第12話
いよいよ今日、ティナがやってくる。
王宮の庭に降臨するそうだ。
多くの人が、一目見ようと集まっていた。
時刻は深夜0時、30秒前。
綺麗な3つの月は、静かに王宮を照らしていた。
時間だ。
眩しい光に包まれ、天空に金色の扉が現れる。開く扉の中も光輝いていた。
中から出てきたのは、ティナだ!
・・・Tシャツ。デニムのパンツ。麦わら帽子。コンビニの袋。ピーチサンダル。
Tシャツには縦書きで「ざ・女神」と書かれていた。
どう見ても、海の帰りだ。が、何はともあれ、無事に女神降臨。
「ケインさん!」
真っ先に、俺に駆け寄る。
「嬉しいです!こうして、お会いできる日を、楽しみにしていました!」
手を握られる。
「はい。これ」
コインを渡された。
「お賽銭です!」
女神に拝まれた。これが天界の挨拶なのか?
俺を拝み終わると、オーバーアクションで振り返り、民衆に向かい
「私は女神ティナ!降臨を記念して、神の加護による、奇跡をお見せします!」
あ、まて。なんかすごく嫌な予感がした。
「大丈夫です。この日のために練習してきました。あの3つの月を、太陽に変えて見せます!」
嫌な予感しかしない!
「神の加護!月よ!太陽に変われです!」
!!!!!!
真ん中の月が割れた。
「ミキちゃんが割れたぞ!」
月の名前か?
「左から、ランちゃん、ミキちゃん、スーちゃんだぞ」
「もう1回です!」
早く止めないと、普通の岩塊に戻りますになるぞ。
「お~ほほほほ~ティナ様、奇跡より宴会ですわ。王宮内に用意してありますわ」
「でも、皆さんに奇跡を」
「さぁさぁ、宴会宴会。カモミールに来たら、駆け付け3杯ですわ」
アイリスに無理やり連れていかれた。
「月、保険対象外」
契約担当のターナの一言だ。アイリスが聞いたら卒倒するな。
「3つあるぞ。1つぐらい大丈夫だぞ」
アリスは楽観的だった。
「さぁ!ティナ様!歓迎の宴ですわ。王都の誇る料理を並べてみましたわ」
「まぁ!凄い!見たことのない料理も、食いしん坊なので、うれしいです。これは、初めて見ます。早速頂きますね。!!おいしい!」
「はい、娘のアリスの料理ですわ」
「あれゲテモノだぞ。庭で捕まえた虫を、叩いて適当な野菜と炒めたぞ。冗談のつもりで置いておいたぞ。いの一番で行くとは思わなかったぞ」
絶対に言うなよ。
「これは独創的形ですね。プリンでしょうか?」
どう見ても崩れたプリンだ。
「あんなの私、作ってないぞ」
「・・・わたしが・・つくったの」
アリッサが、俺の足元に来ていた。
「ケインさんとアリスさんの娘さんですね。初めまして、女神のティナです。アリッサさんは、おいくつでちゅか?」
「35日才でちゅ」
「可愛いでゅね~女神ティナは、アリッサんのプリンを頂きます」
そ言うと、一口分を皿に上品に盛る。
「美味しい!アリッサちゃんは、料理がお上手です。お代わりしちゃいますね」
今度は大胆に行った。盛られている皿ごと食らいついた。
「食いしん坊だぞ」
「待て、娘の初料理だ、俺にも食わせてくれ」
ティナの持つ皿から、プリンを奪うと口に。
『!!!』
ティナは、俺の足を踏む。
「パパも美味しいそうでちゅよ~」
・・・なんだこの味は!?
砂糖と塩を間違えている。しょっぱいぞ!
「ほら、こんなに驚いて。パパ嬉しそうでちゅよ~」
「ああ、・・・アリッサはママに似たようだな。料理が上手くなるぞ」
「えへへへ」
アリッサの嬉しそうな顔だ。
すかさず横から、アリスが水を差し出した。
「はちみつ入りだぞ。お口再生だぞ」
!?知っていたのか?
