第14話
今日は、約束の5月5日だ。
アリッサと涙の別れをすると、俺たちは海岸に向かった。
昨日レナとセレスが、先に行って合流している。
行けば、すぐ会えるはずだ。
居た、パルスだ
「待って居ったぞ」
潮干狩りの最中だった。
「ケイン、見てみて。一杯取れたわよ」
「ああ、これを肴にした枡酒は最高だ」
「ワシは磯焼で一杯じゃ」
魔王が来るまで遊んでるか?全く緊張感のない。呆れた連中だ。
「ケイン~こっちも沢山取れるよ~」
「ハマグリも居る」
っておい!お前たちまで始めたのか?
「みんな、不謹慎だぞ。私たちは魔王を倒すために、パルスの知り合いに会う為、来たんだぞ」
珍しくアリスが真面目だ。真面目だが、両手で砂を掘り出していた。
太陽が真上に来た。まだ潮干を狩っていやがる。
「私たちが、遊んでるように見えるかだぞ?」
潮干狩りは遊びだ。
「甘いぞ、ケイン。私の思慮の深さに驚くがいいぞ。マオ!頼むぞ」
「ほいきた~いくよ~」
マオがリモコンを取り出し、スイッチを入れる。
!!砂浜に、背丈ほどの棒が、10m間隔で地面から出てくる。
先端にある赤灯が、サイレンを鳴らしながら回りだした。
さらに線路が2本、森から海まで現れる。
「さぁ気を付けるぞ。赤灯の後ろまで下がるぞ」
アリスの指示で、全員が海から上がり、赤灯の内側から出た。
「遊んでいた訳ではないぞ。潮が満ちるのを待っていたぞ」
なるほど!時間を待っていたのか?
各線路の上を通り、ボートが海に浮かぶ。
スワンボートと、アヒルボート。脚漕ぎボートだ。
「おい、これで行くつもりか?脚漕ぎボートで沖まで行くのか?」
「バカ言うなだぞ。これは先行小隊だぞ。見るがいいぞ!」
アリスの指さす先、森の中・・豪華客船が地面の下から、せり上がって来た。
「プリンセスアリス3世号だぞ」
マジか?超豪華客船だ。大型船舶だ。
2つの線路を使い、俺たちの前を海に向かって滑ってくる。
「まさかこうなるとは、想定外だぞ」
「予想しがたいね~」
「これは事故」
大型船が、水深50㎝の海に浮かぶはずもなく、
海に入ったところで鎮座していた。いや、これは座礁だ。
「この大きさでは、私の力では無理かも」
ピーはそう言うと、サイコキネシスで船を持ち上げようとした。
「だめ~~~~~」
流石の超能力鳥も、お手上げだ。
「ピーちゃんは~力を使い果たすと~寝ちゃうんだよね~」
001みたいだ。
ピーは、マオの手の中で眠りについた。
「先行小隊に牽引させるぞ。レナ、セレス、任せたぞ」
「ああ、プリンセススワン号発進だ!」
「プリンセスダチョウ号!発進よ!」
ダチョウなんだ・・・。アヒルかと思った。
レナとセレスが、プリンセスアリス3世号を脚漕ぎボートで牽引する。
1㎜も動かなかった。
「ワシが策を伝える!」
軍師パルスが動く。
「夏まで待てば、1年で一番海面の高い大潮の日が来る。台風とぶつかれば動くかもしれぬ」
はい、却下。
「仕方ないぞ。脱出用の救命ボートで、沖に行くぞ」
「1800億ゴールドのプロジェクト、水の泡」
ターナのため息。
「まぁまぁだよね~こんなこともあるよ~」
1800億が、こんなことで水に流された。
救命用ボート2隻に分乗し、沖に向かう。
各ボートの牽引はスワン号と、ダチョウ号だ。
陸が見えなくなると、パルスはターナに肩車をさせる。
「向こうじゃ!」
パルスの言う方向に島が見える。
小さな島だ。最大幅でも50m有るか無いか。
ヤシのような木が立ち並び、家が一軒、島の真ん中に建っていた。
海岸には、小さな埠頭があり、ボートを横づけ出来る。
「さて生きておるか?最後に会ったのは、25年ほど前じゃからなぁ」
パルスは家の扉を開ける。
「ふむ。連絡がないとは思ったが、やはりミイラ化しておったか」
袴姿のミイラが1体、部屋の中に転がっていた。
「推定死後、23年と133日13時間だな」
レナの検死結果だ。
「なに大丈夫じゃ。竜人族はタフじゃからな」
タフで済ますか?死んでるんだぞ?
