第10話

「ケイン、別れがつらいのは分かるが、そろそろ出発するぞ」


「ああ、わかっている。分かってはいるが、後5分だ」


「2時間前から~同じことを言ってるよね~」


「親バカ」




アリッサの生まれた翌日、俺はレナ達と共に、パルスとか言う、頭のいい奴に会う為、約1週間の予定の旅に出る。愛娘との別れがつらい。


「ケイン、もう行くぞ。帰れば会えるぞ。たった1週間だぞ」


「10m離れたら、どうのこうのと言っていたよな?」


「婿殿、皆さんを、これ以上お待たせしては、いけませんわ」


くそぉぉぉぉ、わかった。行って来るよ。だが後5分だ。


結局後5分を、7回繰り返した所で、レナに抱きかかえられ、愛娘との別れとなった。




「我々は西に進み、海岸線に出る。海岸線を南下すると、岬がある。そこを東に入るとパルスのいる湖だ」


「人類域だろ?警戒が必要なのか?」


「昔だけど~その辺では~盗難被害が出てるんだよね~」


盗難?この世界で、盗みなんかできるのか?


「魔獣落ち確定」


「ああ、だが、盗難は事実でもある。人的被害は出ていないが、一応警戒するべきだ」




王都から2時間ほどの距離を歩くと、海岸線に出た。


潮の香りが良いな。浜を南に下る。


砂浜は歩きにくいが、広大な海を見ていると、疲れを忘れる。


6時間ほど歩いたところで、レナが休憩の指示を出す。


「よし少し休憩だ。私とセレスは、動力がある限り動き続けられるが、ケインたち生ものは、定期的な休息が必要だからな」


機械に生モノ扱いされた。




「私は海で、今晩の食材を確保して来る」


現地調達なのか?


「ああ、せっかく海に居るんだ。新鮮な魚介類が良いだろう」


なるほど、確かにそうだな。


「私の新鮮なアワビを召し上がらない?」


セレスの、えろさが始まった。


「えろさ」とは、俺がセレス用に作った造語だ。


悪いことをするのが「わるさ」


エロいことをするのが「えろさ」だ。




「デザートは、おねぇさんのサクランボよ」


くどいようだが、余りえろさばかりすると、電源を切って浜に埋めるぞ。


「ひぃ!」


これで、暫くは大人しくなる。




レナが戻る。


大きなサメを抱えていた。ホオジロザメだ。


「ふふふ、魚類の分際で、私に挑んできた。今夜はサメ鍋だ」


サメは食えん。お前が全部食え。




休憩が終わる。


レナは、サメを抱えたまま歩き出す。


夕日が水平線に沈む頃、雨が降り出した。


「今日は、ここまでだな」


辺りが薄暗くなると、レナは林の中でテントを張ることを提案した。


月が出ない夜は、明りが無い。


妥当な判断だ。




夕飯は宣言通り、サメ鍋だった。


アンモニア臭くて食えない。


「妖精魔法 大地の恵み」ターナが妖精魔法を使う。


大人になったターナは、精霊の力を借りて、魔法が使えるようになったのだ。


魔法、大地の恵みにより生み出された、洋々な野菜。


セレスが料理する。


鼻歌交じりに料理する姿は、綺麗なおねぇさんだった。


が、料理は生で食べたほうが旨いレベルだ。




薪を燃やして、明かりを取る。


月明かりのない夜は、真っ暗闇だ。


俺は、ターナとマオのテントだ。機械族2人は表で見張り。


雨が激しくなり、テントに打ち付ける。


静寂の中、雨音だけの世界で、俺たちは眠りにつく。


ターナは分かるが、マオも俺に求めては来ない。


やはり、アリスに気を使って?




「ケイン~起きてよ~大変なんだよ~」


ん?・・・・


「ケイン起きろ」


痛て、ターナが頭を蹴っ飛ばした。


「どうした?何があった」


蹴られた頭を、なでなでしながら上半身を起こす。


「レナとセレスが~大変だよ~」


なんだと!?




俺は飛び起き、テントの外に出る。


20m程離れた木の根元に、寄り掛かるようにレナが、


浜辺に向かう道の途中で、うつ伏せのセレス。


襲撃された。・・いや、だれに?


「周囲、人はいない」


「電源を切られたのか?兎に角、二人を起こそう」


「それが~起きないんだよ~」


「部品取られてる」


なに?部品を取られてるだと?




