第2話 自暴自棄 揉みする乳は 目の前に

「もう嫌だ……全て終わった……ああ……もう死にたい……」


リリアーヌ先生の非情な言葉に俺は膝を着いてうなだれる。

精神的ダメージがデカ過ぎて動けない……

いやもう、世界が終わるまで動きたくない。


「アーデン……なんだその……元気だせよ、日が暮れるまでそうしているのか?」


俺のあまりの落ち込みようにリリアーヌ先生は励ましの声をかけてくれる。

なんだか先生が悪魔から天使に見えてきた。


「課題を変えてやりたいのは山々だが、規則は破れないんだ、私の権限ではな……」


課題の変更について話すリリアーヌ先生。

それに対し俺はどんよりとしたオーラを放ちながら言葉を絞り出す。


「…………その規則で一人の生徒の人生が終わろうとしています」


俺の言葉に先生は首をひねりながら何かを考え始めた。


「う、うーん…………そうだ! 前向きに考えよう。女の子の乳を揉めるんだぞ合法的にだ。なんせ試験課題なんだからな」


合法的におっぱいを揉むなどあり得るのか? いや、あり得ないだろう。


「…………試験課題だからっておっぱい揉ませてくれるんですか」


「う……それは……」


俺の的確すぎる正論に先生は言葉を失ってしまう。

いつもはクールなリリアーヌ先生だが今日は感情の起伏が激しい。

主に俺のせいだと思うが……


「俺はこの3年間必死に努力してきました。友人もほとんど作らないで勉強しました。睡眠時間も毎日2時間削って勉強しました。遊ぶことも我慢して勉強しました。それもこれもこれからの人生のためです。首席で卒業するためです!」


「ア、アーデン、一旦落ち着こう、落ち着こうな」


早口でまくしたてる俺をリリアーヌ先生がなだめる。

だがスイッチが入り負の感情が爆発してしまった俺はもう止まらない。

そのままリリアーヌ先生の足にしがみつき続ける。


「学生生活やりたいこともいっぱいあったんですよ! なのに……なのにこんな『おっぱい図鑑』……『おっぱい図鑑』のせいで……うあーーー」


「アーデンとりあえず離れよう、こんな所誰かに見られたらあらぬ誤解を受けそうだ」


俺の中の何かが切れた。それは正義か理性か倫理か分からない。


もう何もかもがどうでもいい、卒業試験の変更? そんなのはもう必要ない。おっぱい図鑑? やってやるよコンプリートしてやるよ。俺はもう止まらない。


「リリアーヌ先生」


「ん、なんだ? 落ち着いたか?」


俺は先生の足から離れ、感情が消えたようにゆっくり立ち上がる。


「先生は俺の憧れであり、尊敬できる人でした」


そして俺は淡々と語りだす。


「このアルテナ魔法学園の教師であるだけも十分凄いです。それに加えてアルテナ魔法学園の教職試験もほぼ満点で合格したんですよね。すごいです。尊敬です。憧れです。生きる伝説です」


「どうした急に? そ、そんなに褒めても課題は変えられないぞ、私がただ照れるだけだぞ」


今まで散々暗いオーラを醸し出していた俺が急に自分を褒め始めたことに驚きながら顔を赤く染めるリリアーヌ先生。


そんな先生を後目に俺はある魔法を行使するために右手に魔力を集中させる。

その魔法は【解析スキャンハンド】だ。


課題の詳細にも書かれていた魔法【解析スキャンハンド】は対象に触れることでその情報を読み取ることが出来る魔法だ。

主に魔法医師が患者の診察を行うために使われる魔法のため、医療科目の履修魔法だ。


物体の情報を読み取るくらいであれば魔法自体はそれほど難しいものではない。

しかし、生物の情報、それも細かいところの情報を読み取るとなると魔法難易度は跳ね上がる。


毎日のようにこの魔法を使い診察を行っている魔法医師はかなりの魔法の使い手であり、エリートであるということだ。


アルテナ魔法学園で【解析スキャンハンド】は診察を行えるレベルにならなければ修得にならないため、修得難易度は最高のSランクに設定されている。修得している生徒は少ないだろう。


少なくともおっぱいを揉むために使う魔法ではないし、そんな使い方聞いたことも見たこともない。


本当にバカな課題だよ……


「そんな尊敬しているリリアーヌ先生。先生はさっきこう言いましたよね」


俺は静かに語り掛ける。


「試験課題だから合法的におっぱいが揉めると……」


「ああ……そんなことも言ったと思うが……まさかお前⁉」


俺は右手に【解析スキャンハンド】の魔法を発動させる。

学年首席まで上り詰めたんだ、もちろんこの魔法も高レベルで修得済みだ。


俺が魔法を発動させたことで何か嫌な予感を感じたのか、顔を引きつらせながらリリアーヌ先生は逃げるように後ずさりをする。


「落ち着けアーデン⁉ 私と君は先生と生徒の関係だぞ⁉」


取り乱したリリアーヌ先生が自分の胸を右手で隠しながら俺を説得しようとしてくる。

だがそんな説得、今の俺には無意味だ。


「先生……俺は決めました卒業のためにおっぱい図鑑を完成させる……そのためにこの1年間あらゆるおっぱいを追い求めると」


アドレナリンが最高潮の俺は、リリアーヌ先生の瞳を真っすぐ見つめ宣言する。


「最初に図鑑に登録するおっぱい。それが今、目の前にある」


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