第13話
ティナ降臨、二日目の朝。
よく休めたらしく、寝言で使った神の加護の事は、すっかり忘れているようだ。
王宮西棟が倒壊した。
今日のティナは、フリーだ。
ティナの希望で、先代勇者ケインの墓参りに行く。
セレスは喪服に着替え、いつもとは違う雰囲気を出していた。
先代勇者の墓は、王都英雄の丘に建てられていた。
レナ、セレス、マオ、ターナ、俺とアリス、そしてティナで訪れた。
立派な銅像が建てられている。
「ケイン様、今日は女神ティナ様も来てくださったのよ。あなたが亡くなって200年。あなたの無念と希望は、ここに居る5代目勇者様が、名前と一緒に、受け継いでくれたわ」
何時になく神妙なセレスだ。
「だから、あなたは何も心配せずに、ゆっくり休んでね」
!?銅像の目が光った?
今度はティナが、銅像の前で手を合わせる。
「ティナです。私の力不足でケイン様には、ご苦労をおかけしました」
!?銅像の目から涙だと?
「あの時、私が神の加護を、うまく使いこなせてさえいれば・・」
!?銅像の手が動き、顔の前を下から上に?なんだと!?怒りの顔に変わった?大魔神か?
「もう大丈夫です。私は神の加護を極めました」
「ケイン、こいう時は、どういう表情が良いかだぞ?」
後ろでアリスが、リモコンを操作していた。
笑う、怒る、泣く、喜ぶ、飛ぶ、光る。リモコンについていたボタンだ。
「あんたから受け継いだ名だ。俺はこの名に誓って、魔王を倒す!そして、この世界を救って見せる!」
銅像が、ケラケラ笑い出した。
「ごめんだぞ、間違えたぞ」
英雄で遊ぶな。
各々が持って来た花束が置かれる。
セレスは、立派なユリの花束。
ティナは、見たことのない奇麗な花束。天界に咲く花だそうだ。
アリスとマオも、レナも、立派な花束を置く。
ターナだけが花輪だ。本日新装開店と書かれていた。
何処のパチンコ屋から盗んできた?
墓参りが終わる。
「ケインさん、少し二人でお散歩しませんか?」
後ろで手を組み、前かがみに腰を曲げ、上目使いでの誘い。
「いいぞ、ケインを貸すぞ。遣っちゃってもいいぞ。女神を逝かせた聖剣の持ち主。旦那に箔が付くぞ」
相変わらず、寛容な奥さんだ。
「そんなんじゃありませんよ!少しお話がしたいだけです」
ティナは全否定だが、俺は満更でもなかった。
ティナは歩き出す。俺も続いた。
小高い丘の上、ティナの金色の髪が風で揺れていた。
「ケインさん?質問、有りますよね」
ティナは、後ろ向きのままで言う。
「ああ、アイリスが書庫を調べて、歴史認識の違いを知った。ティナは、世界の全てを見ていたんだろ?知ってたんだよな?」
「はい。知っていました」
「何故?みんなに真実を言わないんだ?」
「真実は自らの手で解き明かすものです。私が言った歴史が正しくても、それは人から聞いた話にすぎません」
「女神として歴史を隠したのか?戦争の事を」
「そんなことはしません。800年前の生き残りの方々が決めたことです。ある種族の方が、この世界を守るために、戦争の記憶と記録を封印したのです」
「守るために?」
「数少ない生き残りの人類には、大国や争いの記憶なんか必要ないと」
力を合わせろと言う事か?
「なら初代の勇者の事は?戦争の産物が魔王なら、初代勇者は存在しないはずだ」
「はい。その通りです。正確にはケインさんは、対魔王4代目勇者です。でも、初代勇者は存在します。戦争を終わらせるために、召還した勇者様がいます」
「それはおかしいぞ。女神は国同士の争い、戦争には加担しないはずだ」
「国同士なら・・ですね」
「!?」
「堕天使です。この世界の戦争には、天界の者が加担していました」
「!!!」
「だから私は、勇者を召還したのです。でも、この世界で戦うには、余りにも純粋で、真っ直ぐな方でした」
ティナは、思い出すのも辛いのだろう。悲しそうな目で遠くを見ていた。
「800年前のこの世界は、野蛮な世界でした。今とは逆で男性の数が多く、女性が少ないせいか、血の気が多く、力が全て、戦いで勝った者が正義。核の炎に包まれた199X年のような世界でした。
そんな世界に、勇者様は失望していました。でも、諦めず、根気よく、何とか戦争を終わらせようと、策を弄してくれました。しかし、周りは・・・」
なるほど、俺と同じなんだな。周りの評価は低く、協力は得られない。
頑張っても空回りしかしない。
「はい。そんな時に表れたのが魔王です。勇敢に立ち向かってくれましたが」
負けたのか・・・。
「はい。ですから、ケインさんが5代目と言うのは、嘘ではありません。一撃も入れられずに負けましたが、一応戦っています」
「そうか、勘繰ったりして、悪かった」
「…ケインさん、私は女神です。すべての人を幸せに導くのが使命です。しかし皆さんが、幸せになろうとしても、同じ方向を向いているとは限りません。ケインさんが、私を女神に見えなくなる時があるかもしれません。でも、信じてください。私は絶対に裏切りません」
「・・・・ティナ」
なにかを伝えたいようだが、言えないことがある?
