第11話

パルスが茶を持って来た。


茶は3つだ。レナとセレス、自分の前に置く。


俺達は、眼中にないという意思表示だ。




「この手紙を見て欲しい」


レナは、魔王軍からの親書を取り出した。


パルスは、それを見ると「下らん」と、一言吐き捨てた。


「わ、わかるのか?」


レナが身を乗り出す。


「分からないお前たちの頭は、何で出来ておる?」


「頼む、教えてくれ。どんな意味があるんだ?」


セレスは一言もしゃべらない。馬鹿にされるのが、分かっているからだ。




「ああ、教えてやろう。じゃが約束じゃ。答えを聞いて納得したら帰れ。わしは、魔王討伐には協力はしない。いいな?」


「・・・ああ、わかった。魔王討伐の話はしないさ。約束する」


良いのか?だが、ここは任せてある。口を挟むわけにはいかない。


マオもターナも分かっているようだ。


任せた以上は、信じる。




ーーーーーーー親書ーーーーーーーーー


魔王軍は、魔王の復活の準備をしています。


魔王軍の魔王は、魔王軍の魔王復活を阻止するため、


王都との共闘を望みます。




魔王軍、魔王アズサより、王都女王アイリス様へ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「魔王軍は2つある。1つは魔王を復活させようとする、魔王軍。もう1つは、魔王アズサ率いる魔王軍。後者は、王都との共闘を望んで居る」


おおおおおおおおお。


偉そうだが、確かに、言われてみれば、その通りだ。頭が良いというのは伊達ではない。




「成程、流石はパルスねぇさんだ。意味が分かった」


「なら約束通り帰るんじゃ。わしは静かに余生を送りたい」


「ああ、約束だ。魔王討伐の話は無しだ。だが、妹との話なら良いだろう?二人だけで話がしたい」


レナは立ち上がり、別の部屋に向かう。


「まぁ、200年ぶりに会った妹の望みぐらいは、叶えてやるとするかのぉ。何を企んでいるかは、知らなんがな」


パルスも立ち上がり、レナの居る部屋に入り、ドアを閉める。




「ふぅ~~~気を遣うわ」


何も喋らなかったのにか?


「そうよ、この重い空気。代用品パーツに、負担が掛からないか、心配で心配で・・」


そういう気を遣うか。


「レナは~説得できるのかな~」


「あれ、頑固そう」


「無理だわ。今日は余程機嫌が良かったのよ。手紙の解読だけでも、ラッキーよ。説得なんか200年前、嫌と言うほどやったのよ」


そうか、なら期待はできないな。




「レナ、わしに次ぐ切れ者のお前が、はいそうですかと、引くとは思えん。何を企んで居る?」


「あははは。200年ぶりに会ったんだ。企みなどない。確か、ねぇさんは本が好きだったよな」


「好きじゃ。ジャンルは問わん。本なら何でも大好物じゃ」


「これを読ませてみようと思ってな」


レナはカバンから数冊の本を取り出し、パルスに渡す。


「随分と薄い本じゃな。ふむ、こっちは小説か。こっちは漫画。どちらも大好物じゃ。どれどれ。


 !!!なんとレナ!何だこの不埒な!男同士じゃと!?お前、いつからこんな・・・こんな・・・こん・・ほぉ~~おおおおお」


「まだあるぞ。読むか?]


「ああ。続きを、続きを早く出すのじゃ」


「ああ、沢山持って来た」


「全部出せ、全部だすのじゃ」




「こんなジャンルがあるとは、わし知らんかった」


「どうだい?ねぇさん。素晴らしい世界だとは、思わないかい?」


「思う‼すべてが新鮮じゃ。心が洗われる思いじゃ」


「現実で、見たいとは思わないか?」


「現実でじゃと?見たい!見てみたい!」


「今の世界では無理だ。男が足らない過ぎる。が、魔王を倒し、呪いの無くなった世界では?」


「無くなった世界では・・・?」


「男は増えて、煌めく世界が訪れる!」


「訪れるじゃと!?」


「ああ、私たちの望む世界だ!」




勢いよく扉が開いた。


「勇者(仮)、何をボサっとしておる。サクッと魔王とやらを倒しに行くぞ」


なにをやらかせば、こうなる?