「とりあえず生き返らせようかのぉ。セレス、そこのバケツに、海水を汲んできてくれるか?」
海水で生き返るだと?シーモンキーか?って、アリス!何をしている?
「マーキングだぞ。香ばしい香りがしたぞ。我慢できなかったぞ」
一応、お前ヒロインなんだから!こんな所で、シーするな。
「女王様のシーは黄金水で、プリンセスのシーはダメかだぞ?おかしいぞ!」
「言われてみればだね~」
「プリンセスシー、価値ある」
いやいや!ここでのシーは不味いだろ。
「見ろケイン!プリンセスシーで、御人が復活中だ」
ミイラの下半身が元通りだ。
「後で洗うから、このままシーで、上半身も復活させるのじゃ」
「よし、頑張るぞ」
プリンセスなら、人前でシーしたらダメ。
「ん~~~~~・・・でござる」
起き上がりやがった。
「私のシーで蘇生したぞ。私の成分70%ぐらいだぞ」
絶対言うなよ。
「パルス殿?おお!パルス殿ではないか」
「久々に来たら、干からびておったのでな、復活させたわい」
普通に会話してるところが凄い。
「こやつは、わしの知り合いでな『トーレフ』じゃ。こんななりじゃが、優秀な科学者じゃ」
竜人族。人間の体にワニの顔を持つ種族。
俺達の住む大陸とは、別の大陸に住んでいて、高度な科学技術力を有している。
が、基本怠け者。日永一日、日光浴で過ごしている種族らしい。
「お主がどうしたでござるか?こんなに大勢と一緒とは」
「実はな、魔王を退治してみようと思ってな」
「お主が?魔王?」
「そうじゃ。トーレフに力を借りたい。お主の持つ力と、お主の周りにいるやつらの力をな」
周り?
「はっはっは・・・お主も変わったでござるな。拙者が干からびて、23年と133日13時間。時は人を変えるでござるか」
レナすげーーーー。
「お断りでござるよ。拙者と貴殿を繋ぐモノは、世捨て人だったはずでござろう。この世界に、何の価値も見出せぬ者同士、故の縁でござった」
「・・・・。そうじゃったな。済まなんだ。無理にとは言わん。言わんが、わしの妹の話を聞いてから、答えを貰ええんかのぉ」
「妹殿でござるか?」
「妹のレナです。少し向こうの部屋でお話を」
レナとトーレフは、隣の部屋に入って行った。
「腐は、女の子限定だぞ」
「あれは女じゃ。竜人族では、美人らしいからのぉ」
「なんだとぉ!!」
「向こうから見れば、私たちだって異形だわ」
まぁ確かにそうだが・・・拙者とか言うのが女か・・・。
ドアが開く。
「何をしているでござるか!魔王とやらを倒しに行くでござる」
布教成功だ。
「魔王を倒すのに、必要な人材を紹介するでござるよ」
「例の3人組じゃな?」
「そうでござる。戦力大幅にアップでござる。が、3人のうち、2人は戦力外かもでござる。拙者が干からびる前に、機能を停止してると聞いたでござるよ」
「機能?機械族なのか?」
「まさか?13番機なのか?」
レナとセレスが身を乗り出す。
「そうじゃ、ワシらの妹じゃ。オリジナル13番機、セイレーン。そして支援機の2人。魔道兵器にして、幻の艦隊と呼ばれる存在じゃ」
「パルスねぇさん、ご存じだったの?」
セレスの疑問はもっともだ。前回会った時は、なにも聞いていない。
「わしらの制作者が残したUSBメモリーじゃ」
パルスは、ポケットから取り出して見せた。
「必要な時が来たら、読みこめと命じられておったが、今まで埃をかぶっておった」
今迄どれだけ、やる気が無かったんだよ・・・
「海の覇王セイレーンに関する情報と、セレスの情報じゃ」
「私の?」
「オリジナル12番機は、なぜ精子保存機能が無いか?自由意思なのか?が、それはセイレーンに会ってからじゃ」
「では、呼んでみるでござるよ。みんなが居ると、来てもらえるか?でござるがな」
「ワシですら、会ってはくれぬからのぉ」
パルスも会ったことが無いのか?
