第16話

陸の覇王の攻撃まで、後6分。


敵と認識できないセイレーンは、動くことが出来ない。


どうする?策はあるのか?




「閃いたぞ!誤作動だぞ!セイレーン得意の誤作動だぞ!」


「!!それなら!確か、連続くしゃみ機能が付いています。以前使った時、誤作動しました」


オチャ博士ってすごいな。


「行きます!108種ある、くしゃみの一つ。花粉症です・・ぐっじゅん!ぐっじゅん!ぐっじゅん!」


「ねぇ様より命令受信。燃えないゴミを投棄せよ」


「ねぇ様より命令受信。違法投棄は、犯罪だ!です」


「違うぞ!セイレーンくしゃみのパターン変更だぞ」


108あるって言ったな。間に合うのか?




「NO107 鼻毛がくすぐったい時のくしゃみです。びくしょん!びっくしょん!びっくしょん!」


「ねぇ様より、どうでもいい命令受信。折り込みチラシは、捨てない事」


「ねぇ様より、節約命令受信。折込チラシの裏は、メモに使う事です」


ダメだ!これでは、魔道兵器の命令が出るまでに負けてしまう。


「もう時間がないぞ!切り札だぞ!行くぞだぞ!ターナ!」


「あらほらさっさ」


「行くぞ!マオだぞ!」


「ほいさっさだね~」


「王都3人トリオの実力を、見せてやるぞ」


何時から3馬鹿トリオになった?




「み、みなさん!なにを!?いや!だめ!」


アリスが、後ろから胸をわし掴みに揉みしだく。


ターナは、股に食らいつく。


マオは、脇をくすぐる。


「さぁ誤作動するだぞ!くすぐったくて誤作動を起こすぞ」


「(言葉にできない喘ぎ声)」


「ねぇ様から、攻撃命令受信」


「ねぇ様から、魔道兵器使用命令です」


くそぉ~~なんか悔しいが、よくやった。ナイスだ王都3馬鹿トリオ!




「作戦勝ちだぞ、派手にぶっ放すぞ」


「よし、魔道兵器さえ起動すれば、後はセレスでも撃てるわい」


作戦担当が、今まで何してた?


「まかせて!なんか燃えて来たわ」


うん・・燃えてる。下半身から煙が出てるぞ。


「ダメでござる!セレス殿は、起動したら危険でござるよ。制御装置交換の際に、駆動系を傷つけたでござる」


「今は、指示が優先じゃ、根性で耐えるんじゃ!」


セレスが涙目だ。




「うううううう・・・汚されました」


セイレーンは、地べたに横たわり、うつむいて泣いていた。


「大丈夫だぞ!汚れ切ったセレスよりは、若干綺麗だぞ」


比較対象が、悪すぎる。




「目標座標固定、射出ゲートオープン」


「充電完了です」


「機体固定アンカーよし、オールグリーン」


「ハドロンブラスター発射体制完了です」


唸りを上げる本体から、ルピとルカの声が聞こえる。


「ねぇ様、発射命令を」


「あねさん、発射命令をです」


陸の覇王に動きはない。いけるぞ!




「ううう・・800年守った純潔が・・」


セイレーンはダメだ。セレス!


「発射よ!早く撃って!燃えちゃうわ」


下半身から出火していた。


眩しい光と轟音、海の覇王の魔道兵器『ハドロンブラスター』が発射される。


「勝ったなぁじゃ」


「ああ、でござるよ」


パルスとトーレフは余裕だ。エヴァごっこをしてる。




ハドロンブラスターが、陸の覇王を襲う。


直撃だ!


「!!!なんだと!?」


着弾直前、ハドロンブラスターは、四方に放散する。


防がれた!


「うそだぞ?」


「うそじゃ」


「うそでござる」


「うそ」


「うそだね~」


「うそだ」


「誰か火を消して」


全員が驚愕した。




「ルピルカ‼再充電開始です」


うつ向いていたセイレーンは、ガバッと起き上がり、指示を出す。


「行けるのか?」


「いけます!あいつは、私の最大兵器を跳ね返しました。海の覇王のプライドは、酷く傷つきました!あれは敵です!」


「思ってたより緩いぞ」


「みたいだな」




「じゃがセイレーン。同じ攻撃は通用せんぞ」


「貫通型に変更します。ルピ、ルカ、ハドロンスピアです」


「はい、ねぇ様」


「ねぇ様、了解です」


「陸の覇王は、表面にシールドを張り、ブラスターを跳ねのけました。貫通型のスピアなら貫けます」


武器の形態も変えられるのか?


