おっぱい図鑑コンプリート‼~学年首席の俺だけど卒業するためには乳を揉まなければならない‼

羽羽 ジョージ

1章 まだ見ぬ乳たち

第1話 卒業したけりゃ乳を揉め‼

『おっぱい図鑑完成』


目の前に絶望の文字が書かれていた。


「おい! 待ってくれ! 何だこの課題は‼」


俺は必至に抗議の声を上げる。

どうしてこんなことになってしまったのか……

この数時間で天国から地獄に落とされた気分だ……


――――――――――――――――――――――――――――

3時間前……





快晴の空に朝日が昇る。美しい景色だ。世界は俺を祝福してくれているようだ。


「ついにこの日が来たか……険しい道のりだった」


朝日を背中に受け学園に向かうため制服に着替える。

着替えも終わり感慨深い気持ちで机の上に置いてある自分の学生証を見る。


―――

4年Aクラス 卒業過程

ギル・アーデン 18歳

総合ランク1位

―――


今日から学園生活も4年目。学年も更新されている。

そして輝く総合ランクの項目。1位の文字が眩しいぜ。


総合ランクとは成績順位。つまり俺は学年の首席ということだ。

俺はこの3年間遊ぶ間も、寝る間さえも惜しんで勉学に取り組んできた。

その努力が報われたんだ。


それもただの学年首席ではない。俺の在籍している学園【アルテナ魔法学園】は数ある魔法学園の中でもエリート中のエリート学園とされている。


生活に魔法が欠かせなくなっている世の中だ。卒業出来れば将来は約束されたも同然。さらに首席で卒業となればもう人生の勝組だ。


アルテナ魔法学園では基本4年間の在籍となる。

3年で基礎となる魔法や一般教養などを学ぶ。通常なら定期試験で問題が無ければ卒業となるのだが、このアルテナ魔法学園では3年間の学びの総括として1年かけて卒業試験が行われる。


この卒業試験こそアルテナ魔法学園がエリートと呼ばれる所以だ。

卒業試験については他の学園でも取り入れている所はある。


ただ、その内容のほとんどは学園側から出される共通課題か、自分が興味関心あることに取り組む選択課題である。


しかし、アルテナ魔法学園の卒業試験課題は一人一人ランダムで選定されるのだ。

選定は学園長が作ったという専用の魔道具を使い行われるため不正は出来ない。


そして選ばれた課題の変更も出来ない。

もちろん合格出来なければ卒業は持ち越しになる。


魔法は大きく戦闘科目、医療科目、生活科目、専門科目の四科目に分かれている。


選ばれた課題が自分の得意科目であればいいが、その逆だった場合非情に苦しくなる。どの科目が選ばれても良いように日々の積み重ねが大事になるのだ。


総合ランク1位で首席の俺はどんな科目の課題が出ようと大丈夫な自信がある。もう勝ったも同然だ、このまま俺は首席で学園を卒業する。


俺は足早に寮を出て学園に着く。


「ようギル! おはようさん」


学園の門をくぐった所で男子生徒に話しかけられる。


こいつはヨルン・エドガー。

3年間勉強に明け暮れて友人などほとんど作って来なかった俺の数少ない友人だ。

茶色の短髪でスポーツマンっぽい見た目をしているが運動は苦手な同級生。


「おはよう、ヨルン」


俺はヨルンにあいさつを返すと二人で教室に向かう。


「ヨルン、今日は早かったな」

「今日は朝から体の調子が良くてよー早めに登校したんだ」


ヨルンは体調が良くない日が多い。本人曰く寝不足なだけだという。


「そうか昨日はよく寝れたんだな。俺も今日は絶好調だぜ」

「楽しみにしていたもんな卒業課題の選定」



そんな話をしている俺達に、赤色のポニーテールをした女子が話しかけてくる。


「おはようー、二人も今来たのか?」


リーネ・フラン、俺の数少ない友人その2。

簡単に言うとヤンキー。いや元ヤンキー。


「ああリーネか、おはよう」

「ああリーネか……ってもう少しテンション上げろよギル! 朝から女の子に話しかけられて嬉しくないのか」


俺の返答が気に食わなかったのかリーネが突っかかってくる。

今の何が気に入らなかったのだろうか?


