第8話

人魚の雫を手に入れ、俺たちは王都に戻ってきた。


アイリス達の出向を受ける。


「婿殿!素晴らしいですわ」


「ああ、流石はケインだ。まさか、ターナを助けただけではなく、クエストまでクリアして帰ってくるとは」


「いや~運が良かっただけだ」


「ママ達の作業が、無駄になっちゃったぞ」


「それが、そうでもないのですわ」


「???」


「私たちが調べていた書物の中に、興味深いものがあったんだ」


「この世界の歴史ですわ。どうやら、800年前からの歴史認識に、大きな誤りがあったようですわ」


「歴史認識に誤り?」


「ああ、魔王とのこと、人魚族の事など、色々だ」


「人魚族も出て来たのか?」


「彼らは、歴史に重要な役割を果たしていますわ。でも、難しい話は後回し。今は祝賀会ですわ!」


「良いのか?良いのかそれで?」


「婿殿の歓迎会、アリスの妊娠、クエストの達成。最大規模の大宴会ですわ!」


「早速準備にかかるぞ!大規模宴会だぞ。気合が入るぞ」


「アリスはダメですわ!今度こそ安静にしてなさい」


「そうだ、大事な時期だ。休んでくれ」


「仕方ないぞ、部屋で編み物でもしてるぞ」


「さぁ、アリス以外の皆さん!楽しい宴会の準備ですわ!」


マオが、ターナが、レナが「おお!」と声を上げる中、アリスは小声で「おおだぞ」と呟く。




俺はアリスと、自分の部屋にいた。アリスがコーディネートした部屋だ。


アリスの部屋と同じで、青系の色が多い。壁は薄いブルー、床は濃いブルー。


「青は落ち着きのある色だぞ」


ああ、いいセンスだ。


「ベットの下は広々とさせたぞ。Hな本を隠しやすいように、目隠しもつけたぞ」


余計なお世話だ。


「テーブルには、ティッシュと箱ティッシュが置けるように溝があるぞ」


なんで?


「Hでティッシュは大事だからだぞ」


あ、そう。


「360°撮影可能なカメラも付けてあるぞ」


「一応聞くが何のためだ?」


「Hを録画するためだぞ」


だよな。だと思った。最近慣れてきた。




「ケイン、居るか?」


レナだ。


「すまんが、剣術の相手をしてもらえるか?セレスを探したのだが、見つからないんだ」


あ。忘れてた。


帰りは馬車を借りたんだが、余りにエロ話がうざかったので、電源を切って荷物の中だ。


「そうか、後で助けてやろう。だが、よく電源を切れたな。抵抗されただろ」


「それが偶然、へそに指が入ったら、ふにゃふにゃになってな」


「セレスの弱点だ。あいつはヘソを刺激されると、力が抜けてしまう」


「みんなそうなのかだぞ?私も知らなかったぞ」


「いや、機械族では、セレスだけの機能だ。そうだな。二人には話しておこう」




レナが語りだす。


「800年前に呪いのかかった世界で、世界を維持するために、7人の賢者が召喚された。そのうちの1人が機械技師の「オチャ博士」だ。


我々オリジナル。12体の機械族の生みの親だ。




我々オリジナルは、今いるすべての機械族の原型となっている。


制作の目的は、人口維持のためのHだ。我々のここには、精子を保存しておくシステムがある」


レナは下腹部に手を当てた。


「1回のHで、約300人の女性に、精子の提供が可能だ」


「知らなかったぞ。そんなシステム」


「今でも、この国の男性と機械族は、定期的にHをして、精子を女性に提供している。内々にだがな」


「何故?内々になんだ?アリスも知らされていないというのは?」


「考えればわかる。この世界の女性は、生涯で数回しかHができない。


その機会を、機械族に優先的に与えられているという事は、反感を買うのだ。たとえ効率の良い、世界のためになる事とはいえだ」


「成程だぞ、回数は限られているぞ。優先権なんかあると知れば、 国民はいい気はしないぞ。内々も分かるぞ」




「話を戻そう。何故か12番機セレスには、精子を保存するシステムが無い。セレスの下腹部には、本来あるはずのシステムの所が、ぽっかり空いているのだ」


「あれだけエロいのにか?」


「そしてもう一つ。我々1~11番のオリジナルと機械族全てには、機械族3原則が組み込まれている。このプログラムに逆らうことはできない」


「アシモフのロボット3原則みたいなものか?」


「そうだ。


1、機械族は、Hを拒んではいけない。 


2、機械族は、人間を傷つけてはいけない。


3、機械族は1と2を守ったうえで、自分を守らなくてはいけない」


一部違った。


「セレスには、これが組み込まれていない。あいつは自由意思なのだ」


「なんでだぞ?なんでセレスだけがだぞ?」


「分からない。博士が何を考えていたのか?今となっは、知る由もない」


セレスだけが持つ、自由意思。


H目的ではない制作意図。これが意味するのは?