「会うのは拙者だけでござる。初めて会った時に、支援機の子の故障を直してあげたでござるよ。それ以来、拙者には懐いていたでござる」
そうか、・・俺たちも居るし、心配だな。
「じゃが、隠れていても同じじゃ。騙すような真似をするより、全員で会ったほうが良い」
確かにだ。後からぞろぞろ出てきたら、だまし討ちしたようなものだ。
「では、埠頭に行くでござる」
「やっホーーーーーで、ござる」
なんだそれは?海だぞ。
「合言葉でござるよ。これなら、間違いで拙者以外が呼び出すことはないでござる」
一理ある。確かに海で「ヤッホーーー」と叫ぶ奴はいない。
「・・・・やはり来ないでござるか」
誰も来ない。警戒されているのか、3人とも壊れていて動けないのか?
少し時間が過ぎる。
「トーレフ様」
後ろから、声が。岸壁に腰かけた少女。
!?セレスと同じ顔だ。
「おお!セイレーン!動けるようになっていたかでござる」
セイレーン!あれが魔道兵器なのか?
「本来なら、この身を、人前に晒すことはありませんが、おねぇさま方には、お詫びをしたくて」
「やはり、君が犯人だったのか」
「私たちからパーツを抜き取ったのは、貴女なのね」
レナとセレスだ。
以前襲われてパーツを奪われた。
「はい。私の妹、支援機がやったことです」
セイレーンは、岸壁に座りながら答えた。
その下半身は、魚の物だ。セイレーンは人魚形態をしていた。
セイレーンは、説明をした。
24年前に、自分のパーツは壊れ動けなくなる。
支援機の一人がパーツを、自分に付けてくれた。が、規格が合わず、すぐにまた壊れてしまった。
もう一人の支援機が、オリジナルを探していて、23年ぶりに見つけたのがレナとセレスだった。
支援機のした事とは言え、責任は自分にある。
きちんと謝り、罪を償って許して欲しかったと言う。
セイレーンは、海の中に置いてあった松葉杖を取り出し、
器用に立ち上がり、俺たちの前に来る。
「これは拙者の発明した、二足歩行支援機でござる」
松葉杖だ。
「なるほど、そういう理由があったのか」
「そんなに謝られては、怒れなくなるわ」
「妹の行為は、機械族にとって、命を奪うに等しい行為です。謝って許される事ではありません。どうぞ、罪をお与えください」
セレスと同じ顔、同じ声。違うのは下半身だけだ。
「とは言われてもな」
「そうよ・・仕方なかった・・わけよね」
2人とも、怒る気はない様だ。
「そう言う訳には!わたしの気がすみま・・・」
身を乗り出し、体はバランスを崩す。
俺の方に倒れ掛かって来た。
「危ない!!!」
俺は、抱えるように下になり、セイレーンと倒れ込んだ。
倒れ込んだ時、セイレーンの腰に手を当てた。たまたまメンテナンスハッチの開放スィッチを押してしまった。
俺の目の前に、開かれた胸の中が曝け出されいた。
「無礼者!!」
俺は、左頬に衝撃を覚える。ビンタされたようだ。
「あなたは敵です!わたしのシステムに侵入を試みました」
「何を馬鹿なこと言うぞ!」
アリスが大声で怒鳴る。
「ケインは、君を助けようとしただけだ!」
レナも否定してくれた。
「落ち着くのじゃ、セイレーン、今のはどう見ても、ケインは倒れた君を・・・」
「いいえ、こいつは私のハッチを開けました。私を破壊するつもりに違いありません」
とんだ誤解だ。
俺も否定したが聞く耳を持たない。
アリスが、横たわるセイレーンに、ビンタを食らわす。
「ケインのお返しだぞ」
