第190話 森の民

「・・・何から何まですまないなミル。生憎今の俺には何も返せそうにないが・・・」




 当たり前のように食事を運んできたミルに、速見はすまなそうな顔をして頭を下げた。




「気にしないでください速見殿、何も私は見返りが欲しくてやっているわけでは無いのだから・・・・・・それに、あんな簡素な武器でグレードベアと戦うなど、何か深い訳があるのでしょう?」




「そうだな・・・・・・何から話せばいいのやら・・・」




「無理に話さなくてもいいです。今は体を治す事に専念してください」




「・・・・・・助かるよ。ありがとう」




「どういたしまして。では私は失礼します。精霊の加護があらんことを」




 パチリとウインクをして部屋から去って行くミル。速見の体調を気遣ってか、ノアは里の年老いた森の民が面倒を見ているそうだ。




 彼が運んできた木製の椀には、どうやら豆のようなモノが煮込まれた薄茶色のスープが入っているようだった。




 まだほんのりと暖かいそのスープを一口すする。




「・・・・・・まあ、マズいってこたあねえが・・・・・随分と薄味なスープだな」




 森の民が塩を使う習慣が無いのか、それとも体が弱っている速見を気遣ったのかはわからないが、豆が煮込まれたスープにはほとんど味付けがされていなかった。




 しかしまったく手が加えられていないという訳でも無いようで、素朴な豆の味の奥に、ふわりと何か香料のような風味が香った。




 マズいわけでは無いのだが、少し物足りない。しかし腹を満たせるだけありがたかった。




 薄味のスープをのみながらのんびりしていると、急に速見の右目が激しい痛みに襲われた。あまりの痛みに、思わず手にしていた木製の器を落としてしまう。




「・・・ッツ!? なんだこの痛み・・・」




 やがてたらりと右目から一筋の血が流れる。




 脳がオーバーヒートしているような感覚。この感覚は、覚えがある。千里眼の能力を使いすぎたときの・・・あの、感覚・・・。




「・・・・・・!?」




 カッと右目が開かれる。本人の意志とは関係なく強制的に発動される千里眼。そこに写されたのは・・・・・・。




「やべえ!?」




 バッとベッドから飛び起きた速見。彼は慌てたように部屋から飛びだすのだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る