人が使うのであれば、ダイエットのために使用が一般的だと思います。それなら体重測定もできる機能があれば便利かなと思いまして...。】


何度か書き直し、簡易的に自分の意見をまとめた。

しかし、ダイエット商品として売り込みたいものをなぜ男の俺が試供しているのだろう...。疑問に思ったが深く考えないでおこうと思った。


井手さんからすぐ返信が来た。


【貴重な意見ありがとう!早速上司に伝えます!】

【その試供品は少年にあげるよ。いらなかったら、お母さんにでもあげて!】


いくら安価とはいえ、高校生にとっては大金になる。しばらくは自分で使っておこう。

返信をしないうちに、またメッセージが届いた。


【今日暇?】

【18時半に街中のスーパーモール入り口で待ってます♡】


ドキッとした。きっとお礼かなにかだろう。

17年生きてきて年上の人と外で待ち合わせするなんてことは初めてだろう。


「井手さんに誘われた」


向かいにいた神崎にコソコソと話す。危なく大きな声を出そうとしている神崎にひたすら「シーッ!」と合図をした。


「なんでよ」

「お礼だと思う。試供終わったから」


フーンと神崎が顔を曇らせる。


「奏は?いいのかよ。好きな女いるくせに大人の女性と楽しくデートなんて」


神崎のいった言葉に少しぎっくとした。別に井手さんとなにかやましいことをするわけではない。しかし、よく考えればそうだ。今日、井手さんと会うことによって後に地雷になるのだけは避けたい。


チラッと斜め前のテーブルにいる花島を見た。隣の女子と楽しそうに話していた。


花島は学年の中で断トツで美人だ。高い鼻に大きな目、サラサラと柔らかそうな髪。おまけにスタイルもいい。男子にも女子にも人気がある。

先週も3年の男子から告られたという話を聞いた。

おれが知る限り、人の悪口を言ったりしない。まるで漫画の中から飛び出してきたヒロインのような存在だった。


俺が見つめすぎたせいなのか視線を感じたのか、花島と目が合った。

花島は目が合ったことに驚いたのか、少し照れ臭そうにはにかんだ。


「断る」


例え片想いだとは言え、好きな子以外の女の人と外で待ち合わせるのは、やましいことがなくてもやめたほうがいいだろう。

神崎も「うんうん」と頷いていた。神崎は毎回こうやって俺と花島のことを考えて話を聞いてくれる。普段はチャラいやつだけど、頼りになるしホントに感謝している。


【すいません。今日は無理そうです...】


送信したが返事はなかった。

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