第6話 サブウェポン

速見はたどり着いた港町で宿を探していた。





 まだ日も高いしすぐ東へと渡る船を探してもよかったのだが、別に急ぐ旅でもない。まだ見ぬこの地を少し観光する時間を取ることにしたのだ。





 ・・・まあ、長時間の移動で疲れたからとりあえず今夜くらいはふかふかのベッドで眠りたいという気持ちもあったのだが。





「・・・クゥン」





 懐で寝ていた太郎が目を覚まし、まだ眠そうな様子でひょっこりと顔を出す。その頭を優しく撫でながら、速見は街並みを歩く。





 道行く人に宿の場所を尋ね、値段もそこそこでうまい飯が食えるという噂の宿の情報を得てそこに宿泊を決めた。





 たどり着いたその宿の年季が入った扉を押し開けると、腹の鳴るような良い香りがふわりと立ち上る。 


 宿屋の一階が酒場もかねているらしく、昼間だというのに賑やかな酒飲み達が豪快に酒をあおっている。





 この賑やかさからそこそこ繁盛している店だということがわかる。





「らっしゃい。飯かい? それとも宿泊?」





 恰幅の良い中年女性がお玉を片手に速見に尋ねてきた。





「宿泊だ。俺一人で一泊・・・それと今飯も食いたい。おすすめはあるかい?」





 速見の問いに、女性はニカッと感じの良い笑みを浮かべて答える。





「はいよ。宿泊は2000ギル、ここのおすすめは港町だからね海鮮炒めが主流さ。酒はどうする?」





「・・・なるほど。じゃあ海鮮炒めとエールを一杯」





「了解! 座って待ってな。すぐ持ってくるよ」





 適当な椅子に座って注文した料理を待つ。





 しっかりした食事は久しぶりなので期待で腹がなった。





「へいお待ち」





 しばらくして運ばれてきたのはジョッキに並々と注がれたエール。そして皿一杯に盛られた海鮮の炒め物・・・。





 こんがりと良い色に焼けているエビのような海鮮を一つ指でつまみ、ひょいと口に放り込む。





 バターと塩。シンプルに味付けされたソレが海鮮の旨みを引き立たせ、噛みしめた瞬間に口の中に広がる幸福感。速見は慌ててエールを流し込み、予想した通りそれは極上の味で彼を満足させた。





「ワフッ」





 懐から顔を出した太郎が腹ぺこを訴えてきたので皿から白魚の切り身をつまんで太郎に与える。





 太郎は嬉しそうにそれを頬張った。





 がつがつと料理を食べ、酒を飲む。速見はそんな至福の時を味わうのだった。



































 食事を終えた速見は街の散策へと出かける。





 街の特産品が並ぶ店などには目もくれず、速見が一直線に向かったのは小さな武器屋。扉を開けて薄暗い店内へと入る。





 今回の目的はサブウェポンの調達。





 それというのも速見のメインウェポンであるライフル銃はこの世界には存在しない武器である。それが何を意味するのか・・・そう、銃弾を補充する手段が無いのだ。





 ライフル銃は温存しなくてはいけない。故にサブウェポンの必要性が生まれたのだ。





「・・・らっしゃい。何かお探しで?」





 無愛想な店主が話しかけてくる。店内の薄暗い雰囲気と相まって、どことなくやる気がないように見えた。





「遠距離で戦える武器を探している・・・良い弓とか、もしくは変わった遠距離用の武器があれば見せてくれ」





「・・・遠距離武器ね、ちょいと待ってな」





 店主がのっそりと立ち上がり、店の奥に引っ込んだ。





 しばらくして店主が持ってきたのは鉄製のクロスボウ。





「最近都の方で出回ってるやつを一つ仕入れてきたんだ。最新式の鉄製で、従来のものより射程が長い・・・だいたい300メートル先なら確実に飛ばせるぜ」





 300メートル。十分な距離だ。


 20年の経験で弓の修練もある程度積んできたが、クロスボウならよりライフルに近い感覚で扱えるだろう。





「気に入った。いくらだ?」





「そうだな10万でどうだ」





 割高な値段。しかし最新式のものとしては妥当か・・・。





「いいだろう。・・・矢を割引してくれると助かるんだが」





 必要経費とはいえ10万は財布に響く。





「オーケイ。矢くらい割安で売ってやるよ」



































 新たな武器を手に入れて試し打ちの為に街の外れへと移動する。





 人気のない場所で手頃な気にナイフで的を彫る。





 まずは100メートル。鉄製の矢を番え、クロスボウを構える。ゆっくりと息を吐き出して精神を統一・・・一気に引き金を引いた。





 音もなく放たれた鉄の矢が的の端に突き刺さる。十分な威力、100メートル程度の距離で使う分には問題なさそうだ。ライフルの弾よりは慣性の影響を大きく受けるので調整は必要だが、しばらく練習すれば問題は無いだろう。





 速見はその後も試行錯誤を繰り返し、新たな相棒の性能を確かめた。





 そしてわかった事は、このクロスボウは確かに300メートル先まで矢を飛ばせるがその距離だと狙いが定まらないという事だ。





 原因は一つ。スコープが無いからだ。





 獲物の体に適当に当てることなら可能だが、精密な射撃は150メートルほどが限界だろう。





 日も暮れて来たので宿へ帰る事にする。





「ワフッ」





 隣でおとなしく昼寝をしていた太郎がトテトテと後を着いてくるのであった。




































「海が荒れてるな・・・」





 漁師の男は、自慢の船の上で荒れる海を眺めながらそう呟いた。


 日課である漁を終え、帰り支度を始めたそのとき大きな風が吹いた。今まで穏やかだった水面が高い波に乱されて船が不安定に揺れる。





 今までに無い急な荒れ方に漁師の男は不安げに海を見つめた。


 そしてそれは現れる。





 荒れ狂う水面


 暗雲が空に立ちこめ


 突発的に雨が降り出した


 漁師は舵を陸に向けてきり、帰還を試みる


 揺れる船足と、ごろごろとなり出す雷鳴


 突如目の前の水面が大きく盛り上がる。





 大きく


 大きく


 見上げるほど高く





「おいおいおいおい!! こりゃ・・・」





 ああ、それは深紅の双眸を光らせて立ちふさがった。


 この地で伝説の災害として恐れられる魔物


 その名は・・・














 クラーケン























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