episode:3 体育
「はあ!?なんもなかったのかよ!」
神崎はそういって頭を抱えた。
頭を抱えたいのは俺の方なんだよ、と言おうとしたがやめた。
「そこの2人!ちゃんと走らないと、もう一周走らせるぞ!」
ピピピーと笛を鳴らしたのは、体育の先生で、現在絶賛授業中だ。注意されたのは、もちろん神崎と俺。
昨日の出来事を走りながら神崎に話した。
「そんで、2階の住人に邪魔された挙句にバイトを任されたと...あほか」
「故意じゃないわ」
「2階の人は若い人なん?」
「うーん。20代半ばから後半くらいのひとかな。俺もあんまり関わったことないんだよね。時間帯的に合わないのかも」
「ふーん」
「お前らー!!!もう1周な!」
先生にまた笛を鳴らす。
「あほやなぁ神崎小田」と他の連中が笑っている中を渋々走った。
******
今日は男子は外か...
体育館の中から校庭をチラッと確認した。体育の授業は男女別で、女子は体育館でバレーだ。バレーの審判をしつつ、旗を持ちながら横目で男子の中から姿を探す。
「奏どうした~?」
外を眺めている私に親友の萌ちゃんが肩にちょこんと顔を乗せてきた。
「あ、うん」
男子の方を見ていることが急に恥ずかしくなり、そっと目をそらした。「はは~ん」といってニヤニヤする萌ちゃんに自分の顔が赤くなるのがわかる。
「付き合わないの?」
萌ちゃんの目線の先には、校庭を走っている小田くんと透くんがいた。
私は小田くんが好き。同じクラスになった3か月前から片想いをしている。きっかけは日直の仕事を手伝ってくれた時...。先生に頼まれた重い参考書を代わりに持ってくれた。そんな些細な出来事だけど、見返りを求めない優しさに気づいた時から少しづつ小田くんが気になり、目で追うようになっていた。
まさか、透くんが小田くんと仲良くなるなんて思わなかった。ラッキーと思ってしまった私ってズルい...のかな?
「ほんとは昨日ね...」
好きですって言おうとした。でも、小田くん病み上がりだったし...いろいろあったから結局言えずじまいなんだけど。
私は言葉を濁らせた。萌ちゃんには小田くんの話をしたことはないけど、朝の透くんの言葉を聞いて感づいたんだとおもう...。
「あたしはあいつとはあんまし話したことないし、よく知らないから何にも言えないんだけど、奏のことは応援してるから。いつでも話聞くし」
萌ちゃんが私の肩をポンポンと叩く。
萌ちゃんはサバサバした性格で物事をはっきり言う。でも、嫌みなことは言わないし、みんなから慕われている私の自慢の親友だ。
「ありがとう」
私は萌ちゃんに微笑んだ。
******
「じゃーな!」
「おう。部活がんばれよ」
下校の時間になった。不思議なもので朝は行きたくない気持ちの一点張りなのだが、登校してしまうと1日は早い。部活のある神崎とは玄関で別れた。神崎は運動神経がよくバスケ部でも次期エースと言われている。おまけに顔もいい。今までは、漫画でしか見なかった“下駄箱にラブレター”は神崎のおかげで見ることができた。しかし、どんなに可愛い子に告白されても毎回断っているようで...だれか好きな人でもいるのか...。彼女がいたという話は1度も聞いたことがないし、むしろ神崎はあんまり自分の話をしない。...したがらないと言ったほうが正しいかもしれない。
学校から家までは約10分。めちゃくちゃ近いのだ。
いろいろ考え事をしているうちにもう目の前にアパートが見える。
15時半になる。華の高校生がこんな早い時間に帰宅していいものなのか、むしろ不健全なのではとも思ってしまう。
鞄から家の鍵を出し、玄関を開ける。
部屋はシンプルで必要のない物は置かない主義だ。...というより、部屋のほとんどのものは兄ちゃんが揃えたものたちをそのまま使っている。
部屋に入るなり制服をぶん投げて、ベッドにダイブした。
この瞬間が最高に気持ちいい。
体育で走らされた足が地味に悲鳴を上げていた。そんなこともあってか、天気の良さと気温の良さでうとうとしてきた。このまま寝てしまいそうだ。
重い瞼をゆっくり開けると、視線の先には「ヤセルクン」があった。
試してといわれたけど...まいっか。
重力には逆らえず、そのまま瞼を閉じた。
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