第30話 : ある魔王の『終末論』(裏話)


― 手記:魔王アーデルバイド・メーティス ―


 ひとつの『世界』が持つ力は、基本的に均等であると考える。その中でも、相反する要素があり、例えば『魔法』と『自然科学』という分野は、一方が進めばもう片方が後退するよう、世界が存在する『ルール』の中に書き込まれている。そこに深い理由はなく、あえて理由を付けるなら、それが『真理』であるから。無意識でも、全ての生命はこの『ルールブック』に従ってしまうのだ。

 だが、誰がそんなルールを作ったかは、時間に限りのある我々が、何代かけようとも辿り着けるか分からない。どれだけの時間が必要であるか想像もできない。あるいは、そんな時は来ないかもしれない。


 故にだろうか、世界を『守護』する役目をになう者は、簡単に負ける『運命』を背負わない。確率が、巡り合わせが、空想に描かれる全ての英雄たちと同じように、導かれた勝利へと足を運ぶ。当人達がどれだけ運命を否定しようと、苦痛を受けようとも、心に重大な傷を残したとしても。

 では、もし『守護』する者たちが、共に戦ってしまったら、どうなるのだろう? 両者が『負けない』という結論を持っていたら、行き場を失った因果はどのように作用するのだろうか。


 結果として、真理に従った『矛盾』が起きる。

 ありえない事だが、二つの『世界』が衝突した時、両者ともが負ける運命を否定する。目に見えない絆の流れが、武器が交錯する摩擦すらも、互いを利するように働いたのなら、果たしてどちらが負け、勝利するのか。


 私は、一つの推論を元に、ある仮定を導き出した。我々魔王は、勇者と敵対するが、元は別世界に存在する『守護者』だったのではないかと。現在の敵である『魔法少女』のように、異なる『世界』を渡った存在なのではないかと。

 我々が、世界を一つ滅ぼして、見た光景はまさに我々の故郷と同じだった。少々、感情的な結論ではあるが、今ある情報を元にすると、あながち間違ってないと考える。


 まず我々の世界で、何が起きたかを振り返ると、勇者ナギサと魔王シリスの一撃が、天変地異を引き起こし、おそらく天体の航行に影響を与えた。徐々に惑星が、生命が存在できる環境ではなくなり、全てが凍り付くか、灼熱の炎に包まれた。

 我々の世界が存在できているのは、魔王と勇者の力によって、部分的に生命が維持できる環境を作り出しているから。しかし、その範囲は日を追うごとに狭くなっていると、報告を受けている。あと何年、何か月それを維持できるのか分からない。先の見えない絶望が、元の世界に残る同志たちから、手紙として送られてくる。


 先ほどの回答であるが、世界の『守護者』が衝突した時、二つの世界は『共存』するか『相殺』される。きっと、性質の違いなのだ。

 この世界には『矛盾』という言葉があるが、まさに的を射た表現だろう。我々、勇者と魔王は『盾』だった、そして『魔法少女』とは世界を守る『剣』だと考えれば、この状況にも納得がいく。蜂に刺された者が、過剰な免疫機能により殺されてしまうように、世界の防衛機能が過剰に働いた結果、世界が滅びてしまったと考えられないだろうか。

 例えば、最強の『剣』は最強の『盾』を貫通するが、剣は壊れ相手を殺す事が出来ない。盾は、その役目を全うし持ち主の生命を守るが、相殺という言葉が当てはまるような結末となる。今の状態が、まさにそんな感じである。

 以上、これが真実ではない事を、私は祈っている。



 こんな推論、同志にすら話す事は難しい。なぜなら、もしこの理論が正しいなら、私たち『守護者』が生きている限り、この世界もいずれ同じ結末を辿るから。この状態を数千年は維持できるかもしれないし、数年で終わるかもしれない。つまりは、延命にすぎないのだ。


「我らは一体、どうすればいいのか?」


― 手記:終わり ―


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