「女の子っていってもなぁ……ヤンキーじゃん」

「ヤ、ヤンキーじゃねぇって! 昔のことは掘り返さないでくれ!」


そんなこんなで俺達は教室に着く。

少し早い時間の登校だったので朝礼が始まるまで雑談をして過ごすことにした。


「4年はクラス替えはないんだよな、つまんね」


リーネが机に顔を付けながら呟く。


「4年は授業が行われないからな」


ヨルンがその呟きに反応する。


アルテナ魔法学園は4年になると留年生徒を除き授業は行われない。

そのため4年生のクラスや担任は3年の時からそっくりそのまま繰り上がりになる。

クラス全員で集まる機会なんて今日と卒業式くらいかもしれないが、たしかになんとなくつまらない気持ちはある。

そのため次々と教室に入ってくる生徒は全て見慣れた顔だ。


ゴーンゴーン


始業を告げる鐘が鳴ると担任である教師が教室に入ってくる。


銀色の長い髪をなびかせ凛とした雰囲気を醸し出す我がクラスの担任教師リリアーヌ・レーベン。クールに見えるが歳も生徒と近く親しみやすい先生である。

皆はリリアーヌ先生と呼ぶ。


そして俺は密かにリリアーヌ先生を尊敬している。

このリリアーヌ先生、アルテナ魔法学園の教師であるだけも十分凄いのだが、教職過程をストレートでパス、さらに厳しいとされるアルテナ魔法学園の教職試験もほぼ満点で合格という本物のエリートだ。

その証拠に24歳という若さでクラス担任を受け持っている。尊敬しかない。


そのリリアーヌ先生が教壇に立ち話し始める。


「おはよう。皆4年に進級できたようでなによりだ。知っていると思うが今日は卒業試験の課題選定の日だ、この後すぐに行われる。気持ちの準備はしっかりな」



課題選定は下から上のランク順でクラスごとに魔道具がある部屋で行われる。

俺は首席なので選定が行われるのは最後だ。

次々と名前を呼ばれ生徒が選定の部屋に向かうのを片目に見ながらその時を待つ。


「最後だな、ギル・アーデン」


リリアーヌ先生が俺の名を呼ぶ。


立ち上がり部屋に入るとテーブルに選定用の魔道具が置いてある。


選定用の魔道具はガチャポンというのは風の噂で聞いていたが……

本当にガチャポンみたいだな。


「ここに魔力を込めるとカプセルが出てくる。そのカプセルの中に課題が書いてある」


先生に促され魔力を込めるとカプセルが出てきた。


「よし、開けてみるんだ」

「はい」


何だか緊張するな……

どんな課題が来ても合格できる自信はあるが、なるべく簡単な課題に越したことはない。


俺はカプセルを開け恐る恐る入っていた紙を見る。


『おっぱい図鑑完成』


え? ちょっと待て目を疑う言葉が書かれていた気がするが……

まさかなぁ……

もう一度紙を見る。


『おっぱい図鑑完成』


「おい! 待ってくれ! 何だこの課題は‼」


思わず声を上げてしまった。

いやまて、詳細をまだ見ていない。こんな名前の課題だが詳細はちゃんとしてるかもしれない!


―――

『おっぱい図鑑完成』

卒業課題として支給されるおっぱい図鑑を完成させろ。

図鑑登録は【解析スキャンハンド】の魔法を使い乳を揉むことで可能。

全ての項目を登録することで完成とする。

なお、同一人物はサイズの変動があっても重複登録できない。

―――



何なんだこのふざけた課題は‼

詳細に目を通してみたがさらに怒りがこみ上げる。


「なんともユニークな課題だな」

横から課題の紙を覗いてきたリリア―ヌ先生は呑気なことを言っている。


「いやいやいや、ユニークな課題って! 魔法関係ないじゃないですか!」


「関係あるじゃないか【解析スキャンハンド】を使えって書いてあるし」


魔法要素それだけかよ。


「そんなのおまけじゃないですか! おっぱい図鑑ってなんですか⁉ おっぱいですよ! おっぱい‼」


「あまりおっぱいを連呼しないでくれ、何だか恥ずかしい」


俺のおっぱい連呼に先生はポッっと顔を赤く染める。

あ、かわいい……いやそんな場合じゃなくて!


「なんだよこの課題は~⁉ 俺の3年間を返してくれ~」


絶望に打ちひしがれた俺は抗議の声を上げる。


「課題の変更を‼ 変更を求めます‼ これ以外だったらどんな難解な課題でもいいです‼ だからお願いします‼」


俺は必死に先生に懇願する。


「アーデン……規則っていうのは簡単に覆らない、社会とははそういうものだ」


そんな俺の声にリリア―ヌ先生は無情の言葉を告げる。


「すまない課題の変更は受け付けられない‼」


神様、俺、何か悪いことしましたっけ……


「卒業したけりゃ乳を揉め‼」


そんな言葉リリア―ヌ先生から聞きたくなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る