俺。池上魁聖、18歳。高校3年生。リア充殲滅特別隊隊長(仮)。


 泣いていた。自分の部屋で。


「なんでだよ! なんでラノベの主人公はあんなにポンポン転生できるんだよ!」


 ものすごく理不尽だと思う。


 そりゃもちろん、ラノベといえば転生モノなんてのは王道としてある。面白いし。


 でも、車にひかれるとか通り魔に襲われるとか、そんな都合よく起こるわけないだろ、この日本で。


 しかも転生だよ? めっちゃ宗教的じゃん。それこそ天文学的な確率で良い世界を引かない限り、お先真っ暗だ。


 なのになんであのラノベやそのラノベの主人公たちは軽々と転生しちゃって、美少女達ときゃっきゃうふふしちゃって、ついでに魔王を倒しちゃったりするんだ? 第1巻の最初の30ページぐらいだけ非リア充で、そのあとひたすら男の夢を叶えるのはなぜだ?


 もしかして、異常に運が良いのだろうか。某有名転生ラノベの主人公も幸運値が異常に高いらしい。今度、神社にお参りに行ってこよう。お守りも買って、『学業成就』の学業のところだけ書き換えて『転生成就』にしておこう。


 願いはひとつ。


「……俺も! 死んで! 転生したい!」


「大変、児童相談所に行かないと!」


「母さん待った! 話せば分かる!」




 30分後。母さんを宥めた俺は、気晴らしに道路の反対側にある小さな本屋へ足を進めた。俺が高校帰りによく寄る場所だ。ちなみに、すでに店主とは顔見知りである。


 仕入れ値をまけてもらえるらしく、定価より少し安く買えるので重宝していた。ついでに本屋のイロハまで叩き込まれたが、正直言うと不必要な感じが否めない。

 赤信号をぼーっと待つ。丁度良く暴走トラックでも来ねえかな。


 そんな淡い期待もむなしく、信号が青になる。最近は諦めかけていたが、クラスのヤツの衝撃発言により、俺の期待メーターは230%まで伸びている。


 トコトコと横断歩道を歩ききり、左へ方向転換。無愛想な本屋の看板が目に入る。丁度良く通り魔でも来ねえかな。


「おいてめえ! 動くんじゃねえぞ!」


 そうそう、こんな感じでドスの利いた声。惚れ惚れするわ。


「死にたくなければレジの金をあるだけ突っ込め!」


 あー、強盗のほうね。そっち路線でもイケるな。


「ひ、ひい! 分かりました分かりました、従うから命だけは……」


 ちょっとこれはわざとらしいかな。セリフがベタすぎる……ん?


 うつむき加減で歩いていたので顔を上げると、本屋の店主が全身真っ黒の男に脅されていた。


 ……まじ? ひょっとしてこれ、転生ルート来たんじゃないの!?


「おいお前! ぼーっと突っ立ってないで手伝え!」


 来た。完全に来た。これでいいこちゃんぶってグサッと刺されれば確実。不謹慎にもワクワクしてくる。


「お、おれですか!?」


 一応驚いておこう。あくまで一般人のリアクションをとる。俺、プロ。


「何をしている! 早くしろ!」


「「は、はいぃ!」」


 俺の声と店主の声が重なる。


「……とでも言うと思ったか? お前みたいな盗っ人はさっさとブタ箱へ行きな」


 やべえ。めっちゃ楽しみ。決めゼリフとか言っちゃって、これは転生確実! 女神様のお助け間違いなし!


 やっぱりアレかな? 『この異世界を助けてください』とか言われちゃうんかな?


「なんだとっ、殺してやろうか!?」


 男が包丁をぎらつかせてくる。カモン!


「おいおい、俺がお前の凶刃に斃れるとでも?」


 かぁーっ! かっこいい! 一度は言ってみたかった。


「だ、黙っていればほざきやがって……死ね!」


 フッ。これでやっと俺の夢が……いてえっ!? なにこの包丁、めっちゃ痛いんですけど! 死ぬ死ぬ!


 咄嗟の受け身を取ろうとしたが、退廃高校生にそんなことができるはずもなく。

 しっかりと、包丁が俺の身体に突き刺さる。


 身体が急激に落ちていく感覚。生ぬるい液体が散った。二度見しなくても分かる、紛うことなき鮮血。


 あれこれもしかして……手遅れ?

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