ターナはセレスに向かう。うつ伏せのセレスを、足でひっくり返す。


・・足蹴かよ、結構鬼だ。


胸に巻かれたタオルは無い。ハッチは半開き状態だ。


「私、レナのメンテ手伝う。ここの部品が無い」


確かに、ターナの指さした所には、何らかの部品があった形跡がある。


「どうしよう~どうしよ~」


部品が無いのでは、直しようが無い。有っても、俺の知識では直せない。


困った時は、サポートに連絡だ。




ティナ!ティナ!ティナ!天空が光る。


「ほよ?」


眼鏡をかけたティナ?いや少し違う・・?


「あ~~君がケイン君なんだなぁ?」


ティナに似ているが、しゃべり方がまるで違う。


「あれ?ティナは?」


「ティナちんは、今トイレなんだなぁ。便秘してるから、出てこないかな?」


「それは困った」


「私はティナちんの、おねぇたまなんだなぁ。私が聞いてあげるかな?」


「それは助かります。お願いします」


たぶん女神だ。一応の礼は尽くしておこう。




「ふんふん。なら、アイリス女王に、伝えればいいんだなぁ」


「はい。それでお願いします」


「ティナちんは、トイレだと力み過ぎるかなぁ。いつも切れちゃってるから、後で、労わってあげるんだなぁ。ポイント上がるかなぁ」


女神が切れ痔だと?聞きたくない情報だ。




姉と名乗る女神が消えた。


後は待つだけだが、二人がこうなった以上、警戒を緩める訳には行かない。


どんな敵がいるかも分からないからな。


「ケイン~~~早く泳ごうよ~」


「生まれたままの姿で海水浴」


どんな敵が・・・くそ~あいつら緊張感がない。




まだ春だが、南からの海流とやらで海の水は、結構温かい。


結局俺も、泳いでしまった。


王都から、ここまで10時間ほどかかった。


「なんか地響きが~聞こえるね~」


連絡を受けたアイリスが、機械族の技師に連絡をして、出発するまでの時間を考えれば、到着は深夜になる。


「近づいてくる」


ティナの姉に頼んでから2時間、まだ遊んでいられる!


「婿殿!!!!」


アイリス!なんで?


アイリス他6人、正に風のごとく現れた。




「とんでもない女神さまが現れましたのよ」


ティナの姉・・だよな?


「大女神 ビューティー様ですわ!ビューティー様より、至急婿殿を支援するようにと。神の加護「韋駄天」を、掛けて頂きましたわ」


韋駄天か、それで早かったのか?


「で、レナさん達は?」


「そうだ、すぐに見てくれ!林の中で倒れている」


「分かりましたわ。でもその前に、婿殿のジュニアを、じっくり観察ですわ」


グハ!俺は裸だった。




機械族の医師が、レナ達を見てくれている。


オリジナル以外の機械族は、手首に銀色のブレスレットみたいなモノが装着されている。見分けの為と、型番などが記されている。




俺はアイリスに、経緯を説明した。


「昔、この辺りでは、盗難事件が多発していますのよ。人的被害はありませんし、盗まれるものも、たわいのないモノ。


ここ20年ほどは、被害が無いので、犯人捜しはしていませんでしたわ」


「だが、今回はシャレにならん」


「そうだよ~機械族にとっては~殺しだよね~」


「許されない」


そうだ。これは殺人に近い。


「検査が終わりました。オリジナル独特のパーツで、起動を維持するためには、不可欠な部品が抜き取られていました」


白衣を纏ったインテリ系美女。


眼鏡をクィっと持ち上げながら説明してくれた。


「レナさん達は直りますの?」


「ええ、ですがオリジナル特有のパーツです。私たちのパーツでも代用は可能ですが、4~5日しか持ちません」


どうする?韋駄天がある。一度連れ帰って、直すか?


パルスが持っているのに期待するか?