「大したことはない。私の趣味を、理解してもらっただけだ」


布教しやがった。




「次の行動じゃが、会わせたい奴が居おる。魔王との戦いに成れば、大きな戦力になるじゃろう」


「そんな奴が居るのか?この世界に」


「ああ、絶大な力じゃ。時間はあるか?今からだと1週間はかかるじゃろう」


「ないわ。今すぐ戻らないと、大変なのよ」


「実は、ここに来る途中に襲撃を受け、起動維持に必要なパーツを盗まれた。今は代替品で動いているが、あと3日ほどしか動けない」


「では時期を決めて落ち合う事にする。いずれにしても、手紙の魔王軍とも会わねばならん」


「魔王軍に~会うとなると~魔獣と戦う事になるよ~」


マオの心配はもっともだ。


「案ずるな。策はある。わしに任せて置け」


流石は戦略特化型だ。もうそこまで考えているのか?


「では、中型の船を用意てもらおうか。そして5月5日朝に、王都西海岸で会うとしよう」


俺達は、パルスと約束をすると、王都への帰路に就いた。






「ケイン!おかえりだぞ!!!」


アリスが飛びついてくる。俺の周りを駆け回る。


尻尾が、千切れんばかりに振れて居た。


一緒に、白い犬が俺に甘えてきた。


アリッサだ!こんなに元気に!


俺は、アリッサを抱きしめる。


「ただいまアリッサ」


アリッサは、俺の顔をなめ捲った。歓迎の印しだ!


「違うぞケイン、それアリッサじゃないぞ。ただの野良犬だぞ」


なんだとぉ!




「婿殿!お帰りですわ」


アイリスに抱っこされた幼女。


今度は間違いな!アリッサだ!


