第13話 ドロア帝国
(なんだか町中が慌ただしいな)
交易の街レキオで馬を購入し、陸路で数週間かけてゆっくりと移動。やっとドロア帝国にたどり着いた速見が感じたのは街を行き交う人々のぴりぴりとした雰囲気だった。
先ほどからやたら鎧を着込んだ兵士であろう男達があちこちと走り回っている。
(まあ俺には関係が無い話か)
長旅の疲れがピークだ。宿を確保して今日くらいはゆっくりと休みたい。速見はそっと走り回る人々から目を逸らし、宿を探すのであった。
◇
「なんだと? 我が軍二千の精鋭達が負けたというのか。相手はたった4人だぞ!?」
配下からの報告に驚くのはドロア帝国皇帝ジョージ・フラギリス三世。丁寧に刈り込まれた顎髭の目立つ30代の若き皇帝だ。
そんな皇帝の慌てようとは違って、淡々と事実だけを報告する配下の騎士は皇帝の言葉に眉一つ動かさず報告を続ける。
「我が軍の死者は600ほど、重傷者は約1000人、他の者も軽傷を負っております」
「・・・我が国の誇りにかけて負けたままではいられん。追撃の軍を用意せよ」
「恐れながら陛下、あまり大量に兵を動員しては国の守りが手薄になってしまいます。フスティシア王国との国政が上手くいっていない現状、その隙を突かれて奴らが攻めてこないとも限りません」
騎士の言葉に皇帝も少し頭を冷やした。
隣国のフスティシア王国とは一触即発の状態、正直いつ戦争が起こるかもわからない。だが、このままではただ無駄に二千の兵を犠牲にしただけになってしまう事も事実だろう。
「騎士クリサリダ・ブーパよ。何か良い考えはあるか?」
皇帝が助言を求めるは目の前にいる最も信頼する騎士。
クリサリダ・ブーパ。
弱小貴族の出身ながら戦場で数々の武勲を上げ、若干二十歳の若さながら騎士長の地位に上り詰めた実力者だ。
「恐れながら陛下。私の私兵五百を動かす許可をいただけますか? 指揮は私が直接とるといたします。後はいくらかの資金を用意して一般から兵を募集しましょう。人海戦術も馬鹿に出来ない効果がありますし、腕の立つ冒険者が参加してくれるかもしれません」
クリサリダの提案に皇帝は考えをめぐらせる。
彼がしばらくの間とはいえ帝国を離れるのは不安が残る・・・が、大軍を動かすよりは少数精鋭で討伐に向かう方が動きやすいかもしれない。
それに何より皇帝には騎士クリサリダが負ける姿を想像することができなかった。
「いいだろうお前の作戦を全面的に許可する。募集兵の報償については秘書官と相談するといい」
皇帝の言葉にクリサリダは頭を下げる。
「ありがとうございます陛下。必ずや良い成果を上げてまいります」
「騎士長、いよいよ出陣ですな」
腹の底から響くような大きく低い声。
声の主の顔を見るにはクリサリダは視線を大きく上に向けなくてはならなかった。
クリサリダの二倍ほどの大きさのその男。つるりとしたはげ頭に威圧感のある強面。全身の筋肉は大きく隆起しており、そのシルエットは人というより野性のヒグマを連想させた。
男の名はバース・アロガンシア。
元はフリーの傭兵であったが、その実力を買われ正式に兵士として帝国に仕える事になった男だ。兵士となって間もないためまだ地位は下っ端だが、その実力、人格ともに折り紙付きであり、クリサリダのお気に入りだ。
「ああ、敵はたった4人で我が軍二千を下した怪物だ。お前の力に期待しているぞ?」
その言葉にバースはニヤリと笑い腰に下げた自身の得物を撫でた。大型のバトルアクスがその肉厚の刃をギラリと光らせる。
「そういやあ俺はその敵の事を詳しくは知らねえんですが・・・どんな奴らなんです?」
バースの質問に、クリサリダは少し考えるように顎に手を当て、ぽつりと呟いた。
「そうだな・・・奴らは”鬼”と呼ばれている」
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます