第5話

「良し!隊列を乱すな!女王陛下、ダンジョン攻略先鋭部隊300人。いつでも出発できます」


レナが先鋭部隊の指揮にあたる。




「みなさん、この戦いは熾烈を極めるでしょう。1週間から2週間、いえ、それ以上の長き戦いになるかもしれません。命を落とす者が出るかもしれません。しかし私たちは、負けられない戦いです。カモミールの未来のために!」


アイリスが檄を飛ばす。


300人の精鋭部隊とレナ、ターナ、マオ、ピー、アイリス。


俺たちは、ダンジョンに挑む。




「勇者様、気を付けるんだぞ。怖かったら、逃げてきてもいいぞ」


「勇者が逃げるものか!勇者は誰よりも前に立ち、誰よりも勇敢でなくてはならない。勇者の辞書に、逃げる等と言う言葉はない!」


「まぁ、頼もしいですこと。流石は勇者様ですわ」


アイリスが冷ややかな目で俺を見た。




「パパになるんだぞ。こんなところで死ぬなだぞ」


「俺は大丈夫だ。アリスも体には気を付けるんだ」


「早く帰ってくるぞ。早くパパの顔が見たいぞ」


「必ず帰る。長い戦いになるかもしれないが、必ず帰ってくる」


「待ってるぞ!」


俺は、アリスの手を取り、別れの時を惜しむ。


「勇者様、時間だ」


レナは先鋭部隊に、出発の指示を出す。


「アリス、待っててくれ!勇者に成って帰ってくる」


「必ずだぞ!嘘ついたら化けて出るぞ」


化けて出るとしたら、死んだ俺の方だ。




俺たちを先頭に、300人の先鋭部隊が続く。


「アリス~まだ手を振ってるね~」


「ラブラブ」


アリスの姿が遠くなってきた。見えるうちは、俺も手を振り続けよう!


「着いたぞ!ここが西ダンジョンだ」


「おい」


「王都西ダンジョンは、王宮の庭の中だ。 玄関から100m足らずの所に有る」


あの別れの件はなんだったんだ!




「わたくし達は待機ですわ。13層のボスと戦うために、温存ですわ」


「1層から12層までは、先鋭部隊に任せる」


「とりあえず~ここで~朝ごはんだね~」


「食べる 休む」


「持って来たぞ。朝ごはんだぞ」


って、普通に来てるし!




「何バカ言ってるだぞ?私と勇者様は、既に一心同体だぞ。妻は夫の体の一部だぞ。勇者様は、自分の聖剣が10m離れたらどうするぞ?」


「股間のジュニアが10mだと!?嫌だ、それは嫌だ」


「そうだぞ、例え100mでも、離れるのは嫌だぞ」


論破された。




「では、攻略を始める。1番隊100人1層へ!」


レナの号令で、ダンジョン攻略が始まった。


強大な敵が居るというダンジョンだが、この数だ。攻めきれるはずだ。


「1番隊より報告。負傷5人 死者75人です」


!!なんだと!


「1番隊は撤収。2番隊突入!」


俺のせいで、早くも75人の犠牲が出てしまった。


俺のドジのせいだ。


「1番隊負傷者と死者は、仮設教会で蘇生と回復ですわ」


蘇生!?


「そうだ、ダンジョンでの死亡は、教会で蘇生が可能だ」


「犠牲にはならないのか?」


「案ずるな、何度でも生き返れる」


・・・そうか、それは良かった。俺のせいで犠牲者が出ずに済む。


俺はほっとした。




「2番隊より報告 負傷8人 死者90人」


「2番隊撤収!3番隊突入だ。1番隊の回復は?」


「すんでるよ~いつでもいけるよ~」


「元気バリバリ」


そうか!1部隊ごとに突入して、敵のHPを削る。


次の部隊を入れている間に回復、蘇生をする。


「気が付いたか?幾ら敵が強大でも、無限のリサイクル戦士の前では、無力だ」


リサイクルとか言うな。




「3番隊より報告。1層ボス撃破!ドロップアイテムの回収に成功も、被害甚大、撤収します」


「覚醒薬か!?」


「残念だぞ。プッチンプリン15個だぞ」


アリス、居たのか?




ダンジョンボスのドロップアイテムが、プッチンプリンだと!?


「アイテムは保管ですわ!功労の品として与えますわ」


何回も死んで、痛い思いをして、プッチンプリンかよ。


「2番隊より報告。2層ボス撃破。負傷40人死亡14人。アイテムの回収の成功。都昆布7個です。引き続き、2番隊は3層へ突入とのことです」


「良し3番隊は3層ボス戦に備え!」


「良いことだが、被害が少なくなってきたな」


「ああ、このダンジョンは、1層のボスが最強だ。下に行くほど弱くなる」


逆か!?あるんだ?