「犬族だぞ、鼻は効くぞ。砂糖の匂いがしなかったぞ」
アリスは、俺の耳元で呟いた。
「ありがとうございます。でも大丈夫。神の加護を使います。神の加護!お口再生です!」
どごぉぉぉぉぉぉぉ~~~ん
「!!東棟が崩れ落ちましたわ!」
また、やらかしたようだ。
「保険対象」
ターナの言葉に、アイリスの安堵の顔も、その目からは涙が流れていた。
「月や、棟の一つや二つ。全然いいぞ。大事なものを壊さなかった、ティナ様には感謝するぞ」
何時以来の「様」付けだ?
「モノなんか、いくらでも壊して構わないぞ」
「その通りだ、形あるものは、何時か壊れる運命だ」
レナ、来たのか?
「怪しそうな奴は~いなかったよね~」
「ええ、周辺の警護をしていたのよ。偉いでしょ」
マオと、セレスも来た。
「さぁ、私たちも頂くわ。お腹減ったわ」
機械族でも、腹が減るのか?
レナは、うすら笑いを浮かべながら、説明してくれた。
「食事は人間とのコミュニケーションの、大事なファクターだからな」
なるほど、で?旨い不味いは分かるのか?
「勿論だ。味覚もある。旨い不味いだけでなく、好みもある。私は菜食系だが、セレスは肉食系だ」
「レナはサラダしか~食べないよね~」
「だから胸が無くなるぞ。肉喰わないからだぞ」
そうか、なるほどな。
「これは仕様だ!私たちは太ったりはしない」
剥きに成るところを見ると、気にはしてるようだ。
「ティナ様、こちらにお席を用意してありますわ。おかけください」
大理石の立派な椅子だ。
「あ、私は立ったままで・・・」
「ティナ様がたちっぱでは、私たちは掛けられませんわ。さっさぁ、どうぞどうぞ」
ティナは、そう言われると、少し困り顔で椅子に向かうが、椅子に置かれたクッションを見ると・・。
「!!こ、これは!?尻の穴保護クッションですね!」
違う!ドーナツクッションだ。
「皆さんも、痔なんですか?」
敢えて触れないようにしてるんだ、自分で掻きむしるな。
「なんのことですの?これは王宮ご用達、ドーナツの形のクッションですわ。美味しそうな色形。座り心地も最高ですわ」
「いえ、なんでもありません。女神が痔なんて、ありえません」
大分手遅れだ。
宴会は朝まで続いた。
ティナは大喜びだった。
「おはようございます。って、もうお昼ですね」
ティナが起きてきた。
「長旅でお疲れだったのですわ。好きなだけ、お休みに成っていて下さませ」
「ええ、でも視察も兼ねていますので、今日は女神としての、仕事をします」
「女神の仕事?だぞ?」
「はい、王都にある、女神神殿の視察です」
「ではアリス、ティナ様をご案内してくださいな」
「分かったぞ、みんなで行くぞ」
こんな流れで、俺たちは女神神殿に行くこととなった。
この世界の唯一神であるティナは、神殿に祭られている。
神殿は天界との共同運営で、派遣された天使も、ここで働いていた。
「あれ?確か、天界窓口の?」
「五代目さん!」
「今はケインです。こちらでもお仕事を?」
「はい。掛け持ちで巫女もやっています」
天使が神殿で巫女?
