第15話

レナが、セイレーンを起動させた。


「私の電源を!?」


「済まなかった。だが、あのまま攻撃をさせる訳には行かない。ケインは、私たちの世界を守る勇者だ」


「・・・私、またやっちゃったんですね。怒ると我を忘れてしまい…お二人には、ちゃんと謝罪します」


「まるでオームみたいだな」


「でも一度登録してしまうと、取り消しは難しいです」


「・・・・やはりそうか」 


「あの!私!足が!」


「説明もあるからな。一度みんなの所に戻ろう」






セイレーンとレナが、部屋から出て来た。


セイレーンは拙い足取りで、俺たちの前に来ると


「あの…先ほどは、失礼しました」


深々と頭を下げて謝った。


「いいぞ、許すぞ。でも、二度とケインに手を出すなだぞ」


アリスは、まだ不機嫌だ。


「それが・・・・」


セイレーンは困り顔で、言葉を詰まらせた。




「なんじゃと!?解除できぬと言うのか?」


「不味いでござるよ。何かの拍子に、後ろから弾が飛んでくるでござるよ」


ござるよじゃないだろ。


それを何とかするのが科学者だ。


「システムは、流石に弄れんでござる。下手に弄ると、人格まで変わるでござる」


それはダメだな。


「まぁ、おいおいなんとかなるじゃろう。当面は、セイレーンによる戦闘は無い。まずは状況の説明じゃ」




セイレーンとセレスの下半身が交換された。


今のセイレーンは、セレスの下半身で、制御装置がない。


逆にセレスは、セイレーンの下半身を付け、制御装置がある。


つまり、この状態は、何時でも戦闘OKの状態だ。


パルスは、USBメモリーの内容を、セイレーンに説明した。




「セレスが居ないぞ?」


「今、海でござるよ。泳ぎを練習中でござる。マオ殿と、レナ殿も一緒でござる」


なるほど、セイレーンも歩くのがやっとだ。セレスも同様だろう。


「見に行く」


「よし行くぞ。セレスが溺れてる所を見るぞ」


「わしらも行くとするか。いざと言う時に、本体に乗り込めんようでは困るからのぉ」


全員でセレスが練習している埠頭に行く。


セイレーンは、2足歩行支援機を使っていた。




「お~ほほほほほ~~~見て見て!私の華麗なる泳ぎ!」


すごい・・・泳ぎ、潜り、飛び跳ねる。まるで、イルカのようだ。


「最初はね~豚が溺れたようだったよ~今では立派な海豚だよね~」


「ああ、メス豚は海豚に変わった。たいしたものだ」


あまり褒める気、無いだろう?


「でも、この下半身、大事なアレが付いてないのよ」


「セイレーンに、H機能は必要ないでござるからな」


「H機能?Hとはなんのことですか?トーレフ様」


ウぁ、本当の初心だな。セレスの顔で言われると、耳を疑う。


「教えてやるぞ。Hとは・・・・だぞ」


アリスが耳打ちすると、顔が赤く染まる。


「頂いたデーターの中では、呼称が違っていたので、分かりませんでした」


800年間、外部と接触が無かったセイレーンは、貰ったデーターの知識しかない。




「これが、アレですね!」


いきなり股ぐらに、手を突っ込むな。


「新鮮な信号が来ます。とても敏感です」


解説するな。


「レナねぇ様!協力して、頂けませんか?」


「構わんが、私は何をしたらいい?」


「股間の聖剣を貸して頂きたいです」


胸で判断したな。


「胸で判断したぞ」


「胸見て判断」


「私は女だ!貴様!ねぇさんと呼んでいるではないか!」


「そうでした!つい我を忘れました。と、いう事は、この中では・・・」


「生えているのは、ケイン殿だけでござるよ」


生えてるとか、すげぇ言い方だ。


「ケインさん・・・」


中身はセレスと同じだ。純情可憐な乙女も、いずれはああなる。


「ケイン!セイレーンにしてやって!私の下半身よ。性能は抜群よ」


メス海豚が、手を振りながら叫んでいた。




セイレーンが、よろつきながらも近づいてきた。


アリスが俺の前に出る。


「ストップだぞ。それ以上は、近づかせないぞ」


「アリスさん・・私は・・あなた達は敵!攻撃を開始します」


!?セイレーンが発した言葉は、別人のようだった。


「あ!誤作動です!ごめんなさい」


誤作動か。結構なポンコツなんだな。




海が盛り上がる。本体が出て来た。


「ねぇ様の命令を確認」


「ねぇ様より命令を受信です」


なに?支援機が命令を受諾しただと?


