第201話 出立






 速見は集落を立つ準備を始めていた。




 体力はまだ万全ではない。しかしそれは今動かない理由にはならなかった。




 ノアは生け捕りにされたが、攫われた理由がわからない以上、命の保証は無い。一刻も早く助け出さなければならないのだ。




 少し前にたまたま出会っただけの子供に命を賭けるなんて馬鹿な事かもしれない。速見自身、自分の事を善人だなんて考えた事は無かった。




 しかし、何故だろうか。見捨てる気にはなれなかった。見知らぬ土地で一緒に時間を過ごしたからだろうか?




「・・・・・・いや、関係ねえな。そもそも魔王サジタリウスには聞きてえ事もある・・・・・・ごちゃごちゃ考えてる暇はねえ、か」




 フッと息を吐き出して速見は立ち上がる。肩に担いだ魔弓アウストラリスの重みがズシリと感じられ、頼もしい。




 準備した武装は全て森の民の好意でいただいたものだ。里長は大した助力は出来ないと言っていたが、赤の他人である(しかも他の種族である)速見に対して、当たり前のようにこれだけ手助けをしてくれるということは、森の民は本当に親切な種族なのだろう。




 支度を終えた速見が部屋の扉を開けると、何故かそこには優しく微笑みを称えたミルが立っていた。




「おう、ミル。なんだ、見送りに来てくれたのか?」




 速見の言葉に、ミルはニコリと微笑んだ。




「いいえ、見送りではありませんよ。私もアナタについていきます」




 サラリとそう言ったミルを、速見はゆっくりと瞬きをしながら凝視した。二三、口を開閉し、言葉を選びながら問いかける。




「それがどういうことか・・・・・・わかっているのか?」




「ええ、魔王と対する意味は知っています。それに、魔王サジタリウスとは、浅からぬ因縁がありましてね・・・・・・」




 魔王サジタリウスはこの集落の出身であるという。真剣な表情をするミルに、速見は静かに頷いた。




「・・・・・・わかった。よろしく頼む」




「ええ、迷惑はかけません。よろしくお願いします」






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