そんな感じだ。
今は追及しない方が良いな。
「わかったよ。俺は信じてる」
「はい!ありがとうございます。では、戻りましょう。あまり長く二人でいると、2R目に突入とか思われます」
1Rなら良いのかな?
「戻ったかだぞ。遅いから2R目に突入したかと、おもったぞ」
女ってすごいな。
「スミマセン、アリスさん。1Rも消化できていません。本当に、お話しタイムだけです」
「わかってるぞ、遣ったら臭いでわかるぞ」
犬族ってすごいな。
「王宮に戻るぞ。ママがお昼の用意をしてるぞ」
俺達は帰路に就いた。
「おおおおおお、かかかかか、ええええええ、りりりり・・・」
言葉にならない出向を受けた。
「ケイン、大物が来てるぞ」
「見たことのない、大物よ」
レナとセレスも、慌てるほどの大物?
「ほよ。やぁケインさん、お帰りなんだな」
あんたは確かティナの。
「おねぇちゃん!」
「ティナちんが壊した、月の修復に来たんだな」
「その節は、お世話になりました。助かりました」
「うんうんなんだなぁ。ケインさんに頼られて、うれしいかなぁ」
「むむむこここどどどのののの・・・」
大女神を前に、言葉すらままならないアイリスだった。
「OKなんだな。大体の状況は分かったかなぁ?では修復にかかるんだなぁ」
「姉は女神でも、数人しか持っていない、天地創造系の資格を持つ大女神です」
「優秀なんだ」
「はい。私は3女ですが、出がらしです。優秀なところは、姉と妹に取られて、私は・・・」
「ティナちんは、優秀なんだな。私は、天と地は作れても、人の心は作れないのかな?ティナちんみたいにはね」
ティナの良いところを、ちゃんと見ている、良い姉だ。
「では行くかな?」
顔つきが変わる。大女神の顔だ。
「あまねく神々よ、我に力を、大女神の加護!天地創造!月よ甦れ!」
!!!割れたミキちゃんと、ランちゃんが、輝く。
二つの割れた月は、青く輝く生命の星へと変貌した。
「今は恐竜時代かなぁ?あと5億年で人類誕生なんだな」
大女神すげーーー。
アッという間に天地創造しちまった。
「7日もかけるのは、下手糞の仕事なんだな」
カッコぇぇぇ。
ビューティーは、ティナと一言二言話しをする。
「では、帰るんだなぁ。ティナちんの被害が出たら、また来るかな」
「どどどうううももも・・・」
まだ、しどろもどろだ。
ビューティーは笑顔で帰って行った。
「姉は忙しい身です。でも、いつだって私の失敗の、尻ぬぐいを・・。お尻ですよ、穴まで拭いてもらってません。穴はお医者様だけです」
スルーする身にもなってくれ。
王宮の部屋に行くと、アリッサのお出迎えだ。
「パパおかえり」
「いい子してたか?」
俺は、アリッサを抱きかかえる。
「パパお仕事、おわり?」
「ごめんなさいね、アリッサちゃん。パパを取ったティナは、悪い子でちゅ」
ティナの子煩悩振りも、なかなかのものだ。
「パパ、遊んで!トランプしよう」
「・・・・よし、やるか!」
「わたちが、大統領だよ。パパは政務補佐官ね。ママが中間選挙の敵陣営だよ」
そっちか?っーか40日才児の遊びか?
「大統領ゴッコは、まだ早いぞ。普通のトランプ遊びなら良いぞ」
「うん!パパとトランプ遊びやる!」
みんなでトランプ遊びだ。
だが、俺は自他ともに認める、引き弱男。アリッサの前で、頼れるパパになるためには、策を弄して、作戦勝ちを狙う。
アリッサは、テーブルにトランプを伏せたまま広げる。
「1枚づつ取るの。一番数字の大きい人の勝ち1が一番弱くて、13が一番強いんだよ」
グハ!運任せか!最も苦手分野だ。
「これではケインの負け決定だな」
レナ、俺を甘く見るなよ。
「不味いぞ、パパの威厳が失墜の危機だぞ」
任せろアリス。俺には策がある。
マオとティナは論外だ。
アリスとターナ、アイリス、たぶんレナも並み以上だろう。
狙いはセレスだ。
セレスは、如何にも幸薄そうな顔つきをしている。
まずは最弱カードのエースが一番出にくい状況。
1番に引くことだ。
後は強運グループに引かせた後、セレスが引けば、
セレスは弱いカードが多い状況で引くことになる。
「よし、順番は俺が最初だ。セレスが最後で頼む」
「あら、私が最後なの?順番なんかどうでも良いじゃない」
甘い。甘すぎる。お前は、その甘さの前に沈むんだ。
良し俺からだ!えい!
