第12話 冒険者ランク

「ワタクシですわ!!」





 バン!!


 と激しい音を立ててギルドのドアが開かれる。





 それと供に入ってきた女は見事なブロンドの髪をなびかせて変な決めポーズをとりながら格好つけていた。





「ああエリザベートさん久しぶりですね。例の話正式に決まりましたよ」





 エリザのその奇行に慣れたような対応をする受付嬢。にっこりと営業スマイルで出迎えるとこっちですよと可愛らしく手招きをする。





「そうでしたのね! それで・・・どうなりましたの?」





 エリザの言葉に受付嬢はニヤリと笑みを深め、新しく発光されたギルドカードをエリザに差し出した。





「おめでとうございますエリザベート・リッシュ・クラージュさん! 今回の査定でアナタは見事Aランク冒険者の資格を手にしました」





「グレイト! やりましたわ!!」





 Aランク冒険者。


 それはエリート中のエリートである証。





 BランクからAランクに上がれる冒険者は全体の5パーセントに満たないと言われており、そのランクの過酷さがうかがえる。





「いやー、やっぱり先日のクラーケン討伐が効きましたね。クラーケンはAランク指定の魔物でもやっかいな奴ですから」





 受付嬢に褒められたエリザは、ふふんと薄い胸を反らして威張った。





「オーホッホッホ!! Bランクに上がって一年もたたずにAランク昇格なんて・・・やはりワタクシは英雄となるべき人間なのですわ!! まあ、クラーケンはワタクシ一人の手柄では無いのですけれども」





「ああ、報告にあった行きずりの旅人に助けて貰ったっていう件ですね。・・・しかしクラーケン討伐を手助けするなんて凄腕の方ですね」





 エリザと受付嬢が談笑をしていると、その会話を聞いていた冒険者の一人が荒い言葉をかけてきた。





「英雄だと? 聞き捨てならないな。英雄となる人物はお前では無い、王国より世界を救う任を受けた勇者様ただ一人だ」





 その冒険者は女性だ。


 燃えるような赤毛とつり上がった目が活発な印象を与える美人。その攻撃的な視線はまっすぐにエリザを捉えていた。





「おや、ワタクシに言っているのですか?」





「ああ先ほどの会話が聞こえたものでな。Aランク冒険者に上がったばかりだか知らないがずいぶんと調子に乗っているようだ。しかし覚えておけ、英雄と呼ばれるべき人物はこの世界にたった一人・・・勇者様だけだ」





「・・・あらあら初対面でずいぶんと言ってくれますわね」





 別にエリザも本気で自分が英雄になる人物だと思っている訳では無い。彼女は非常にテンションが上がりやすい体質な為、Aランク昇格によりハイになって思わず調子の良い事を口にしただけである。





 根が善人である事を受付嬢も古参の冒険者たちも理解しているのでエリザの妄言はだいたいスルーされるのだが、どうやら新人らしいこの女戦士には癇に障ったらしい。





 しかしそれにしてもあんまりな言いぐさに、負けず嫌いなエリザは反論をした。





「アナタはずいぶんとその勇者様とやらを買っているようですけど、その方は何か英雄的な行為をしたのですか? アナタが認めているというだけでは英雄と呼べませんわよ。ワタクシの先ほどの発言は場をなごませるジョークですが、それでも多くの人に認められてワタクシはAランクの称号を得ていますの」





「勇者様の冒険はまだ始まったばかり、英雄的な行為をするのはこれからだが・・・それでも我が王に世界の命運を託され、そして私に初めて敗北を与えた御仁だ。そして素晴らしい人格者でもある。少なくともあの方が英雄で無いならこの世界に英雄なんていないだろう」





 陶酔したようなその言葉を聞いてエリザはため息をついた。





 戯れ言だ。





 今聞いた限りの話では、この女は自分が初めて負けた男に幻想を抱いているだけだろう。少なくともその勇者とやらは今の時点で英雄と呼ばれる資格の無いただの腕の立つ戦士といったところか。





「・・・はぁ、まあいいですわ。なんだか疲れました」





 色々考えた結果面倒くさくなったエリザは深いため息をつくと新しいギルドカードを受け取り、今日はもう帰る事にした。 





 せっかくAランクに昇格したというのに水を差された気分だ。





 帰り支度を始めるエリザの方に背後から手が置かれた。





「おい、まだ話は終わってないぞ貧乳」





「ひ、貧乳!?」





 女戦士のあんまりな言いぐさに絶句する。





 その胸元を見ればエリザには無い豊満なそれが強く自己主張しているのがわかった。





「ひひひ貧乳じゃありませんしぃぃ!! 着やせするタイプなだけですしぃぃ!!」





「ふふん、見苦しいぞ貧乳。持たざる者が騒いでも哀れなだけだな」





「てめえちょっと表でろや!!」





 もはや口調すら変わって激怒するエリザを、女戦士は余裕の表情で見ていた。





「お待たせアンネ。・・・ってどうかしたの? なんか空気悪いけど」





 そんな一触即発な雰囲気な中、奥の部屋からギルドマスターと供に現れたのは黒髪の若い男だった。





「ああ勇者様、そこの無礼者に世界の真理を説いていたところです」





「世界の真理? 何だかわからないけど俺の用事は終わったからそろそろ出発するよ」





「はいわかりました。それで、勇者様のランクはどうなりましたか?」





 女戦士の言葉に勇者と呼ばれた男は何でも無い事のように答えた。





「うん、さっきギルドマスターと模擬戦をしてきたんだけど俺はSランクだって」





 ギルド全体がざわめきたつ。





 Sランク





 それは英雄の中の英雄がたどり着ける冒険者の頂点。決してぽっと出の男がすぐにたどり着けるランクではない。





「Sランクですかおめでとうございます。まあ勇者様なら当然ですね」





 そして女戦士はエリザに馬鹿にしたような視線を送り、そのまま勇者と供に出て行った。しんとした空気が流れる中、受付嬢がぽつりと呟く。





「何あれ、感じ悪い」





 そう感じが悪い。





 必要以上に勇者をあがめている女戦士も、ギルドに入会した当日にSランク認定されたのに何でもないような顔をした勇者自身もだ。





「・・・なんだかしらけましたわね」





 あれには極力関わらないほうがいいだろう。


 エリザは昇格の喜びもそこそこに、そう胸に刻んだのだった。














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