第2話 憎悪と復讐の器の残滓にて

ラシェ・ワンダーランド

銀色の外はねのある銀色のショートヘア、

兎の耳と見間違えるほど大きな黒いリボンを頭に着け、

ちょっとおしゃれ感を出してみようと選んだちょっと暗い赤色を主としたゴシックな服装をしている少女、外見は背の低い中学生ぐらいだ、

そしてそんな彼女は十三の魔女の一人、

あらゆるものを断ち切る力を持つ鋏を生み出し、それを唯一使用できる者。

ラシェの使用する道具は例外なく魔器まきという特殊な道具なのだがそれは割愛。


ラシェは今回自身の産まれた世界に来ていた、

かつて復讐に憑りつかれた孤独な魔器を倒し、

閉じられた島を開いたのも今となっては随分と昔の話だ、

彼女にとっては一応久しぶりの里帰りとなる。

つい先ほどこちらの自分自身を殺し、この世界を滅ぼす準備が出来た、

空亡からの呼び出しも来ているし、さっさと終わらせようと思っていたのだが………


「何お前ら、いい加減死んでほしいんだけど。」


ラシェは謎の影により世界に閉じ込められていた、

どうやらいつの間にかそこにた影たちによって

過去と未来から切り離されてしまったらしい、

まぁそれは影たちを殺し切ればいい、

問題はいくら影を殺してもすぐさま次が湧いてきてしまい、

いつまでも脱出する事が出来ない。

そもそもラシェの武器は多人数を相手にするような物では無く、

実際ラシェは疲弊していた、右手に握った鋏は既に百を超える影を切り裂いており、

丸一日戦い続けていた。

それでもキリが無い、

この島の住人を模した姿で無尽蔵に湧いて出てくる、

一体どうしたものか。

ゆっくり考える時間も無い、

どこへ行っても影がいる、

逃げても逃げてもそこに居る、

絶海の孤島であるこの世界では島の外への逃げ道は無い、

それにもし逃げ場があったとしても影たちは追ってくるだろう、

そう納得させる程にその物量は絶望的だった。


一つの影がフラフラと突進してくる、


それを躱し鋏で切りつけて殺す。


間髪入れずに二つ目が、三つ目が、四つ目が。


息が切れる、鋏を振る腕が重い、体を引き摺る様にまた逃げる。


飲み水は底をついた、半日何も食べていないで動き続けている、

目に見えて体の調子が悪い、今は木の板の裏に隠れて体を支えている。


助けは既に呼んだ、届いたかどうかはわからない、


もし届いていなかったら?


「今更また死ぬなんてお断りだ。」


そのとき不意に背後の板が切り裂かれ、頬を漆黒の刃物が掠める、

もう見つかったか、本当に休ませてくれないな。

咄嗟に距離を取り振り返って驚愕した。


「………お前はもう殺した筈だけど。」


目の前には真っ黒なラシェが居た、手にはやはり鋏が握られている、

だがこの世界のラシェは既に殺した、もう一人居るなんて事はあり得ない。

別の世界線から迷い込んできた?それもあり得ない、今世界は閉じられている。

ならどうして?