「1つ、セレスだけの制約もある。マスターが居ないと、稼働し続けられないのだ」


「確か俺をマスターだと言っていたな?」


「あいつは許可を貰わなと、電池の交換ができないのだ。マスターが居ないと、最大400日ほどしか稼働できなくなる」


「レナ達は?許可はいらないのか?」


「ああ、私たちは、自分の判断で交換が可能だ」


3原則がない代わりに制約か・・・セイフティーなのか?


「セレスが交換の許可を求めたら、すぐに応じてやって欲しい。我々にとって機能を停止することは、恐怖でもある。意識がない、抵抗力がない、この状態で破壊されても、私たちは、自分が死んだことにすら、気が付かないのだからな」


「そうか、そうだよな。いたずらに電源を切ってしまったが、可哀そうなことをした。今後は気を付けよう」


「さぁ話は終わりだ。剣術の相手を頼む」


「ああ、わかった」


俺は、レナと庭に出る。アリスが部屋の窓から見える位置に来た。




「ケイン、行くぞ!」


レナは剣を抜くと、刃を裏返す。レナの剣は片刃だ。


俺は、ペーパーナイフで構えを取った。


!!!消えた!?と思った直後に、腹に激痛を感じた。


「な。なんだと!?」


レナは、俺の後ろに居た。馬鹿な?ヒーラーがこんな動きを?


「もう一度だ。行くぞ」


同じだ。消えたと思った直後、腹に打ち込まれた。


レナは俺の背後にいる。




「大丈夫か?手加減はしたが」


「ああ、まさかお前がこんなに強いとはな。ただのヒーラーじゃなかったようだ」


「今は剣士だ。私の強化パーツが、修理を終えて戻ってきた。今の私は、剣士、疾風のレナだ」


セレスも強いが、レナも負けず劣らずだ。


アイリスは魔法を使える。これなら、人類域の外で戦えるのでは?




俺達は、大祝賀会の会場に居る。


「あら、美味しそうなチョコバナナね」


セレスがチョコバナナに食いついた。


祝賀会と言う固さはない。広い王宮の庭を開放した祭りだ。


費用はアイリス持ち。国家予算から支払われる。


参加者は、自由に食べたり飲んだりができる。


アイリスは、国民の支持が厚いのが分かる。




セレスとレナが並んで歩く。


アイリスから、内緒条件で聞いた話だ。


セレスは、先代のケインの愛妻だった。


封印を決めた日の前夜、愛しあった後、セレスは電源を切られ、部隊に託されたという。


「200年後、勇者が来たら起こすよう」と言われ、王宮の地下で眠っていたようだ。


姉妹で話すのは200年ぶりだそうだ。




「レナさんの趣味、まだ変わらないの?」


「ああ、当然だ。私の生きる希望だ」


レナの趣味?


