第137話 帝国軍VS王国騎士団

「・・・全体の三分の一ほどか、悪くない」





 こちらに向かって怒濤の勢いで突撃してくる世界最強の騎士団の姿を見て、レイ将軍は冷徹な表情でポツリと呟いた。





 レイ・ヴァハフント将軍。





 鋭き眼を持つこの老兵は強大なるグランツ帝国の最高戦力。世界最強の名は騎士アルフレートのモノとなっているが、レイの長年の経験から来る状況判断能力と軍の指揮能力はアルフレートより勝っている。





 数では圧倒的に帝国軍が上、そして世界最強の軍とはいえ騎士団が歩兵の集まりである以上、いかに戦闘能力に差があっても同数の歩兵をあてがえばその足は止まる。





 そしてレイ将軍にとって一番回避せねばならぬ事は女帝陛下より賜ったスマッシャー部隊の敗北・・・それに比べれば他の犠牲など些細なものだった。





 ならば何を迷うことがあろうか? ここに集いしは陛下にその心臓を捧げた帝国の兵士達、勝利の布石になるのならその命を散らすことを微塵も恐れはしない猛者達だ。





「スマッシャー部隊は下がれ。歩兵隊前へ!」





 レイ将軍の指揮でスマッシャー部隊が後方へ下がると、同時に先ほどとは別の歩兵部隊が前進する。





「貴様らの命を偉大なる陛下へ捧げろ! 突撃ぃ!」





「「「グランツ帝国に栄光あれ!」」」





 先ほどの戦闘で自らの命が捨て駒にされると分かっているのに、歩兵達は将軍の指揮の下に鬨の声を上げて目の前の敵に突き進んでいく。それはまさしく祖国への愛が生んだ純然たる狂気であった。





 ぶつかり合う二つの軍。そしてソレを確認した将軍は他の兵に指示を飛ばして全力で後方へ引かせる。





 十分に距離を取った後くるりと反転、スマッシャー部隊を前線に立たせた。





「スマッシャー部隊、構えぃ!」





 その号令で一斉に銃口を戦場へ向けるスマッシャー部隊。その射線上には敵味方入り乱れる地上戦の姿。





(さて、そろそろ兵の消耗も痛い・・・できればこれで終いにしたいものだが・・・)





 そして大きく息を吸い込んだレイ将軍は大気を振るわず銅鑼声で指示を飛ばす。





「撃てぇえぃ!!」





 放たれた8千の銃弾は無慈悲に大気を裂いて突き進み、剣を交える王国騎士と帝国軍を分け隔て無く肉塊へと変えてゆく。





「まだだ! 手を緩めるな! 第二射用意!」





 すかさず次弾の指示を飛ばすレイ将軍。スマッシャー部隊は弾の装填を開始する。





 敵軍の被害は甚大、こちらまではまだ少し距離がある。落ちついて追い打ちをかければもう勝ったも同然だ。





 レイ将軍が勝利を確信したその次の瞬間、ソレは起こった。





 戦場から放たれた一筋の光線がスマッシャー部隊の右半分を一瞬にして焼き尽くす。何が起こったのか理解が出来ない、将軍の額からたらりと一筋の汗が流れ落ちた。





「・・・あまりにも理不尽な力だから、本当は使いたくなかったんだけどね・・・まあ、理不尽は君たちの新兵器も同じ事かな?」





 そう呟いて冷ややかな瞳で帝国軍を見据える史上最強の騎士。その手には太陽の聖剣が握られている。





「さて、覚悟しなよ? 私は本当に強いからね」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る