第191話 飛来

 部屋の扉を乱暴に開き、勢いよく飛びだす速見。ダメージが抜けきっていない体がミシミシと悲鳴をあげるが、それを無視して全力で駆けだした。




 視界に広がるは、ずっとベッドに寝ていた速見に取っては初めて見る ”森の民”の集落の姿。




 鮮やかな緑色の毛髪をした、見目麗しい森の民達が、全力で疾走する速見の姿を興味深そうに見ていた。




 本来なら傷の治療をしてくれた礼を言うべきなのだろうが、今はそんな暇は無かった。




 先程千里眼で確認した道を全力で駆ける。やがて集落の外れにある、少し開けた原っぱにたどり着いた。




 そこには、元気いっぱいに遊んでいるノアと、それを優しげな顔で見守るミルの姿。




 速見は喉が枯れんばかりに大声で忠告をする。




「二人とも!! そこから離れろ!!」




 速見の言葉に、ノアはキョトンと振り返る。言葉が通じない事もあってか、その場から動く様子は無い。




 しかし隣りにいたミルは流石のもので、速見のただならぬ様子を感じると、素早くノアを抱えてその場から離れる。




 次の瞬間、空から飛来した何かが、先程まで二人がいた原っぱに衝突した。




 大地を揺るがすような衝撃と、何かが焦げつくような鼻を刺す刺激臭。速見は臨戦態勢を維持しながら、ノアを庇っているミルと合流した。




「・・・・・・あれは何ですかなハヤミ殿?」




 ミルの疑問に、ハヤミは静かに首を横に振った。




「わからない・・・が、このままじゃやべえって事だけはわかる」




 苦しそうにそう言いながら、速見の右目からは絶え間なく血が流れ出ていた。




「その右目・・・」




 心配するミルを、速見は静かに手で制する。




「心配は後だ・・・ミル、武器は持っているか?」




「護身用の弓と、矢筒を一つ持ってきています。本数は十五・・・これはハヤミ殿に渡しておきましょう」




 手渡された弓を受け取りながら、速見は疑問を投げかけた。




「ありがたいが・・・アンタは武器無しで大丈夫なのか?」




「我ら森の民は、精霊の秘奥を扱う術をもっています。お気になさらず」




 そんな会話をしているうちに、モウモウと舞い上がっていた土煙が収まり、ソレが姿を表した。



 シルエットは人型・・・しかしその大きさは常人より二回りほど大きいようだった。土色の肌と、風になびく白髪。爛々と光る赤色の両目が、ヒタと速見を見据えた。



 土色の肌をした魔族がゆっくりと口を開く。



「・・・なんと面妖な。お前は魔族か? それとも人か?」


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