「韋駄天の効果は往復ですわ」


後者に決定だ。4~5日持つなら、戻れるかもしれんからな。


「代用品で修理を頼む」




「この二人が、パーツを提供してくれます」


美女医は、俺の前に2人の少女を連れて来た。機械族の看護師だ。


「取り急ぎでしたので、持ってきたパーツの中に在庫がありませんでした」


「そうか、だが、この二人は動けなくなるのか?」


「世界を救う戦いをしてるケイン様達に、無駄な時間を使ってもらいたくありません」


「私たちなら大丈夫です。先生がちゃんと管理してくださいます。それに、2~3時間の我慢です」


クッ!なんと献身的な。


「ケイン様、二人の手を握ってあげてください。一時的とはいえ、強制停止は機械族にとっては恐怖です。


ケイン様に握ってもらう事で、彼女たちは勇気を貰えるはずです」


レナも同じことを言っていた。


俺は、二人を交互にハグした。




「!?敵だ!」


レナが起きた。


「そこはダメ!」


セレスも起きた。


2人とも最後の記憶からの続きだった。


美女医が説明した。


「そうか私たちは、4~5日しか稼働できないのか」


「もう、停止は嫌よ」


「どうする?一旦戻るか?」


「いや、身を犠牲にしてくれた娘の為にも、今は、前に進もう」


カッコいいが、パーツを返すという選択はないんだな。


「そうよ。戻るとなると、パーツは返さなくてはいけなくなるわ。また停止は嫌!このまま進みましょう」


こっちは本音丸出しだ。




「だが、抵抗する我々を相手に、1人で、これをやるとは」


敵は1人か。


「ええ、レナさんが襲われたので、私は逃げたのよ」


逃げたのか!


「私たちの弱点を、熟知している奴の仕業だ」


セレスはへそだったな、レナにもあるのか?


「基本構造を知っているという事ね。と、すると考えられるのは・・・」


「ああ、幻の艦隊だな」




「ケイン 大変」


ターナ?どうした?今度は何が?


「裸で泳ぐ。あそこに砂が一杯」


はいはい。スプーンだ。本当は食事用だが、これで掻き出してこい。


「む、婿殿!大変ですわ」


はいはい。熊手だ。潮干狩りで使う奴だ。これで掻き出してこい。


ってか、何でアイリス迄、裸で泳ぐ?


「ケイン、蟹が出てきた。食べる?」


喰うか!


「あら、私は中には蛸が・・・」


マオ、すまんが、遊んでやってくれ。俺は忙しい。




「で、なんだその幻の艦隊ってのは?」


「噂だが、800年前、私たちが作られたときに、大型の魔道兵器も作られたという話がある」


「海を支配する魔道兵器、セイレーンよね」


「オリジナル13番機。1機体と、支援する2機体で幻の艦隊と呼ばれている」


「でも、噂なのよ。私たちも見たことが無かったし、記録もなかったの」


「私たちの構造を知る者と、この場所を考えれば、実在の可能性が高い」


その幻が、何らかの理由でレナ達のパーツが必要になった・・と言う事か。


「多分、その線だろう。この辺りにセイレーンのドッグがあった、と噂されていたからな」


「許せないわ!パーツを抜き取るなど、絶対にやってはいけない事。機械族ならば、分かるはずよ」


「あ、セレスさん、感情の起伏は気を付けて。代用品なので、負荷がかかると耐えられなくなるわ」


近寄ってきた、美女医の言葉に、慌てて深呼吸をするセレスだ。


「では、ケイン様、私たちはこれで」


「ありがとう、助かったよ。あの二人には、お礼を伝えて欲しい」


「分かりました。伝えます。では、どうかお気をつけて」


「婿殿~お早いお帰りを待ってますわ~」


言い終わると、風のように消えた。もう遠くだ。韋駄天、凄いな。




「犯人探しも必要だが、私たちには時間が無くなった。今はパルスの所へ行こう」


賛成だ。先を急ごう。






木々に囲まれ、山々が見下ろす湖の湖畔。


小さなログハウス。


あれから丸1日かけて、目的地にきた。


「では、行くぞ。話しは、私達がする。ケインたちは見ていてくれ」


「気難しいのよ。凄く気を遣うわ」


任せた。気の難しい奴は苦手だ。




「ねぇさん、居るか?生きてるか? 私だ、レナだ」


レナは扉を叩く。


「開いておる。入りたければ入れ」


中から声が聞こえた。どうやら生きてはいるようだ。




扉を開け、レナとセレスが入る。


俺達も続いた。


「久しいのぉレナ。お主は、セレスか?」


ロリばばぁ。うん、一言で言うと、ロリばばぁだ。


背は小さく、老け顔。800歳。


「やぁねぇさん、元気そうでよかった」


「ご無沙汰です」


「そうか、もうそんな時期か。また依頼に来たという事じゃな」


「ねぇさんの先読み機能には、かなわないな。それもあるが、見て貰いたい手紙がある。解読できないで困ってる」


パルスは、フン・・と顔をしかめると


「茶は出す。飲んだら帰れ。わしは、この世界がどうなろうと、気にしない。魔王に滅ぼされようが、自滅しようがな」


そう言うと奥に行く。多分茶の準備だ。


「とりあえず、お茶を貰おう。ここは遠いから、来るのが大変だった」


レナは、椅子に座った。俺達も座る。




これからレナの説得が始まる。


頑固そうだ。難儀な予感だ。

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