・・・・エース・・・しかも最弱ハート。
「期待を裏切らないぞ。私は8だぞ」
「ケインは予約席に座れたようだな。私は10だ」
「私11」
「13だね~」
「アリッサ12だぁ」
「わたくしは、9ですわ」
「はい。わたしも13です」
・・・くそ、予想は的中なんだ。
「あら、みんな良いカードね。わたし3だわ」
ぐはぁぁぁぁ俺の負けだ。予想は正しくても、引きの悪さがどうにもならん。
その後10連敗した。すべてエースを引きまくった。
「ぱぱ、よわいの?」
「ああ、済まないアリッサ。パパは勝負運がないんだ。一番弱いカードのエースしか引けない。弱いパパでごめんな」
「・・・パパ弱くない!」
アリッサが部屋を出て行ってしまった。
「例えゲームでも、俺は、アリッサの期待に応えられないのか・・」
「ケイン、大丈夫だぞ。アリッサはいい子だぞ。分かってくれるぞ」
「そうですわ。まだ子供ですわ。大人になれば」
「ああ・・・・」
親とはこんなにも、子供の一挙一動が堪えるものなのか。
俺の親は・・・。
アリッサが戻ってきた。
「もう一度!こっちのトランプでやるの」
「そのトランプ、天界公認のいかさま防止加護の付いたトランプですね」
あるんだ?
「はい。カードに印や魔法による加工ができない仕様です」
「はい!またパパから。1枚引くの!」
「ああ、引くよ。いかさま防止か、なら間違いなくエースだ。えい」
!?2だと?
「ほら、パパ!エース以外も引ける!」
「ほう、アリッサの愛の力か?次は私だな」
アリッサは持っていたカードをポケットに。
「レナはいいの!2を引いたパパの勝ち」
が、滑って床に落とした。表がえったカードは全て2だった。
「52枚全部2だぞ」
「ぱぱ・・・・」
くそ!抱きしめてやる。こんな可愛い娘、抱きしめずにはいられない。
が、ティナに先を越された。
「アリッサちゃんの想いは、必ず届きます」
ティナは、自分の首にかかっていたネックレスを外すと、アリッサの首に付けた。
「このネックレスは『想い想われのネックレス』です。アリッサちゃんを想う人。アリッサちゃんが想う人。お互いの想いが強いほど、想いは現実となります」
「パパに2を引いて欲しいと、アリッサが想うと?」
「・・・それは、パパに頑張ってもらいましょうね」
結局は俺が、か。
「女神が身に着けているモノは、高価だぞ」
「ですわ、あのTシャツも、町で大人気ですわ」
「良いのか?マジ高そうだ」
「はい。これは母が、女神になった記念に、と下さったものです」
「余計ダメだろ」
「いいえ。私はこれをアリッサちゃんに持っていて貰いたい。そう思いました。母は分かってくれる系の方です」
「ヤフオクにあげたら、とんでもない値が付くぞ」
「天罰ですよ」
「はい・・・だぞ」
こうしてアリッサは、想い想われのネックレスを頂いた。
「なぁ、アリッサ、なんで2だぞ?13なら最強だぞ」
「ダメ!パパにいきなり13なんか引かせたら、ショックで死んじゃう」
たぶん死ぬ。
「階段は一歩づづ登るんだよ」
くそぉ~~~可愛すぎる。今度こそ抱きしめて・・・
「偉いですわ~~~健気さに、もう泣けてきましたわ」
今度は、アイリスに先を越された。が、アリッサは空気の読める子だ。
自分からアイリスを離れ、俺の所で両手を広げた。
抱きしめた!渾身の!魂の!ハグだぁぁぁ!!!
・・・気のせいか?アリッサが、俺の尻を撫でまわした?
ティナの帰る時間が近づく。
「本当にお世話になりました」
「いえいえですわ。月も無事ですわ。西、東棟も保険で新品すわ」
「また来るぞ。ティナ様降臨を待ってるぞ」
「はい。必ず来ます」
「また、フォロー頼むな」
「はい。頑張ります!。では時間ですので、最後に盛大な奇跡を!」
「さぁさぁ、お帰りはあちらですわ。また来てくださいな」
「でも奇跡を・・・」
「さようならですわ~~~」
良い流れの中の別れだったんだが、露骨に追い返した。
次はパルスとの約束だな。
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