想像したくはないが、

恐らくは………


「私を真似された?ちょっとやめてよね。」


もう一人の影の私が、無機質な赤い瞳が私を睨みつける。

黒い腕が鋏を振るう、

赤と黒の二つの鋏が何度も打ち付けられ火花が散る、

時折明らかにこちらの動きを読んで軌道を変え、

私の腕を切り裂く、

無理やり蹴飛ばし腕をかばう、

間髪入れずに飛び掛かり鋏を突き立てるも躱される、

それどころか背後に回り込まれ横っ腹を引き裂かれる、

「う…ぐ、ぁ…クソ!」

背後に向かって滅茶苦茶に鋏を振り回し追い払う、

自慢では無いが私の姿をしているだけあって今までの影とは桁違いに強い、

私の動きを鏡写しにしたように動く、そのおかげで驚くほど攻撃が通らない、

それでも何とか細い首を鋏む事に成功した。

「はぁ、はぁ、やっと死んだか。」

だがそれだけでは終わらない、

いったいいつからそこに居たのか、何十人もの影が姿を現す、

そしてそれらは、


「あぁ、もう嫌。」


全て私だった。


もう諦めてしまいそうだ、私達十三の魔女は死んだって宙で生き返るけれど

痛いモノは痛い、

苦しいモノは苦しい、

どんな酷い目に遭うか想像もしたくない、

だから足掻く、抗う、最後まで。


それは無謀だった。


いくつもの鋏が私の体に深く突き刺っている、

あらわれた二十人ほどは殺した、

けれどやはり底は無い、

全身から血が溢れる、

両腕も、両足も、首元も切り裂かれた、

これでは落ち武者の方がまだマシという物、

もう殆ど息が出来ない、目の前が霞む、

無数の私達が迫ってくる、もう鋏を持つ腕が動かない、

左腕はもう無い、

一歩踏み出す事すらできずその場にうつぶせに倒れる、

背中から何本もの新たな冷たい感触を感じた、

小さな子供がオモチャでそうするように私の体を

引き裂いて、

引き裂いて、

引き裂いて、

引き裂いて。

今まで私が、滅ぼす為にそうしてきたように、

引き裂いて、

引き裂いて、

引き裂いて、

引き裂いて、


引き裂く。


いつの間にか私は仰向けにされており、いくつもの赤い瞳が私を見ていた、

それだけではない、

私の顔で、

私が死ぬその瞬間まで、

嗤っていた。




「………で、また新たな死亡者が出た訳か。」

死亡したラシェは宙に戻り空亡に状況を説明していた。

「屈辱、絶対許さないけど私じゃ無理だから鍵の娘何とかして。」

「鍵の少女は現在傷心中ですクレセンテらへんをあたってください。」

「何があったの。」

「影に自分の生み出した複製全部飲み込まれたうえ地上から胴体に風穴開けられて殺された。」

「あらら。」

「あ、そういえば、十三の魔女は全員揃いそうなの?」

「まだ2人戻ってきてない、この感じからすると多分影関連のせいだろう。」

「助けに向かった方が良いんじゃないかな、

アイツらは何してくるか全くわからない、

私の時は群で現れ姿を模倣され、

鍵の少女の時は単体で地上から月へ狙撃された、

なんだか私達の弱点をピンポイントで突かれている気がするんだよね、

そうなった場合一人で行動しているのはまずい。」

「そうだね、けれど………」

「どうしたんだ?」

「こちらからの干渉が殆ど出来なくなっているんだ。」

「それは、うーん最悪、道理で誰も助けてくれない訳だ。」

「何とかならないの?」

「それを今帰ってきたメンバーで調べているよ。」

「あぁ、もうみんな帰ってきてたのね。」

「まだ二人帰ってきてないけれどね。」

影と戦闘して死亡した

鍵の少女

ラシェ・ワンダーランド

レーヴ

ザトラツェニエ

立花 桜花たちばなおうか

最果 花子さいはてはなこ

祈祷師

クレセンテ


影と戦闘して負傷して帰ったばかりの

最果 ユウ

クラウディウス・テルミドール


まだ帰っていないのが

鳴上なるかみアリス

フラウロス


「あれ?トーシャと明日香は?」

「帰って来た三人の治療中。」

「レーヴからクレセンテは?」

「影の対策会議中及び研究中だ、まぁ彼女たち研究大好きだからね。」

「祈祷師と桜花は違くない?」

「あの二人は勝つための執念凄いから………」

「あぁ………そういえばそうだったね。

まぁ兎も角、私も研究チームに合流するよ、持っている情報が新しい物かもしれないし。」

「それが良い。」

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