生まれてから6日目だ。もう2歳児ぐらいに成っている。


まだ顔に犬っぽさは残るが、人間の目、口。


「アリッサだよな?」


「ぱぱ!アリッサだよ」


!!!!わが子だ!我が子との初会話だ。


俺は、アリッサとの、再会を楽しんだ。


レナ達も、アリッサを取り囲み、「可愛い可愛いと」と、褒めたたえていた。






「婿殿、幾つか報告がありますわ」


アイリスの顔は女王の物だった。


「1つ。歴史認識についての、情報がまとまりましたわ。


 2つ。天界から書類が来ていますわ。


 3つ。アリッサの事ですわ。どれからお聞きになります?」


「アリッサ~」


「だと思ったぞ。ケインなら間違いなく、アリッサからだぞ」


当然だ。我が子に関する報告は、何を差し置いてもだ。




「ケイン、アリッサと戦うぞ」


「!?戦えだと?6日児だぞ。見た目は2歳児だが」


「婿殿、説明より、ご自分の目で、見たほうが良いですわ」


「ぱぱ、おねがいちまちゅ」


アリッサは両足で立ち、おもちゃの剣を抜き、一礼をした。


「よし、パパが相手だ。どこからでもかかってこい!」


「いくよ、ぱぱ!魔法剣!火斬!」


「グハぁぁぁぁぁ!!!!」




「蘇生したぞ。もう大丈夫だぞ」


俺は、子供用のプールの中で意識を取り戻した。


「ティナ様から頂いた、命の泉の水ですわ」


「確か今、アリッサと・・・」


「ぱぱ、ごめんね」


アリッサが横で泣いていた。


「婿殿、アリッサちゃんは、レベル400の魔法剣士ですわ」


「な、なんだとぉ!!!レベル400だと!?セレスと同じだと!6日児が!?」


「ケイン、私は剣士のレベル400よ。上級職の魔法剣士のレベル400とは、比べ物にならないわ」


「この世界で、勇者に次ぐ上級職は、魔法剣士だぞ」


「アリッサが、その魔法剣士だというのか?」


「魔法剣士は努力では成れませんわ。生まれ持った才。アリッサちゃんは、生まれながらにして魔法剣士ですわ」


「それって、凄い事なんだよな?」


「祝賀会3回分ですわ」


「前回と同規模か?凄いな!」


「ぱぱ、いたくなかった?」


俺は、アリッサの頭に手を置き、笑顔で答える。


「痛くなんかないさ。アリッサの凄さに、嬉しさが溢れ出しているところだ」


「ぱぱ、うれしい?」


「ああ、すごいぞアリッサ。パパもママも、こんなに嬉しいことはない」


アリッサの顔に笑顔が戻る。


アリッサは、この世界を救う力となるかもしれない。


自分の未来を掴む力を持って、生まれて来たんだ。






「次の話がだ、どんな話を聞いても、感動しそうにないな」


「大丈夫だぞ。感動するような話じゃないぞ。 次は、天界から来た書類の話だぞ」


「婿殿、これを見てくださいな」


ウぁ。細かい字で、しかもこれは天界文字だ。


「尻の下においても壊れない、何とかルーペで見ないと、見えないぞ」


「見えたところで、この文字は読めないだろう」


用紙にびっしりと読めない文字が、1文字約0.3mで書かれていた。


一番下の署名、捺印だけが、俺たちの言葉だ。




「天界窓口の天使様に、読んでいただきましわ」


「ぶっちゃけると、同意書だぞ。女神が来て、どんな被害が出ても、天界は保証しない、って内容だぞ」


「どんな被害って‥。女神だぞ、被害なんか出すわけないだろう」


「細かく書かれているのは、被害の一覧ですわ。洪水を起こしただの、海を割ったのだのから、花瓶を割るとか、机に傷をつけるに至るまで。事細かですわ」


「中には便座を汚す、なんてのもあるぞ。石をパンに変えるのは、食品衛生法違反らしいぞ。とにかく一切の苦情と賠償は、受け付けないという事だぞ」


「保険の窓口も書いてありましたわ」


「なんとなく悪意を感じるな。保険、一応相談してみたほうが良いのか?」




「はい。こちらは天界保険、お客様加入窓口です」


「あのですわ。今度女神様がいらっしゃるので、保険に入ろうかと思いますの」


「女神降臨保険ですね。ご案内します。1日滞在で30ゴールドです。物損から、人的被害に至るまで、幅広く保険の対象としております」


「30ゴールドなら、一応は加入しておくぞ。3日で90なら、安心を買うぞ」


「はい、ではご契約ですね。降臨される女神さまのお名前から、宜しいでしょうか?」


「ティナ様ですわ」


「・・・・。申し訳ありません。今ご案内した保険の、加入条件を満たしておりません。


ティナ様損害賠償保険を、ご案内いたします。1日滞在で9000万ゴールドです」


「なんだと!30万倍ってどういう事だ!」


「更に、世界を破壊した際の、天地創造やり直し、人類再生などの場合は、保険の対象外となります」


「あいつ、魔王かだぞ」


「2億7千万は、とても払えませんわ。半年分の国家予算ですわ。大祝賀会が270回開けますわ」


「とりあえず保留だ。流石に保険の額がでかすぎる」




「どうします婿殿?」


「イメージしてたティナと、現実のティナに大きな差があるようだ」


「そういえば、部屋の壁に、脱ドジっ子女神って紙に書いて貼ってあったぞ」


「ああ、リリスも、あのドジっ子女神と言っていたな」


「ドジのレベルが、私たちとは、違うような気がしますわ」


「そうだぞ。世界を滅ぼすレベルだぞ」


「流石に困ったな」




「どうしたの~みんなで頭抱えて~頭髪マッサージかな~」


「毛根刺激」


ターナとマオだ。


「実は、あれこれこうだぞ」


「3億かぁ~私出すよ~」


「!?」


「マオ金持ち」


「マオ、3億ってわかるかだぞ?3億は、1ゴールドが3億あることだぞ」


「たぶん~あるよね~ターナ~」


「楽勝。200回加入できる」


「なんだとぉ!」




ピーが、色々な世界で投資をやって、マオの資産を増やしまくってるらしい。


「超能力の悪用だぞ」


いや、微妙だ。能力はスキルだ。投資スキルと考えれば、問題ない。


「ティナ様に~気分よく来てもらいたいよね~」


マオは大金持ちだったと知った。


アイリスはマオの出資で、ティナ損害賠償保険グレード(1日1億ゴールド)に、加入した。




3つ目は、歴史認識の違いだ。


アイリスが、書庫の記録をまとめた内容だ。




今までは、800年前に、突然『魔王』は攻めてきて、3つの呪いをかけた。と認識していた。が、違うようだ。


800年前以前、人類は戦いに明け暮れていた。


領土をめぐり、北と南、東の3つの大国の戦い。


東の大国の生み出した兵器、それが『魔王』だったのだ。




『魔王』が、呪いをかけた。これは、史実通りのようだ。


魔獣落ちの呪いは、敵味方関係なく、人々を魔獣に変えた。


『魔王』は暴走したのだ。


魔獣落ちと『魔王』の攻撃、人類は、たった数日で衰退していった。




だが、こんな時代に、魔獣落ちしなかった人間はいたのか?


誰が魔王を封印したのか?


魔王が兵器だとしたら、国同士の戦いに、女神は関与しない。と、いう事は、初代勇者は存在しないはず。


ティナは俺を、5代目だと言った。


新たな謎が残った。。


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