「権限がありません」


「権限が無いです」


「今のセイレーンは制御装置がないでござるよ。中止や発射命令は出来ても、システムの起動命令はできないでござる」


危なかった。やはり誤作動は起こる。俺達の敵対認識は何とかせねば。




セイレーンの顔が悲しさに代わり、涙を流す。


「800年間、姉と慕われ、私の言うことを良く聞いてくれていた、妹たちが・・・やはり、私たちは機械なんですね。心などない機械・・」


そうか、制御器が無いというだけで、対応が変わる。確かに当たり前だが、セイレーンにはつらい事なんだな。


「ねぇ様の、涙を確認。武器システム起動します」


「ねぇ様の、悲しい顔は見たくありません。武器システムオールグリーンです」


「ルピ!ルカ!あなたたち!」


「そうだ、私たちは、その辺にある自動販売機ではない。800年も起動しているのだ、魂の一つや二つ、在るに決まっているだろう」


付喪神説だな。


「ねぇ様発射命令を」


「ねぇ様、その男は消し炭です」


「はい!」


はい!じゃない!!!


「ダメダメ!嘘です、発射中止です。間違えました」


危なく消し炭か。






「セレスは、本体に乗り込んで、完全制御の特訓じゃ」


「外から制御できるんだろ?乗り込む必要あるのか?」


「外からだと、一部機能に制限が掛かったり、反応が遅れたりします」


「100%の力を出すには、中から制御じゃ。じゃが結構複雑でな・・・セレスが覚えきれるか?じゃ」


「失礼ね~同型機よ。スペックが同じなら、私にもできるわよ」


「複雑なのか?」


「ええ、はじめのうちは、混乱すると思います。シークエンスの数が多いので」


「全く面倒だわ。シークエンスは2つあれば十分、キスとペッティングよ」


覚えきれるか大いに疑問だ。




「あねさん、異常振動感知」


「あねさん、赤道付近です」


セレスは、あねさんなんだ。


「異常振動じゃと?詳しく解析せい!」


「同型機体の可能性大」


「魔道エンジンによる振動です」


なんだと!?


「セイレーン以外にも、魔道兵器あるのか?だぞ?」


「私は知りません、聞いたこともないです」


「博士のデーターには無かったわい」




「赤道付近、山腹より魔道兵器出現。視認しました」


「同型兵器です。形状の違いを確認。接近してきます」


赤道と言うと、魔王軍の領地だ。


「ああ、二つある魔王軍の、敵の方じゃ」


「なぜ?敵と分かる?」


「魔王軍AとB。Aはコンタクトを取ろうとし、わしらの元に来た。海路を使ってな。そしてBに攻撃を受けた。敵は、赤道に居る魔王軍じゃ」


「パルス天才」


なるほど、赤道に居る魔王軍がコンタクトを取るなら、Aの領地は通らない。攻撃されることはない。敵は赤道の魔王軍。


「そして、あの魔道兵器を出してきおった。これは避けられそうにない戦いじゃ」




「セレス殿!一旦上がるでござるよ。今の貴殿では制御は無理でござる」


「分かった、直ぐ上がるから手を貸して」


レナが岸壁で手を伸ばし、セレスを引き上げる。


「魔道兵器、微速で接近中」


「魔道砲の砲撃射程まで7分です」


くそ!時間がない。


「下半身の取り換えは、時間が掛かり過ぎるでござるよ。制御装置を乗せ換えるでござる」


2人の下腹部が開かれ、トーレフが作業を始める。




「ケインさん!今、情報が入りました」


ティナ!天空にティナが現れた。


「あれは、魔王軍がセイレーンさんを模して作った、魔道兵器、陸の覇王です」


「陸の覇王だと!?性能は?」


「未確認です。魔王軍は私の庇護下にありません。今の情報は、魔王軍からのものです」


分かりにくい。陸の覇王は魔王軍Bだ。


情報提供は、魔王軍Aだな?


