第183話 見知らぬ地
ポケットを探るが、どうやらマッチはどこかに落としてしまったらしい。ならばその場にあるものでどうにかするしか無いだろう。
幸いにも手元にはナイフがある。仕留めた獲物を担いだ速見は、たき火に適した開けた場所まで移動すると火起こしを開始する。
乾いた木の枝を近辺から拾い集め、枯れた草木が見つかったので採取して火口とした。手頃な石を用意、火口の上に構える。
鋼鉄と石を打ちあわせると火花が置き、火種になる。もうこんな原始的な火起こしなど、することは無いと思っていたのだが・・・昔学んだ知識というものは、無駄にはならないものだとしみじみ感じた。
パチパチと楽しげな音を奏でるたき火と、それに炙られている肉を眺めながら、速見は自身の体が酷く冷え切っていた事を悟った。
炎の暖かさがじんわりと体を温めて心地よい。
(・・・そろそろ焼けたころか)
ぼんやりと肉の焼け具合をみて、木の枝に刺して炙っていた獣の肉を火から外す。熱々のソレを、息を吹きかけて少し冷ましてから大口でかぶりついた。
堅く筋張った肉。火は通っているようだが、お世辞にも旨いとはいえない。だが空腹の腹にじんわりとしみるような暖かさが、速見の活力へと変わっていくようだった。
腹が満ちてくると思考もクリアになる。獣の肉を頬張りながら、速見はこれからの事を考え始めた。
(まずは他の皆の生存確認・・・これが重要だ。あれからどれくらいの時間がたった? 場合によってはすでに魔神が完全復活している可能性も考えなくちゃな)
こうして肉を頬張っている現実がある以上、世界の全てが焦土と化した訳では無いようだが、まだ他の人間を見ていない。もしかしたらすでに魔神の虐殺は終わっていて、人類が滅亡したなんて事もありえる。
仲間の無事を確かめるにせよ、世界の現状を知るにせよ、この場所がどこかもわからないこの状態で、最も近道となる方法は右目の千里眼だろう。
ならば今バタバタしていても仕方がない。しっかり栄養を取り、休息して千里眼の回復をはかるのが最善。
速見は静かに頷くと、残った肉を一気に口に放り込んで飲み込んだ。
火の処理をしてから今日のねぐらを求めて彷徨う。獣避けに火をつけたまま野宿することも考えたが、速見は火を消す事を選択した。
確かに火は獣を寄せ付けない・・・だが獣以外に対しては、わざわざこちらの居場所を教えることになってしまう。
これはただのサバイバルでは無い。魔神の手下がこちらの命を狙っている可能性も考慮しなくてはならないのだから・・・。
しばらく歩いていると、何やら少し離れた場所で騒音が聞こえる事に気がついた。
瞬時に気配を殺して木の陰に隠れる。そっと騒音の先を見ると、複数の鳥が何かを襲っているようだった。
肉食の鳥が弱った動物を襲うことはよくあることだ・・・先ほどの騒音は鳥の羽音だったらしい。
さらに目を凝らしてよくみると、鳥に襲われている何者かの姿がぼんやりと浮かび上がってきた。
「・・・・・・人か?」
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