Scene02.覚醒するんだもの
第6話 武器を持たないヒーロー
「妻も子どももいないおじさんさ。
マントを持たないおじさんさ。
空は飛べないおじさんさ。
なのにクビはすぐとぶのよ、おじさんは。
かなしみのおじさん」
おじさんが涙を流しながらそう歌っています。
静かで安全な世界に生きたその男にもかつて家族がいました。
しかし、ベルゼブブという王の存在が現れ……
全てを奪い去っていったのです。
おじさんには、もう妻も子もいません。
復讐を誓いました。
敵討ちを誓いました。
しかし、誓うだけではなにも産ません。
復讐をしたところで家族は戻ってきません。
なぜならそれが死なのですから。
そしてなにより……
そしてなにより……
おじさんは凶悪と戦う力を持っていません。
だから歌うしかないのです。
「妻も子どももいらいおじさんさ
マントを持たないおじさんは。
空は飛べないおじさんよ
なのにクビはすぐとぶおじさん。
ぜつぼうのおじさん」
「よう」
そういっておじさんに一人の男が近づいてきます。
「誰ですか?」
おじさんはその男に尋ねます。
「私かい?私はそうだな。
社長とでも名乗ろうか……
ところで君、24時間働く力は欲しくないか?」
「24時間ですか?」
「ああ、永久に働ける力だ。
私にはそれをお前に授ける力がある」
「社畜ですか?」
「そうだなある意味社畜だな。
会社のために働くのではない。
社会のために働くんだ」
「社会?なんのために……でしょうか?」
「ベルゼブブを倒すためにだ」
「え?」
「秘薬がひとつできたんだ」
社長は、そういって1錠のカプセルを見せます。
「これは?」
「これは、最強の武器を作ろうとしてできたものさ。
これで、第二の武器を作る予定だった。
この秘薬を飲めば、神々と同程度の力こそは得れないが。
目の前の悪を倒すくらいの力は得れる。
だが、失敗すると死ぬ」
それを聞いたおじさんは優しく笑います。
「いいですよ。
死ぬのもいい。
死んでもいい。
失ったものはたくさんある。
これから失うものがないのなら……
僕は!!」
おじさんは、社長から秘薬を受け取るとそれを口の中に入れました。
おじさんの胸が熱くなります。
胸から溢れる感情。
憎しみでもなければ苦しみでもありません。
それは太陽。
天が平等に照らす温もり……
「おお、これは……」
社長の胸が熱くなり涙が溢れます。
「この暖かい感情これは」
「まさに太陽、まさに炎」
おじさんの心に歌が溢れます。
「妻も子どももいないサラリーマン。
バットを持たないサラリーマン。
マントを持たないサラリーマン。
空を飛べないサラリーマン」
おじさんの心があふれる。
おじさんに涙があふれる。
「お前の名前は、サラリーマンだ!
サラりとやってきて人々を救う男!
それがサラリーマンだ!」
社長がそういうとおじさんの目にも涙が溢れました。
こうして名もなき英雄サラリーマンが誕生しました。
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