マオとターナがアリスを止める。
怒りがタブーのこの世界で、今アリスは危険な状態だ。
顔は無表情だが、怒りは明らかだ。
「トーレフ様、この二人は私にとって敵です。攻撃します」
右手を高々と上げる。海が盛り上がり、黒い球体が現れた。
「これがセイレーンの本体じゃな?」
パルスが見上げながら、驚きの表情に成る。
直径が30mはある黒い球体。魔道兵器セイレーンだ。
「本体の武器システムを起動します。ルピ、ルカ、攻撃命令です。目標は、この男と女」
「ダメでござる、命令を中止するでござる」
黒い球体が唸りを上げる。
「私と同型機なら」
セレスが、セイレーンに後ろから抱き着き、
ヘソに指を突っ込んだ。
「はれれれれれ~~~」
セイレーンが脱力する。
「ねぇ様、攻撃準備完了」
「ねぇ様、発射命令待ちです」
セイレーンから女の子の声が聞こえた。
「セレス!セイレーンに、攻撃の中止を命じるのじゃ」
「え?私?」
「いいから早くせい!」
「分かったわよ。攻撃中止よ!中止!」
「命令を確認」
「攻撃中止です」
唸りは止まり、魔道兵器は海の上にとどまった。
「なんか、相当ヤバかったな」
「こいつ、ケインをひっぱたいたぞ。パパにもぶたれた事ないのにだぞ」
何故、俺がしらんパパを知ってる?
「とりあえず電源は切った。が。起こすとなると、また荒れそうだな」
だな・・・。
パルスがおもいのほか、困り顔だった。
セイレーンをベットに寝かせた。
俺達はベットの周りで、パルスの話を聞く。
セイレーンは、オリジナル13番機として、極秘に作られた存在だった。
製造計画は、オリジナル制作当初からあった。
が、高い攻撃力に疑問を持ったオチャ博士は、セイレーンにセイフティーを掛けた。それが高い倫理観だ。
自らが攻撃を受け、敵と認識しなければ、攻撃することが出来ない。
先制攻撃など、もってのほかなのだ。
しかし、万が一の時も考えていた。それが同型機、セレスだ。
セレスは自由意思。好き勝手な攻撃ができる。
でも、セレスには制御装置は無い。武器や機能の起動はできない。
支援機に、命令が出来るだけなのだ。
「セレスとセイレーンは、互いに自分の足らない物を、持ち合っていたという事か」
「セイレーンは、敵対攻撃が無ければ、攻撃は出来ん。セレスは、本体の制御装置がない。兵器として、互いに不完全じゃ」
「それがオチャ博士の意思よね?」
「兵器なら人型である必要はない。博士は、兵器として機能して欲しくなかったのだ。魔道兵器は、後の人類に、判断を委ねたのかもしれんな」
「判断?どう委ねたんだ」
「この二人が後の世で、協力的であるような世界。その世界なら、平和目的で使えるという事でござろう」
「わ、私と?」
「制御装置は、下半身にあるでござるよ。同型機のセレス殿と、セイレーン殿は、下半身の交換が可能でござる」
「とりあえず、すぐ交換じゃ。起きて暴れられたら敵わんからな」
トーレフが、左右の手に工具を持つ。
「レナ、セレスを拘束じゃ」
「すまんな。これも夢の世界の為だ」
「ちょ!、待って、心の準備が」
「痛くも痒くもないでござる。気が付けば終わってるでござるよ」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ」
セレスの断末魔の声が聞こえた。
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