「その通りです。あれを倒さないと、大変なことになります」


「ティナ様。神の加護を!」


レナがティナに求めた。


「ダメです。あれは耐神設計です。私の加護は通用しません」


耐震みたいな言い方だ。


「私は戦闘になった際に、周りに被害が出ないように、防壁を張るのが精一杯です」


「お願いだぞ、王都を守ってくださいだぞ」


「はい。任せてください。必ず守ります。皆さんも気を付けて」


ティナも緊急事態のようで、慌ただしく消えた。




「出来たでござるよ。制御装置だけ交換したでござる。セレス殿の方は一部破損したでござる。要修理でござる。このままOFFにしておくでござる」


「セイレーンを起動じゃ。テストじゃ。機能するか確認じゃ」


セイレーンが起こされる。


「ルピ、ルカ、私の指示に従ってください。防御システム起動です」


「ねぇ様、防御システム起動」


「ねぇ様、シールド展開です」


「大丈夫です、行けます」


どうやら制御はできるようだ。




「でも、この足では、本体に乗り込めません。此処から指示を出します」


「仕方あるまい。今は本体の魔道兵器の起動じゃ!」


「それが・・・ダメです。あれを私は、敵と認識できません」


俺とアリスは敵でも、あれは敵じゃないというのか?


「不味いでござるよ。一撃貰わないと、敵認識が出来ないでござる」


「あれは敵じゃ!あれに一撃貰ったら即負けじゃ」


「分かります。でもダメなんです。気持ちではわかっていても、システムが・・・」




「陸の覇王、有効射程です」


「陸の覇王、武器システム未起動です」


有効射程圏内に入って来た。


山の上で、黒いキューブの形をした、陸の覇王が回っている。


丸と四角の違いはあるが、確かにセイレーンと同型だ。あれは魔道兵器だ。




「何故?なぜ撃ってこない?」


レナの疑問はもっともだ。既に10分、動きが無い。


「セイレーンと同じで~先に撃てないのかもね~」


マオの答えが正解か?


「このままじゃ、お見合いだぞ」


こっちは打てない。向こうも打てない。どうなるんだ?


「セイレーンを軸線上に移動じゃ。とりあえず島の盾にして、わしらを守るのじゃ」


今できる事はそのぐらいだ。




「ねぇ様、映像を天映します」


「ねぇ様、正面の映像です」


セイレーンが、島の前に来たことで視界が遮られた。


本体の機能で、映像が空中に映し出される。


もう夜だ。既に周りは暗く成り、映像はまるで映画館に居るようだ。


「ルカ、陸の覇王内部をスキャン」


「ねぇ様。スキャン開始です」


「ルカは、機械の中を、透視する機能があります。内部を見て、性能を確認できます」


「そうか、それで私たちを襲った時に、弱点を見抜いたのだな?」


「そうです・・・本当に申し訳ありません。あの子は、20年間、オリジナルが現れるのを待っていました」


「ねぇ様、スキャン完了です。似類点多数。合致率92%です」


「92でござるか!?丸パクリでござる」


どうやら、セイレーンを模したという情報は正しい様だ。




「ねぇ様、内部スキャンを受けています」


「ねぇ様、遮蔽システム効果なし。情報駄々洩れです」


「今に至って、こんな物まで作れる技術が残っておったとは、驚きじゃ。性能面の違いは?」


「そうでござる。8%違いの傾向は、分かるかでござる?」


「ルピ、ルカ、皆さんの質問に答えて」


「性能8%負けてます」


「防御1%負け。攻撃1%負け。光沢6%負けです」


「ドックが壊れているので、ワックス掛けが出来ません!光沢が維持できないのが敗因です!」


悔しいのはそこか?




アリス達が騒がしい。


後ろでキャンプファイヤーをしている。


「ケインも来るぞ!魔道兵器同士の戦いに、私たちの出番はないぞ」


もっともだが・・・


「海の夜、キャンプファイヤー」


「今やれることは~今やらないとね~」


それはそうだがな・・


「持って来たアサリやハマグリを磯焼だぞ」


持って来たのか?


「これからセレスを磯焼にする。ケインも来て食べないか?」


「ちょっとレナさん、私に串を刺そうとしないで。もう!酔っぱらってるわ」


凄い余裕な連中だ。




「ねぇ様、陸の覇王からのスキャン率77%」


「ねぇ様、陸の覇王のスキャン終了まで、推定7分です」


「読めたわい!奴らは、セイレーンの情報を、完全に盗み次第、攻撃に来る。そうなれば、わしらは全滅。7分は、全滅カウントダウンじゃ!」


現実味を帯びてきた。このままでは不味い。




「全滅かだぞ?」


踊っていたアリスが、食いついた。


「セイレーン、全滅は負けだぞ!攻撃するだぞ!」


「スミマセン、さっきから攻撃しようと、指示を出していますが、私のシステムは動いてくれません」


「不味いぞケイン、7分あれば1回H出来るぞ。いや2Hできるかもだぞ。この世の別れに、最後の3Hをするかだぞ」


増えてるし。1回2分は無理だ。




どうする?どうなる?


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