第31話 : 歴史に消された神の断片(裏話)


 片桐かたぎり 理名りなは、一通の手紙を見て、息を飲んだ。そこに書かれていたのは、自分が所属する、いわゆる『秘密結社』という場所からのメッセージだった。

 秘密結社と言っても、世界にはたくさんの結社が存在している。それが団体であったり、協会であったり、あるいは会社が、結社のフロント企業としての役割を担っている事もある。そのうちの、目的を公にしていない結社だから、秘密結社と言うだけなのだ。


「日本で、魔法が使われた形跡がある……? それも、レベル13クラス?」


 世界は、とある組織の思惑により、紀元のカウントが始まる前から、神や魔法といった『オカルト』が排除された。過去の権力者や、宗教すらも利用して、歴史から聖も魔も、何もかもを葬りさった。それが、人類の進化に必要だと考えていたから。

 

 理名は、両親から聞かされていた。大昔、実在した『神』の力によって、世界の大陸のほとんどが水に流されたと。旧約聖書や、ギルガメッシュ叙事詩、思想の違う多くの記録にも、似た内容が書かれていると。その時に使われたのが、レベル13規模の魔法だと言われている。


「なんの冗談なの? 組織の末端で、魔法なんて見たこともない。一番近くにいるから、見て来いですって? 後ろ盾も、活動した実績すらも皆無の、この私に?」


 理名は16歳の少女であり、高校に通っている。それは日本において『普通』とされる生き方をし、世間一般に溶け込む為に、偽装する必要のない『経歴』を得る為にしている事だった。だが、理名は世界を影から支配する組織の一員で、この先の就職も、結婚も、どのような人生を送るかすら、顔も見たことない偉い人達の一存で決められる。

 例えば、その人達が理名に「明日に死ね」と言ったら、自分は死ぬしかないと諦めの心を持って、日々を生きていた。幼い頃より、結社の命令は絶対であると教えられ、潜入やスパイ技術のノウハウ、護身術をはじめとして、数々の『英才教育』を受けている。そして、それらの心得を、平時では絶対に発揮しないようにする訓練も。


「明日から、もう学校には行けないのかな。もしくは、この件が終わったら、消去されるのか。長いような、短い人生だったな……」


 翌朝の十時、本来なら学校へ通っている時間に、理名の元には映画で見るような『特殊部隊』の人たちが、迎えに現れる。日本人であるという配慮なのか、自衛隊から選抜された部隊が護衛に着くという。理名は初めて聞く、特殊作戦五科と呼ばれる非公式部隊、偽装車両と清掃業者を装った重武装のメンバーが数名、ニュースにもなった『災害現場』へ同行して行くことになる。


「着替えるわよ、理名」


 理名の母親が、無表情を顔に張り付け、二つの色あせた桐箱きりばこを持ってくる。

 中には着物と、もう一つには長剣が入っている。それは、見ているだけで心が凍り付くような、寒気を感じた。明らかに、尋常の物ではない。生物として、離れていても本能的に危険を感じる代物だった。


「時間まで、その姿で過ごすのよ」

「うん」


 超常現象を殲滅する組織が、それでも武器として使用するのは、やはり『神話』や伝説に語られる武器や道具だった。逆に言えば、毒を持って毒を制すように、世界中の聖・魔入り混じった力を相殺させながら、現代に至るまで『超自然』とも言える力を消費し、消滅させてきた。


(本当は、分かってる)


 理名は、今回の任務に自分が選ばれた理由を、内心では理解していた。それは理名が、古事記にも登場する『十束とつかの剣』の一つを所持しているから。神を殺した剣と言い伝えのある、天之尾羽張あめのおはばりという神剣。神話規模の存在には、同じレベルで語られる存在をぶつける。あわよくば今回、それらが失われれば、またひとつ結社の理念は進むことになる。人類の進化の為に、殉死してこいと、そういう事なのだろう。


「人類の為に、全てを捧げましょう。信念も、この命も。未来の為に」

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