第202話 時代




 ミルの案内で森の中を進む。流石森の民だけあって彼の案内は適切で、迷うこと無くスムーズに進むことができた。




「とりあえず近くの村を目的に進みましょう。しかし・・・二人で魔王軍と戦うのは不可能といえるでしょう。何か策はおありですかハヤミ殿」




 ミルの問いに、速見は顔をしかめた。




「正面突破は難しいな・・・しかも相手は千里眼を持つという魔王サジタリウス。こういう数が足りない場合は奇襲、奇策を仕掛けるのがセオリーなんだが・・・・・・千里眼相手じゃ奇襲の類いは望めそうにねえな」




「ええ、しかも我らの元に使いを差し向けたからには動向に注意している筈・・・今この瞬間にも、魔王の矢が降ってこないとも限りません」




 千里眼。敵に回すとこれほどまでにやっかいなものか。今の速見には良い策が全くと言って良いほど思い浮かばなかった。




(・・・とりあえず近隣の村に向かう。一人悩んでいても何も始まらねえ)




 ブルリと頭を振るう。




 別に策を練るのが得意という訳でも無い。一人考えた所でこの戦力差を覆す策が浮かぶはずも無かった。




 人手が足りない。




 この時代には魔王と相対する勇者はいないのだろうか?




 ”この時代”




 そう、速見はもう気がついている。




 魔王サジタリウスと、そして森の民達の証言。




 恐らくここは、速見が魔神と戦った時よりもずっと過去の世界。




 何も不思議な事はない。クレアが言っていたではないか。




 次元の裂け目なんてものは珍しいものではないと。




 そして速見と、勇者との間には100年という時間の差があった。つまり次元の裂け目とは時間ですら超越しえるということ。




 恐らくは魔神の一撃により、この次元に裂け目が生まれ、この世界にとって異物である速見が吸い込まれた。




 そして何の因果か、速見と同じ千里眼を持つ魔王サジタリウスの時代へと飛ばされたのだろう。




 無茶苦茶な話だ。




 しかし好機でもある。




 この時代にはまだ魔神は復活していない。




 つまり、速見自身の働きで、魔神の復活を阻止できる可能性がある・・・・・・。




(・・・・・・っふ、気が早かったな。まずは魔王サジタリウスを攻略してからだ)




 やるべき事はたくさんある。




 まとめて解決できるほど、速見は器用ではない。




 一つずつ、出来ることからやっていけばいい。




 速見は、背負った新たな相棒、”魔弓アウストラリス”をギュッと握り締めたのだった。






◇ 

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