第7話
人魚族が来ていた。
人込みの中から姿を現したのは、3人の河童だった。
「わしらが人魚族じゃ」
老人の河童は、若い男女の河童を従えてた。
3人を屋敷に呼ぶ。
俺とマオ、セレスで話をすることにした。アリスは、人魚族についての情報収集だ。
「俺が5代目勇者のケインです」
爺さんは、うっすら眼を開き
「(仮)が抜けておるじゃろう」と言う。
!?
「まだ、覚醒薬とやらを飲んではおらんようじゃな」
!!!なんで?
「なんで?と思ったか?」
ヤバい。この爺さん、なにかヤバい。
爺さんの後ろから「ゴゴゴゴゴゴゴ」と言う文字が見える。
「私たち人魚族は、人の心が読めるのです」
女の子の河童。結構かわいい。頭の皿がチャーミングだ。
「テレパスかな~」
ピーと同じ能力か?
「思考と言うより、強く気にしている事や、心の奥深くです」
河童男子が付け加えた。
俺は、自分でも気が付かなったが、(仮)を気にしていたのか?
「分かったじゃろう。わしらは、人の深層意識が見えるのじゃ」
アリスが飛び込んできた。
「ケイン、気を付けるぞ!人魚族は、人の心を読むぞ!!考えてることがバレバレだぞ」
おお、今聞いた。って言うか、お前も、人魚族の人達の前で言うか?
「で、こいつら嫌われ者だぞ」
だから本人の前だぞ。
「でも、聞けば可哀そうな奴らだぞ。詳しく聞くかだぞ?」
後でゆっくりな。だから今は黙れ。
「ふぉふぉふぉ。中々斬新なお嬢さんじゃ」
「ケイン、私褒められたぞ」
流石の俺も言葉がない。
「お嬢さんの言うように、私たちは、この能力のせいで疎まれています」
「しかし、本当に、疎まれているには・・・私たちは人の心の汚さ、美しが分かるからです」
河童女子と、男子は、自らの能力を説明した。
「だけど~この世界の人は~みんな心が綺麗だよ~」
ああ、そうだ、疎まれる理由にはならん。
「それは表面の事じゃ。本人すら気が付かぬ、奥底深くの深層意識の中では、どろどろとした漆黒の闇が、うごめいておるわ」
確かに、本質を見抜かれるというのは、良い気がしないな。
「私たちの心の奥底は、黒いのかだぞ?」
「そうじゃ。わしらから見れば、人間種は、うわべだけを繕う生き物じゃ」
この爺さん、人間嫌いか?
だとすると、話がこじれる前に、人魚の雫の話をするべきだな。
「俺たちは、人魚の雫を探している。なんとしても、手に入れなくてはならない」
「人魚の?何に使う?あれはわしらの秘宝じゃ」
「女神の指示だぞ。持っていたら、分けて欲しいぞ」
「持ってないからのぉ」
「無いのか!?」
「いや、有る」
「なら分けてくれ、礼は必ずする」
「じゃが持ってないからのぉ」
「有る・・と言ったよな?」
「ああ、有る」
くそ!意地悪か?報酬を吊り上げするつもりか?
こうなったら俺の策を実行だ。
最大級の接待で、「どうぞ受け取ってください」と言わせてやる。
俺は、この場をアリス達に任せて、台所へ行った。
そして秘密兵器を持って来た。
「人魚族のじいさん、これを差し上げます。どうか、人魚の雫を」
「・・・・なんじゃこれは?」
「キュウリでございます。大好物かと」
「小僧、勇者だったな?この世界は、こいつで大丈夫なのか?」
くそ!ダメか。だがこれで終わりじゃない。
「では、これを」
あの有名な、河童のお酒の歌を歌いながら、黄桜を献上した。
「おい、小僧」
くそ!これでもダメか?
アリス達の援護がないから一人芝居だ。って、なんで、みんなそっぽを向く?
最終兵器だ!血の性には逆らえまい!
「爺さん、相撲でもどうだ?相手になるぞ」
「小僧!誰が河童じゃ!尻子玉抜いてほしいか!」
グハ!河童が怒った。
「アハハハハハ、あは・・おじい様、面白い。私は、この方が気に入りました」
「私もです。何とも愉快な方だ。こんなに笑ったのは久しぶりです」
男女の河童には、大うけだ。
「人魚の雫、それは私の涙の事です」
河童女子が言う。
「涙だと!?」
「持ってないけど~ある~そうだね~涙ならそうなるよね~」
なるほど、この爺さん、嘘は付いてなかったのか。
「ケインさん、今から私は、貴方の心の中を読み取ります。あなたの心が美しければ、私はその美しさに、感動の涙を流すでしょう」
!?俺の心だと?