「あの悪趣味。・・・ねぇケイン、なんとか言ってあげてよ」


人の趣味に口を挟む程、野暮じぁない。


「私の趣味はボーイズラブだ!」


うわぁ。


「男同士の絡みこそ、この世の美だ」


「ケインをそんな目で見たら、バラバラに分解だぞ」


「案ずるな。ケイン一人では、糞の役にも立たん。男は二人いて、初めて宝となるのだ」


「こんなご時世に~難儀だよね~」


「ああ、だから私は、この世界を救い、男の数を増やす。煌めく、男の世界を作るのだ!」


前半が立派なスローガンだけに、後半の残念さが際立った。




「お!?あんず飴。実は好物だ。1個もらえるか?」


店員さんは、泣きながら後ずさりして離れた。


「男性接近罪だぞ。許可なく5mに近づくと、自慰禁止3年以上だぞ」


これでは、俺はあんず飴が貰えない。


「今日は、祝賀会。無礼講だぞ。接触しなければ、罪には問わないぞ。話しかけはダメだぞ。見せるのもダメだぞ」


規制緩和された。俺は、あんず飴を貰えた。


勿論、手渡しの際は、細心の注意を払う。


少しでも触れたら禁3年だ。






「1個買うと、1回回せるぞ」


そうだ。あんず飴の旨さは、このゲームの権利を貰える所に有る。


玉を弾いて、入った穴に応じた数が、プラスとしてもらえるのだ。


プラスの個数は2~250本。


ふっ!250とは豪気だが、とても入る場所とは思えない位置にある。


まぁ、入るとしても、俺には縁のない話だがな。


19年の人生で、未だプラスに入れたことのない・・・


「おめでとうございます!マオ様!250本大当たりです!」


「なんだとぉ!」




「相変わらずマオは、運が良いな」


レナは、マオから渡されたあんず飴の束を受け取りながら、苦笑いをした。


「マオ、私も欲しい」


ターナが要求すると、ざっくり半分を渡した。


「マオは運がいいぞ、おまけに気前も良いぞ」


俺とアリスに、残りの半分を渡し、自分の分は1本が残る。


「えへへへ~美味しいよね~」


肩に乗るピーと、交互に口にし合っていた。




 「ピンポンパンパン~ 勇者チームの皆様、式典の時間です。仮設会場の檀上までお越しください」


アナウンスが流れた。


俺達は、仮設会場へ向かう。




仮設会場は、王宮正面玄関を背にして建てられている。


玄関に続く道は広く、両サイドに露店が並んでいる。


大勢の人が、壇上の前や露店に群がっていた。




「国民の皆さん、お待たせしましたわ!勇者ケイン様と、勇者チームの皆さんですわ!」


凄い、地響きともとれる大歓声が沸き上がる。


壇上の前に集まる人、一体何人いるんだ?


「今日は、ケイン様の降臨記念祭、アリスの懐妊記念祭、クエスト達成記念祭。3つのお祝い事を兼ねた、合同記念祭ですわ!無礼講!飲んで食べて、楽しんでくださいですわ!」


お偉い人は、こういう場では、長々と話したがるが、アイリスの挨拶、簡潔ないい挨拶だ。




「プリンセスから国民の皆さんに、サプライズがあるぞ。3つのお祝い事に因んで、ケインと握手券を、抽選で3名様にプレゼントだぞ!」


地響きだ‼震度にすれば4~5の揺れ。


これは歓声と言うレベルではない。


「俺の握手券?俺は、聞いてないぞ」


「だからサプライズだぞ」


サプライズの使い方、俺には間違っていた。




「婿殿、お嫌なら断れますわよ」


「断った相手は、失望の余り自害するだけだぞ。断ってもいいぞ」


・・・強迫に聞こえるが?


「まぁ、構わんさ。俺も国のためになる事なら協力する。握手ぐらい幾らでも遣るよ」


「この国で男女の握手と言えば、女は手、男は股間だぞ」


「今から訂正アリか?嫌になった」




「では抽選方法の説明だぞ」


アリスが俺の意見をスルーして、イベントを続行した。


「待て!!!!みんな動くな!」


レナが大きな声を出し、壇上から飛び跳ねた。


セレスが続く。


アリスとアイリスは俺の前に立ち、マオとターナは横に付く。


何がどうした?


「敵かもしれないぞ。警戒態勢だぞ」


「敵?どこに?」


「あそこだね~レナとセレスが行った先に~居るよね~」


「あいつら王都民じゃない」


確かに露店の前に3人いるが、お前ら?王都民を全員覚えているのか?


「ケインと握手だぞ。股間モミモミ券だぞ。飯なんか喰ってる場合じゃないぞ」


「そうですわ。王都民なら、親の葬式を投げ出してでも、説明を聞きますわ」


凄い敵判別法だ。




レナとセレスが、3人に剣を突き付ける。


3人ともマントに身を隠していた。が、手には皿を持ってる。


1番背の高い女は、ロングの黒髪。皿には、お好み焼き。


2番目に背の高い女は、ショート黒髪。皿には、焼きそば。


1番小さな女は、セミロング黒髪。皿には、たこ焼き。


「貴様たちは何者だ!」


レナが問うと、一番大きな女が答えた。


「なぜ?私たちが、魔王軍隠密部隊だと分かったのかしら?」


自分から白状した。


「魔王軍だと!?」


「魔獣域を超えて来たのかしら?」


2番目の女が答えた。


「我々は海路で来た。今の時期、潮の流れが南から北。赤道を超え、王都西海岸に漂着したのよ!」


海路だと!?漂着と言うのは難破したのか?


