episode:2 幼馴染
「よーう!風邪、大丈夫だったか?」
顔を合わせた瞬間に俺の肩に軽いパンチをしてきたのは、同じクラスの神崎だ。
神崎と仲良くなったのは、つい最近。席替えで席が前後になってからで、それまではチャラチャラしてて目立つやつだなぁくらいにしか思っていなかった。
「うん。インフルとかじゃなくてよかったよ。まだ咳が少し出るくらいかな」
そう返事をして、自分の机の脇にカバンをかけた。俺が椅子に座るのをみて、神崎も自分の席に座った。実は、ここ何日か体調を崩していて、今日は4日ぶりの登校だ。
「なあ!聞かせろよ!俺のファインプレーの結果!」
神崎が俺の椅子をグイっと自分の方に引っ張った。
...ファインプレー?
神崎の言ってる事を理解するまで時間がかかった。なんのことを指しているかわからずに、きょとんとした顔をした。
「とぼけんなよ!奏が家に行ったろ?」
神崎がムッとしながら小声で訴えた。“奏”という単語を聞いた瞬間、ハッとして目を見開いて神崎の顔を見た。ヒヒヒと悪戯な笑みを浮かべている。
「神崎の仕業かよ...」
「いや~3日も4日も学校来ないから、そろそろ奏が恋しくなってるんじゃないかと...」
普通に考えておかしいことに今更気づいた。
俺は今まで花島に家を教えたことはない。むしろこの学校で俺のアパートの場所を知っているのは、担任と神崎くらいだろう。
昨日、花島は突然家にやってきて休んでいた分のプリントや消化によさそうな物を買って持ってきてくれた。まだ本調子じゃなかったにしろ、なんで疑問に思わなかったんだ...。
「言っておくけど、俺が頼んだわけじゃないぞ?」
神崎がそう言った瞬間、俺は背後に気配を感じ振り返った。
「小田くん、おはよう。体調大丈夫?」
花島だ。急いで登校したのか、少し息をきらしている。時計を見るとそろそろ朝礼が始まる時間だ。
「おはよう、昨日はありがとう」
「ううん、大丈夫そうでよかった」
花島はニコリと微笑んだ。天使だ。
「俺には挨拶なしかい」
後ろから神崎が顔をのぞかせた。
「あ、いたんだ...おはよう透くん」
「一言余計なんだよ。もうあっちいけ。ボーイズトークの邪魔すんな」
神崎は花島向かって追い払うように手を仰がせた。花島は頬を膨らませている。
神崎と花島は幼馴染で、神崎曰く腐れ縁らしい。幼馴染という存在がいない俺からしたら、すごく羨ましく微笑ましい関係だ。
「病み上がりの小田くんに少しでも無理させたら、一生呪ってやる!」
花島が舌をべっと出して自分の席に戻ろうとした。
「昨日、風邪移るようなことしてないだろうな~?」
神崎が教室に聞こえるようにわざとボリュームをあげて自分の席に座ろうとした花島に話しかけた。座ろうとした花島の動きがピタリと止まる。俺の動きもピタリと止まる。教室内がタイミング良く静かになってしまい、神崎の声が静かに教室全体に響いた。みんなの視線が"風邪”という単語を聞いて、ゆっくりと俺の方にスライドしてくるのを感じる。
横目で神崎を見ると、俺は知らないぞ~と言わんばかりに鼻歌を歌っている。
「ほーい、おはよう」
教室の沈黙を破るように、席に就け~と教室に担任が入ってきた。
静まりかえっていたいた教室がまたざわざわと動き始める。安心した。
今日ほど担任に感謝したことはないかもしれない。
今日ほど友人に殺意を抱いたことはない。
後ろから「すまん、すまん」と聞こえた。俺はため息をつき、横目で花島を見た。
頬を赤らめて、両手で顔を隠している。そんな姿も可愛すぎて、俺の心臓がきゅうっとなった。
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