「不味いぞ。私たちでも危ないぞ。ケインじゃ無理だぞ。きっとケインの心の中は、どす黒いぞ」
だから口に出して言うな。
「いままで~苦労してたからね~人を憎んでも仕方ないよね~」
マオまで、何を言い出す?
「こいつは鬼ですわ」
まぁ、セレスには否定できない。
「いい。ケインの心、読め」
ターナが来た。
「ターナ?」
「ターナなにを言うだぞ!ティナの報告書を見ただぞ。
『過去何度も裏切りや反発を受けたせいで、人間不信の可能性アリ』って書いてあったぞ。ターナも見たはずだぞ」
お前ら、そんなことまでやり取りしてたのか?
「良いのですよ他の方でも。でも、この世界の方で、私の心は感動できるとは思えませんけど」
「大丈夫、ケインの心は綺麗。この身の美しさが証拠。私は信じる」
「私も信じるぞ。でも現実は現実だぞ」
おい!嫁!ターナの方が信頼が高いぞ。
「仕方ないわ。私の心でやって頂戴」
セレス!?何か策でも?機械族の心って?
「私はエロいわ。でも純粋に、ピュアにエロいだけ。汚れているのは、我が身だけよ」
大分説得力に欠けていた。
「ケイン、大丈夫。任せなさい。いま、HDDクリーニングとデフラグをしたわ。私の深層意識は、綺麗な状態よ」
「機械族はダメじゃ。小僧以外は認めん」
だそうだ。
「分かった、他に道がないなら、俺でやってくれ」
「ケイン!無理だけど、信じてるぞ」
「お主たちの勇者の心は汚かったら、ティナ様も納得してくれるじゃろう」
ティナ様?爺さんはティナを知っているのか?
「では、見させていただきます。楽にしてください」
河童女子は、そう言うと目を閉じ、何やらまじないのような言葉をつぶやいた。
やがて眼から涙が!!!
「嘘だぞ!」
おい、お前信じてるとか言ってたよな?
「嘘だよね~」
「嘘だわ」
ざまぁみろ、俺の心の清らかさに、お前も泣くがいい。
「嘘」
ターナ!!!!お前なぁ!
「ああ、なんという、痛い心でしょう。思わず涙が出てしまいました」
痛かったのかよ。くそ!悪かったな、痛い心の持ち主で。
「でも、アヤメさんに涙を流させたのは、事実。人魚の雫は差し上げます」
河童男子!お前いい奴だ。
「よろしいですね?おじい様?」
「フン!好きにせい」
河童爺は気に入らないようだが、これで俺たちは人魚の雫を手に入れた。
「小僧。お前が魔王と戦うのか?」
「ああ、そうだ。だが俺がじゃない。みんなでだ」
「まぁせいぜい頑張る事じゃ。じゃが、魔王はお前たちでは勝てん。倒せるのは、この世界だけじゃ」
なに?この爺さん、何か知っているのか?
この世界ってなんだ?
爺さんは、それ以上何も語らなかった。
「この世界」と言う、謎の言葉を残し、人魚族は自分たちの村に帰って行った。
アヤメさんは、遠く離れて見えなくなるまで手を振っていた。
ーー人魚族の会話ーー
「のぉ、アヤメ、実のところはどうなんじゃ?」
「おじいさまの予想通りです。この世界の2つの呪いは、ケインさんが掛けたモノです」
「やはりそうか。あの顔には見覚えがあった・・ティナ様も因果なものじゃな」
「でも、心の中は澄み切っていました。あの子は、自分を攻めても、人を恨んだり、人のせいにする子ではないようです」
「今回は、期待できるのではないでしょうか?私はあのケインと言う勇者が、遣ってくれそうな気がします」
「だと良いがな。力で戦っても勝てん。心で戦わないとな。それに気が付いてくれるかじゃ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「良し!人魚の雫をゲットした!」
「SSランクのクエスト完了だぞ。私たちは優秀だぞ」
「そうだよね~準最高難易度だもんね~」
「美しすぎる私なら楽勝」
「機械族差別だわ。あの爺、訴えてやるわ」
1人は目的を見失ったままだった。
「さぁ、リリスとか言う女神を呼び出すぞ」
俺はリリスと強く念じる。天空にリリスが現れる。
「あなた達?諦めるにしても、早すぎませんか?まだ4日ですよ」
リリスが現れ、呆れた顔で言う。
「誰が諦めただと?ご所望の人魚の雫だ!」
「!!まさか、まだ4日。どうやって?」
「私たちの優秀さが分かったかだぞ?」
「そうだよ~優秀なんだよ~」
「美しすぎる優秀さ」
「機械族は平等の権利があるのよ!」
お前は少し黙ってろ。
「本物ですね。人魚族の居場所さえ分からないはず。それに、気難しいと言われ人魚族相手に・・・」
「約束は守ってもらえるんだろうな?」
「・・・ええ」
まだ信じられない、と言った感じだ。
「ケインさん!!!」
ティナ!