「ねぇ様、陸の覇王内部に高エネルギー反応」


「ねぇ様、陸の覇王、魔道兵器起動を確認です」


向こうも攻撃態勢だ。


「先に撃たれたら負けです。ルピ、ルカ、急速充電です。シールドダウン。維持に必要な機能以外は、ダウンしてください」


「シールドダウン。各センサー及び、未使用機能停止」


「急速充電開始です。ハドロンスピア発射迄85秒です」


本体の唸りは、さらに大きくなる。




「シールドを消したら、直撃されるでござるよ」


「同じです。私では陸の覇王の攻撃を防げません。先に打つ以外の勝機はありません。充電が優先です」


セイレーンの顔は、兵器としての顔だった。


「私が発射できるまで、後65秒。陸の覇王の推定最短発射迄、53秒です」


12秒間の差があるのか?


「そうです。その12秒の間に撃たれたら負けです。計算は最短を算出しています。誤差の程度にもよりますが、12秒以上かかる可能性もあります」


「ケイン!下がるぞ!運のないケインが前に居ると、先に打たれるぞ」


酷いな・・運で決まる問題ではない。




「ドキドキタイム迄、後15秒です」


勝敗を分ける12秒まで、後15秒だ。


「カウントダウン開始します。10.9.8・・・・」


「心臓に悪いぞ」


ああ、今は祈るしかない。


「心臓は無いが、胸がドキドキする」


レナは、その胸もないがな。


「ドキドキだよね~」


言い方に緊張感がない。


「ドキドキタイム!突入です」


何時攻撃が来てもおかしくない12秒間だ。




「後8秒!スーパードキドキタイムです」


スーパーになった!


陸の覇王が光を集め出した。向こうも発射直前だ。


「後4秒!間に合いません!ルピ、ルカ緊急発射です!」


陸の覇王の攻撃が先と判断したセイレーンは、発射命令を下した。


「見切り発射します」


「早漏発射です」


光り輝く、矢のような光弾が、複数発射される。




「突き刺さったぞ!」


複数の光弾が、陸の覇王に突き刺さる。


「やったでござるよ!」


「お願い、火を消して~」


「わしらの勝ちじゃ」


勝ちと火事だ。




戦況を見ていたセイレーンが、叫んだ。


「まだです!早打ちした分が足りません。攻撃来ます!伏せてください」


陸の覇王は、体勢を崩しながらも、魔道兵器を発射した!


「うわぁぁぁだぞ」


陸の覇王の攻撃は、俺たちの前で盾となっていた、セイレーン本体の側面に直撃した。


衝撃でセレーン本体は、大きく後ろに飛び、俺たちの目の前に墜落する。




「ルピ!」


セイレーンの声と同時に、本体の左上が吹き飛ぶ。


「ねぇ様、ルピは機能の42%を失いました。脱出できません」


「ねぇ様、本体内に火災発生です。自動冷却装置停止、自動消火機能作動しません」


状況の悪いことは、見ただけでわかる。


左の破損部分から、少女の上半身が見える。


が、黒煙に紛れ、無事の確認はできない。




陸の覇王は、墜落し爆散した。が、セイレーン本体も爆発の危機だ。


「ねぇ様、ルピは進言します。避難してください」


「ねぇ様、本体内の温度、危険域です。避難してください」


ルピとルカは、本体の爆発を告げる。


「あなた達を置いて逃げられるはずが・・・」


くそ!どうしたらいい?手は?策は?




「さがるぞ。後は私たちに任せるぞ」


アリス?


「ターナ!またいくぞ!」


「あらほらさっさ」


「レナ準備するぞ!」


「お、おう。ほいさっそ?でいいのか?」


「85点だぞ。まぁいいぞ。行くぞターナ!」


なにをするつもりだアリス?


「妖精魔法 風繰」


「氷魔法!ブリザードだぞ!」


アリスが魔法!?何時覚えた?


「はっ!はっ!はっ!はっ!はぁぁ!だぞ」


出産の時かぁぁぁ!!




