第5話 勇者召喚

(・・・聞こえますか・・・・ショウ・・・)





 柔らかな女性の声が聞こえる。ゆっくりと目を開けるとそこには真っ白な空間が広がっていた。





(ここです。私はここにいます)





 再び聞こえたあの声。





 ショウはキョロキョロと周囲を見回す。





 その存在はそこにいた。





 透けるような透明感のある肌。さらさらと流れる銀色のロングヘア。男か女かわからない中性的な顔は恐ろしいほど整っていた。





(・・・ショウ・・・私はアナタをずっと待っていました)





「俺を待っていた?」





 彼(もしくは彼女?)はうっすらと微笑む。





(ええ、ずっと待っていました。私の呼びかけに答えてくれる君を。そして私の力を受け入れてくれる君を・・・)





(そして許して欲しい)





(君に重荷を背負わせてしまう無力な私を)





(もう君しかいないのです)





(崩壊するパンタシアを救えるのは君だけなんだ)





 わからない。





 彼が何を言っているのか。ショウには何もわからなかった。





 だけど彼の悲しげな顔が、言葉が、事の重大さを思い知らされる。





「正直何が何だか分からないけどアナタはとても困っている?」





(ええ、とても)





「それは俺が力になれば解決できるというの?」





 無言で頷く彼に、ショウは何かを決断したように言葉を発した。





「わかった。俺のこと、好きなように使ってくれ」





 次の瞬間。まばゆい光りがショウの全身を包み込んだ。





(ありがとう。そんな君だからこそ私は長い時をかけてここで待っていた)





 薄れゆく意識の中、最後に見た彼は満面の笑みを浮かべていた。












































 意識が少しずつ覚醒していく。それと同時に周囲にたくさんの人がいることがわかった。





「ぉお、成功じゃ!!」





 そう叫んだのは仰々しい衣服に身を包み、頭に王冠をのせた老人。





 周囲に視線を向けると、騎士のような鎧を身につけた人、おとぎ話で見たような魔術師の格好をした人・・・そしてまるでお姫様のようなドレスを身につけた可憐な少女。





「勇者様、あなたの名前を聞かせてください」





 少女がその桜色の唇を開くと、まるで鈴を転がしたような可愛らしい声が発せられた。その可憐さにショウの心臓はどきりと高鳴るが、平静を装って返答する。





「あ、俺の名前は神谷翔(かみや しょう)。・・・勇者ってどういうこと?」





 ショウの疑問に、少女はちらりと背後にいる老人と目配せをしてから話し始める。





「私の名はミリア。エーヌ王国の第一王女です。今、この世界は未曾有の危機に瀕しています・・・」





 ミリア曰く数年前に封印されていた魔神が復活したとのこと。





 それをきっかけに各地の魔物たちがパワーアップ、それらをまとめる魔王という存在も複数確認され、今の王国の戦力では対処できないそうだ。





 魔神に対抗しようと作戦会議を開いたところ、宮廷魔道士が城に眠る古の魔道書に記されていた勇者召還の儀式を行う事を提案。





 それはこの世界ではない別の世界から魔神に対抗できる者を召還するという次元を渡す一大魔術。





 過去に成功例も無く、それを行う為の触媒も膨大なコストがかかるが背に腹は代えられない。魔神に対抗するためその魔術を行使する事となった。





「そして召還されたのがショウ様、あなたなのです」





 ショウはその説明を聞いて考えた。 





 あの不思議な空間で彼が言っていた事は恐らくこの事だろう。そして自分にはそれを解決する力がある。





(まだはっきりと何をするべきなのかはわからない・・・けど、困っている人を見捨てるのは俺の趣味じゃない)





「・・・わかりました。俺はこの世界を救います」

































(ショウ、私の可愛いショウ・・・やはりアナタは最高だ)





(待っていた長い長い時の中を)





(ずっと、ずっと待っていたんだ)





(私の呼びかけに答えてくれる、私の力が受け入れられる・・・そして)





 奥行きの感じられない真っ白な空間の中で、彼はそっと目を開いた。その眼球には深紅の虹彩が三つ。それぞれが意思を持っているかのようにぐるぐると動いている。





(そして・・・他の世界を救うなんて馬鹿な理由で命をかけられる、タガの外れた人間を)





 恐ろしいほど整ったその顔が歪に変形する。





 ソレは笑みだった。


 魂をさらう悪魔はちょうどこんな顔をして笑うのかと、そういう想像をかき立てるような歪な笑み。





 真っ白な空間に黒いシミが広がっていく。





 どこまでも


 黒く


 黒く


 底抜けに深い





(ああ、愛しいショウ。私は君を逃がさない)

















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