「私たちは、えっと、作戦継続のために、栄養補給中なんです。この作戦は、魔王軍の希望なんです」


1番小さな女が、聞いても居ないことを言い出した。




「魔王軍ならば問答無用だ」


「レナさん、行きますよ」


レナとセレスが構える。


2番目の女が剣を抜く。


「時間は私が稼ぐ。ねぇさんは魔法を」


姉と呼ばれた1番背の高い女は、持っていた皿のお好み焼きを口に放り込むと、詠唱を始める。


「魔法だと!?」


レナが驚きの表情。


2番目の女は、一瞬のスキを見逃さなかった。


すかさず斬りかかる。


レナは交わすが、敵の剣は早い。返す刀がセレスを襲う。


「疾風のレナ参る!」


「神剣使いのセレス!行きます」


2人は掛け声とともに、敵と剣を交え合う。




魔法陣が現れた。


お好み焼きをモグモグしながら、詠唱を続ける女の周りに、黒い光が集まっていく。


「アリス、ターナさん、マオさん、民衆の避難を。レナさん達の軸線から逃げるのですわ。婿殿は私と此方へ。あの魔法は、直線的な破壊をもたらしますわ」


アイリスが続けざまに指示を出す。


俺はアイリスに言われるままに、レナ達の軸線から逃げる。




「くっ!こいつ強い」


「私たち、二人を相手に」


レナ達が苦戦中だ。


レナの疾風、セレスの双剣を相手に、一人で互角の戦いを繰り広げていた。


しかも、手には焼きそばの皿を持ったままだ!




漆黒の光の珠が、お好み焼き女の前で大きさを増す。


不敵な笑いを見せると、動きが止まる。


攻撃前の間だ。不味いぞ!来るぞ!


「おねぇちゃん!!!!」


たこ焼き娘が駆け寄る。


お好み焼き女が倒れて苦しみだしたのだ。


どうやら、のどに詰まらせたようだ。




「ねぇさん!」焼きそば女も、倒れた姉の側に駆け付ける。


「誰か!誰か水を!」


焼きそば女は、状況を即座に理解した。


「ん!!ぬ!!」


苦しげに声を出す、お好み焼き女。


その僅かな声を拾おうと、たこ焼き娘は、耳を口に近づける。


「コーラです!ダイエットコーラが良いと言っています!」


まだ大丈夫だ、相当な余裕だ。




祝賀会の中止が決まり、民衆は衛兵たちの誘導で、王宮を後にする。


ここで不満や、文句が出ないのが、この世界だ。


清く正しく美しくの精神だ。




しゃがみ込む3人を、十数人の衛兵とレナ、セレスが取り囲む。


俺達が傍に行く。


「私たちは、魔王軍の軍人。捕虜としての扱いを要求する」


「魔王軍との捕虜協定なんか結んでいませんよ」


セレスが冷徹な顔つきで答える。


「ケイン。こいつらの処分を決めてくれ」


レナは俺に振った。


「剣を交えてわかった。称賛に値する。おそらく血のにじむ修練を耐え抜いた賜物だ。寛大な処置を頼みたい」


レナは付け加えた。


「・・・情報だ。知ってることを素直に吐けば、危害を加えない。捕虜として扱おう」


「それは、食事もつくという事よね」


お好み焼きをのどに詰まらせ、死ぬ思いをした直後にそれかよ?


「勿論だ」


「3食ですか?3食付くんですか?」


この状況で、まだ皿の焼きそばを食べている。


どんだけ食い意地が張ってるんだ?


「3食を約束する」


「話す!知ってることは、何でも話します」


お、おう。


「知らないことだって話しますわ」


知ってることだけにしろ。


「3食なんか夢のようです。一生尽いて行きます」


捕虜に生涯付きまとわれたく無い。




「良し、連れていけ。ターナ、マオ頼む」


レナの指示で、縛られた3人は王宮へと向かう。


マオとターナがついて行く。


「あの二人で大丈夫なのか?」


「ああ、戦力は無いが、マオは聞き出し上手だ」


うん、なんとなくわかる。


「ターナは拷問のプロだ」


分かる気がするのが怖い。




「敵が3人とは限りません。保安上から、安全が確認されるまで、皆さんは、同じ部屋に居てもらいます」


エロボットの時とは違い、セレスの顔は真面目だ。


まだ敵が潜んでいるかもしれない。


緊張の夜は、始まったばかりだ。


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