第184話 見知らぬ地
どうやら鳥に襲われているのは人のようだった。
かなり小さな人影だ・・・子供だろうか? 鳥の鋭いクチバシから身を守るため、背を丸めて地面にうずくまっている。
気がつくと体が動いていた。
素早い動きで弓に矢をつがえると、一瞬で狙いを定めて射出する。超人的な集中力で放たれたその速射は、放った本人も驚くほどの正確さで小さな鳥の体を射抜いた。
仲間が急に殺された事で動揺する鳥たち。その隙を逃さず第二射を発射する。
次々と死んでいく仲間の姿を見て、意味はわからぬままにこの場所は危険だと悟ったのか、鳥たちは方々に逃げ去った。
短く息を吐き出す。慣れない弓での射撃は本当に集中力が必要な事だった。
軽く頭を振ってからうずくまっている人影に向かって歩き出した。近寄ると、やはり体が小さくどうやら子供のようだった。
「おい、大丈夫か? 鳥ならもういねえぞ」
速見の言葉に、うずくまっていた人物はゆっくりと顔を上げた。
泥にまみれて薄汚れてはいるが、顔のつくりは存外整っているようだった。ぺたりと顔に張り付いた長い黒髪と、スッと通った形の良い鼻。見た目は10~12才ほどの少女に見える。
少女は恐れの色が見える瞳を速見を見上げ、小さな声で何かを呟いた。しかしその言葉は速見には理解不能な言語で、どうやら少女と言葉を交わすのは難しそうだと悟らせられた。
(・・・聞いたことのない言語だ。この世界の共通言語も通じている様子は無い・・・か)
この世界には、各地域にのみ通じる所謂 ”方言”のような言語と、どの国でも共通で通じる ”共通言語” の二種類の言語が存在する。
速見がこの世界に迷い込んで20年、この ”共通言語” が通じない相手と出会ったのは始めての経験だった。
(しっかしガリガリだな、このガキは。・・・・・・マルクとシャロを拾った時の事を思い出すぜ)
懐かしくなってフッと笑みを浮かべる速見。急に笑みを浮かべた見知らぬ男に警戒している少女に、身振りでついてくるようにと促した。
(・・・・・・別に俺は善人じゃあねえが・・・・これも何かの縁ってやつだろ)
◇
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