「ご苦労様です。確か5級天使の「ルル」さんですね」
「はい!ルルです。ティナ様、ご降臨ご苦労様です」
「凄く綺麗で、掃除も行き届いてます。良い管理をしてくださって、ありがとうございます」
「この世界の方は、信仰心にあつく、毎日ティナ様の像を、磨いてくださってます。ティナ様護符や、ティナ様人形の売れ行きも上々です」
「ティナ人形?」
「これです。可愛いですよ~」
おお、なるほど。
ティナを2頭身にデフォルト化した人形だ。
名札に、何か書いてある・・・無邪気なデストロイヤー女神ティナ。
「これは?」
「はい。私の二つ名です。女神女学園の頃のあだ名が、そのまま二つ名になりました」
その頃からなのか・・・。
「今日も大勢の参拝の方が、ほら、沢山のお賽銭を」
ルルが、女神ティナ像の前に置かれた、賽銭箱を指さす。
「女神の力の源は、信仰心とお賽銭、グッツの売り上げです。カモミールは、私に大きな力と、営業成績を与えてくれています」
「今回の降臨で、売り上げ増は確実です」
「はい。部長にも販促してくるように言われています。此処で奇跡を見せれば、売り上げ倍増。ボーナスも倍増です」
「待て待て、今は、、、そうだな、おみくじでも引こう」
俺は目についた、おみくじで、話を逸らす。
「ナイスだね~またやらかしたら~女王泣いちゃうからね~」
「危機一時回避」
おう、俺の機転だ。
「私のおみくじは、一部では、よく当たると噂されています」
「一部だぞ?」
「はい。当たった人から、当たるねと言われてます」
まぁ、当然だ。
「では、私から引いてみます。女神の幸運見せて差し上げましょう!えい!」
おおおおお、大吉だ。流石は女神。
「でも、恋愛運は『シーズン4まで待ちましょう』になってるぞ」
だからなんだ、そのシーズンって。
「健康運も~イマイチだよね~『切れたら大変』だよ~」
ピンポイントか?すごいな。
俺はっと。
「最強最悪グレート大凶・・・なんだこれは?信者を減らしたいのか?」
「ウぁ、初めて見ました。あるとは聞いていましたが・・」
祭られている女神すら驚きのようだ。
「でも、恋愛運は良いぞ『絶好調。最高の妻をめとるでしょう』だぞ」
アリスの事だな。
「待ち人も~『320日後に表れます』だよね~」
魔王の事か?待ち人扱いなんだ。
「勝負運最悪『マイナス200億ポイント。勝てる相手が居ません』」
勇者として致命的でね?
「ケインさん、おみくじなんか、当たるもひゃっけ、外れるもひゃっけです。気にしないで大丈夫です」
販売元が信用性を全否定した。って言うか、信じられない精度だな。
「ケインさん、これ撮って良いですか?」
ルルちゃんは、俺の引いたおみくじを写真にとる。
「こんなのを撮っても・・・」
「ティナ様が担当する勇者様の引いたおみくじっと。天界インスタにあげました」
あるんだ・・天界にも。
「うぁ~~~もう3万いいねが付いてます」
何処が良いんだか?
「まだまだ伸びます…すごいです」
「歴史の教科書に載るかもしれません。今だ、引いた人は居ないんですから」
逆なら良かったんだがな。
「最高最強ミラクル大吉とか~でたよ~」
マオも凄いのを引いた。
「ウぁ。初めて見ました。あるとは聞いていましたが・・」
祭られている女神すら驚きのようだ。
ってデジャブ。
「流石はマオだぞ。でも恋愛運は『未知の世界』だぞ」
「勝負運『199億ポイント』・・ケインの勝ち」
マオの運の良さより、俺の運の悪さの方が勝っていた。
「ケインさん大変です!私のコスト口座に、大量の振り込みが」
どういう事だ?
「はい、書き込みが付いてます。
(こんな不幸な勇者の守護、大変ですね)
(まさか、これを引いた勇者の担当とは、絶望しないでガンバ)
(次は良いことありますよ。少ないですが使ってください)
天界の皆さんからの、同情支援のコストです」
「凄いですね・・同情票が、ティナ様の口座になだれ込んでます」
喜んでいいのか?俺は喜ぶべきなのか?
「皆さん、聞いてください。丸々1回分の、魔王討伐予算に匹敵するコストが集まりました。これで皆さんに、超強力な「スキル」を付与できます」
とんだクラウドファンディングだ。
「なんにしても、ケインのおかげだぞ」
「そうだね~ケインの不幸が無ければ~こうはならないよね~」
「不幸転じて福となす」
物は言いようだが、確かに実にはなりそうだ。
ここは素直に喜ぼう。
王宮に戻ると、すっかり日が暮れていた。
アイリスは、宴会の準備を終えて出迎えてくれた。
ティナは宴会のお礼にと、神の加護を使い、2つ目の月「ランちゃん」を破壊する。
「いいぞ、一つや二つと言ったぞ。でも、三つめは死守するぞ。スーちゃんは死守するぞ」
「神の、と言いかけたら、これで殴りますわ」
ゴルフのクラブだ。それはよせ、シャレにならん。
連日の宴会は、深夜まで続く。
ティナは、大いに食べ、大いに楽しんでいた。
あれだけ食べて、尻は大丈夫なのか?
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