アリスの手から吹雪が現れる。


ターナが風を操り、破損部から内部に送り込んだ。


「レナ!ルピを助けるぞ!」


「なるほど!承知した」


レナが飛び跳ねる。


「ねぇ様、本体内の火災鎮火。温度急速に低下中です」


湿った冷気は火を消し、温度を下げる。爆発の危険は無くなった。


「ついでに、ブリザードミニだぞ」


アリスは、燃え盛るセレスにも魔法を使う。




「ルピ!」


レナが戻る。ルピの損傷は、燃えたセレスより大きい。


セイレーンは、レナに抱きかかえられたままのルピに近寄る。


「ねぇ・・様・・」


優しくレナから受け取ると、頬刷りをして労わった。


「ねぇ様」


セイレーン本体のハッチが開き、ルカも出てくる。


損傷は無い様だが、真っ黒だ。


内部の火災のひどさを物語っていた。




セイレーンは、ルピを片手で抱き、ルカと手をつないだまま、アリスの前に来る。


「アリス様、私たちは助けられました。このご恩は、お礼で済ますには、あまりにも重い御恩です。


私はアリス様をマスターと認め、マスターの指示に従う事を誓います」


マスター?確かセレスも俺の事を。


「良いのかだぞ?私は釣り上げた魚に、餌はやらないぞ」


「構いません。放置全然OKです」


「ケイン!私、奴隷ができたぞ」


奴隷とか言うな。




「でも、敵認識が無いと、攻撃できるか不安です」


「大丈夫だぞ。私は本体のコントロールを掌握したぞ。攻撃できないときは・・・だぞ」


手を前に出し、モミモミ仕草をした。


「・・・・・ご褒美ですね。おねぇ様」


800年間、汚れを知らない乙女は、乙女のまま、アブノーマルな性癖を身に着けた。




「とりあえず命令だぞ。ケインの敵認識を解除だぞ。できない時は、システムごと引っこ抜くぞ」


「勿論です。恩人の旦那様が、敵であるはずがありません。すでに解除済みです。好感度もMAXです。今夜にも結婚できるレベルまで上げました」


敵からいきなり結婚相手に昇格した。




「ケインさん!」


ティナだ。天空にティナが現れる。


「陸の覇王の活動停止を確認しました。やってくれると信じていました!流石はケインさんです」


いや、俺は何もしていない。


今回は、アリスの神回だ。


「・・・えっと、そのアリスさんを、奥さんにしたケインさんは、さすがです」


今、考えたろ?なんとか褒めようと考えたよな。


「王都は?王都は無事かだぞ?」


「はい。私が周りに防壁を張っていました。王都は無被害です。これから、燃えている森を、神の加護で鎮火します。魔獣さん達も、消火を手伝ってくれます」


「魔獣さん?だと?」


ティナの顔に、焦りはない。意識して言った言葉だ。なら、帰ってくる答えは分かる。


「はい。私は、この世界に生きる、すべての人の女神です」


なんとなくは、分かっていたんだがな。


「怒りましたか?」


「いや、怒らないさ。防波線を張られていたから、なんとなくとは思っていたんだ」


「あの防波線は、いろんな意味で、今後、私を守ってくれます」


まだあるのか?


「あの~いいかな~森がさぁ~燃えてるんだよね~」


マオが、恐る恐る割り込んできた。


「いけない!話に夢中で忘れていました!神の加護 豪雨です!」


突然の豪雨だ。これで森も鎮火するだろう。




「成程、読めたわい」


パルスが、目をきらりと輝かせた。


「魔王の現れる日時、陸の覇王の機械的な動き、ティナ様のお言葉。どうやら、赤道の魔王軍は、機械じゃ」


「!!!何だと!?」


「前から魔王の出現日時が、200年丁度と言うのが、引っかかっておってな」


「何がおかしいぞ?200年ごとでキリがいいぞ。でも過去3回、毎回日時は違うぞ」


「この世界は10年ごとに、潤年がある。そして50年ごとに潤分。それらを計算に入れずに、単に1年を365日で計算すると、魔王の出現日と重なるのじゃ」


そうか、潤年と潤分の分だけ、現れるのが早まっていたのか。


「更に、陸の覇王じゃ。如何にも機械的な動き。セイレーンのような機転が利かないあたりは、単純なプログラムで動いておることを物語っておる」


確かに、単純な動きだった。


「そして決定的なのは、ティナ様のお言葉。『すべての人の女神』じゃ」


確かティナは言っていた「魔王軍は女神の庇護下にない」と。


「赤道の魔王軍は、人ではない。機械なのじゃ!」


天空のティナは、小首をかしげて笑顔を見せていた。




俺も理解した。


ティナは、この世界、全ての種族の女神だ。


俺達は、魔獣や魔王軍を敵としていた。国家として敵対認識だったのだ。


女神は、国同士の争いに関与しない。


ティナは、俺たちに情報を伝えられずにいたんだ。




「赤道の魔王軍は、陸の覇王を失った!わしらでも叩ける戦力しか残っておらん!」


天空のティナは、そっぽを向いて口笛を吹いていた。


「残存勢力を叩くのに、セイレーン本体があれば十分じゃ!」


お?ティナが、ほほ笑んでいる。


「ティナは教えてくれてるぞ。正解だと笑顔だぞ」


「ああ、答えは言えないが、YESかNOで、何とか伝えようとしてくれている。パルス!質問タイムだ」




色々聞き出せた。


パルスは、今後の策として、赤道の魔王軍を倒し、魔都に行くことを上げる。


セイレーン本体や、ルピの修理等で、3カ月ほどかかる。


出発は、8月15日だ。




「わしらの行動は2つじゃ。得た情報の分析と、夏のイベントのクリア‼8月15日まで精進せぇ!」


レベル上げとかでは、ないのか?って、イベントってなんだよ。




セイレーンは、礼を言いながらドックへ戻っていく。


トーレフとパルスも一緒だ。


俺達は、セレスを除き、王都へ戻る。

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