「私、信じていました。ケインさん達なら必ずできるって」
「ああ、俺達なら出来ないことはない!ないが、今どこに居るんだ?謹慎中だよな?」
ティナのいる背景が海だ。ピーチパラソル、手にはトロピカルドリンクに水着。
どう見てもバカンスの最中だ。
「はい。謹慎を受けたので、実家に戻ってきました。此処は実家のプライベートビーチです」
「女神の世界の謹慎って緩いぞ」
リリスが、ぐっ!っと言葉を飲み込んだ。
クリティカルダメージを与えたようだ。
「分かりました。貴方達の能力は、私の想像をはるかに超えていたようです。20日の指定を4日でクリアしては、文句の言いようもありません。ティナは、約束通りに不問にします」
良し!ティナを助けられた。
「ケインさん!ありがとうございます!」
「元々が俺のミスだ。ティナ、礼を言うのは俺だ。ありがとうな」
「はい!」
「でもティナ、このようのような不正は、女神に有ってはならない事。今後は規則を守り、世界を守護するのですよ」
まぁその通りだ。女神が不正をやったらダメだよな。
「はい。今後はバレなように上手くやります。で、部長。せっかく、実家に戻ったので、このまま有給10日間申請します。いいでしょうか?」
良いはずがない。謹慎明けから有給なんか、認められるはずがない。
と、言うか、謹慎中の行動ですらない。
「・・・わかった。有給を楽しむといい。母君に宜しく伝えてくれ」
「女神の世界って緩々だぞ」
アリスの追い打ちが、更にリリスにダメージを与える。
「君たちも今後は、不正に頼ることなく、健全な闘いをするように」
言う事は言う。部長としての姿勢を崩さないあたりが、できる子ポイな。
「では部長!引き続きバカンスを楽しみます!ケインさん~帰ったら、お話ししましょう」
ティナは一方的に消えた。
引き続きか。謹慎の意味は成してなかったようだな。
リリスの、言葉にならない怒りが伝わってくるようだ。
「ケインさん、あんな子ですが、よろしくお願いします」
「あんたも大変だな」
「ティナに逆らえない訳でもあるかだぞ」
触れてあげるな!
「今回の件は、ティナの違法行為です。しかし、下界の方に、天界の違法行為の始末をさせたのも事実。私から、アイテムを進呈します。後で届けさせますので、受け取ってください」
意外といい奴だった。
「ケイン~私も~違法行為で~謹慎すると~バカンスに行けるかな~」
「ティナは特別なのさ。多分、親が権力者なんだ。リリスが『母君に』と、言っていたからな」
「なら、私もバカンスだぞ。親が権力者だぞ」
魔獣落ちしたいなら、違法行為もOKだ。
「魔獣落ちはしたくないぞ。違法行為は絶対にしないぞ」
ターナもマオも、ピーまでも笑っていた。
全て上手く行った。
「さぁ、戻ろう。アイリス達が待っている」
俺達は王都への帰路に就いた。
ーープライベートビーチを見下ろせる館の一室ーー
2人の美女が会話をしていた。
「順調です。中間イレギュラーで、2つイベントを飛ばしてしまいましたが、特に問題はありません」
「あの子たちの魂のキズナは、とても強いものです。イベントの2つなど、たいした変化は起きないでしょう」
「はい」
「ですが、ティナには、絶対に悟られないように」
「分かっています。妹に悲しい思いはさせたくはありません」
「そうですね。でも、未来に進むためには・・・」
「・・・・・」
「ねぇ、エクセレント?本当にあの子、ケインさんに、アイリスさんを殺せると思います?」
「・・・分かりません。今までの周回では、母のように敬い、姉の様に慕い、仲間としての信頼度も高い方です。ですが、未来に進むためには」
「そうですね。今回もまだ時間はあります。女神としてできる事をしましょう」
「はい」
女神同士は会話を続けた。
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