「13層ともなると、生まれたての子ネコレベルですわ」


「勇者様の~ペーパーナイフでも~倒せるかもね~」


「勇者には強敵」


・・・そうか。倒せるよう頑張るよ。




「3番隊より報告。12層ボスと遭遇。タコ殴りにしている模様」


「順調ですわ」


「ああ、予定よりずいぶん早く済みそうだな」


ダンジョン攻略が始まってから、20時間が過ぎた。


俺たちは3度の飯と、2度のおやつタイム、


昼寝と合わせて8時間の睡眠をしただけだ。




「2週間は覚悟したが、この分なら昼には終わるな」


「ああ、300人の兵たちの努力と、ティナ様のご加護のおかげだ」


「ティナ様は、命の泉の水を送ってくださったのですわ」


「命の?」


「浸れば10秒で蘇生できるぞ、超高級アイテムだぞ」


ティナが・・・。何と優し女神だ。


「みんなが勇者様を助けているぞ」


ああ、わかってる。


今度は俺の番だ。皆の期待に応える番だ。


「3番隊より報告。12層ボス撃破。被害なし。ドロップアイテム、ハウスカレーのルー90450個」


「当分食事はカレーだぞ」


カレーならいくらでもOKだ。大好物だ。


いくぞ!13層ボスを倒して、覚醒薬を手に入れるぞ。


「ごめん 腹冷えた リタイア」


お、おう。夜は冷えたからな。


「私は~ターナのトイレに~付きそうね~」


お、おう。しっかりついてやってくれ。


「私はいけないぞ。安静の身だぞ」


随分動き回って、食事の世話からおやつの世話まで、してたような気がしたが・・・


「ではレナさんとわたくし、婿殿で参りましょう」


「よし、行くぞ!」






「13層だ。中はずいぶん広いな」


「思ったより明るいですわね」


「俺の敵は?13層ボスは?どこだ?」


俺は剣を構える。ペーパーナイフだけど。




   「ピロリン♪13層ボス撃破」


天の声?撃破って、まだ何もしていないぞ。


「ああ、すまん。私が踏みつぶしていたようだ」


レナの足の裏に、小さなトカゲが張り付いていた。俺のボス討伐が・・・


「ドロップアイテム バーモントカレーのルー111119個」


「なんだと!?またカレーのルーだと?」


「おかしいですわ。覚醒薬のはずですわ」


「手違いか?サポートに連絡したほうがいいか?」




!!!!地震!?大地が揺れる。


「これは?まさか?」


「裏ボスですわ!来ますわ!気を付けて!」


アイリスの声と同時に、レナが吹き飛ぶ。


大きなガマが現れ、鞭のような長い舌で、レナを吹き飛ばしたのだ。


「レナさん!」


返事はない。壁にめり込んでいる。




「婿殿、撤退ですわ」


「馬鹿を言うな。レナを置いて逃げれるか。それにあれを倒さなければ、覚醒薬は手に入らない。俺は勇者だ。逃げることなどない!」


無いが、防戦一方だ。


鞭のような長い舌から、逃げるので精いっぱいだ。




壁際に追い込まれた。このままでは不味い。


「ここまで・・ですわね」


???


「氷魔法!フリージング!」


アイリスの放った冷気で、ガマの足元が凍る。


「セレスさん」


アイリスが誰かの名前を口にした。




両手に剣を持つ女性が現れる。


手に持つ剣で、脚を凍らされ、動けないガマを切り裂く。


女性は剣を左右の鞘の治めると、俺たちに向かって近づいてくる。


かなりの美人、スタイルは抜群だ。


金髪は後ろで束ねられ、左の肩から前に流される。


胸をタオル(白)で隠し、ホットパンツ姿。


俺達の前に来ると、軽く微笑む。




「聞きなさい婿殿」


アイリスの顔、女王様の顔だ。


!!セレスと呼ばれた女性から男の声が?




「甘かった。まさかこれほど強いとは。すまない、みんな。すまない、最愛の君よ。私は、約束を守れそうにない。魔王は倒せない。この身と引き換えに封印する。伝えてくれ。200年後に来る勇者へ、魔王の強さを。私の無念を。君がこの音声を・・・・」


これは?




「4代目勇者ケイン様の、最後のお言葉ですわ」


!?


「ケイン様は、優しく、強く、正に王道の勇者様でした。でも、その優しさ故、身を犠牲にする選択をされたのです。強大な強さの魔王、戦えば多くの人が死ぬ。自分の力で仲間を守れない弱さが許せなかった・・・。勇者として、男として」


セレスの声は、女性の声に戻っていた。


その表情は悲しそうだった。




「勇者だから逃げられない。勇者だから守らなければいけない。大間違いですわ!時に逃げることも、仲間に守られる事も必要な事ですわ」


!!俺の事だ。




「強大な敵を前に、勝ち目のないことを悟り、自らの命をもって封印したケイン様を、責めるつもりはありません。でも、同行した私たちに、相談もせずお決めになるのは」


同行した・・だと!?200年前だぞ。


「ケイン様は、大きな間違いを、犯したのです。お分かりになりまして?勇者様?」


「え…いや、、・・・・」


「1人で戦おうとしたことですわ。彼方の様に、勇者だから逃げられないとか、一番前とか言いながら」


!!!!!


「あなた達はチームですわ。個々の戦力で戦う必要はありません。チームとして、仲間と共に戦うのですわ」


「仲間と共に・・・」


「そう。アリスや、レナさん、マオさん、ターナさん。彼方の力となる大事な仲間達ですわ。


彼方は一人ではない。彼方の周りには、共に戦う仲間達が居るのです」


俺の仲間達・・・仲間と共に戦う。


・・・・・そうだな。俺は今まで、仲間に恵まれなかった。


だから、自分がと。。


「分かったよアイリス。俺が間違えていた。勇者だからと拘っていた。俺が間違っていた。仲間を信じ、仲間と共に戦おう」


アイリスは俺に抱き着く。


「守られなさい。戦える力を得る時まで、みんなに守られて良いのです」


アイリス・・・。


「俺決めたよ。俺の名は「ケイン」だ。4代目の意思を引き継ぐ。無念と共に、その名を受け継ぐ。俺は、今日からケインを名乗る」


「婿殿!」


アイリスは抱く力を強める。


が、これはエロい抱きしめではない。


母のような愛を感じる。




セレスが俺のすぐ前まで来て片膝を付いた。


「機械族オリジナル12番機セレスは、あなたをマスターとして認識しました」


!?機械族?マスター?


「セレス・・・良いのですか?」


「ええ、もう二度と、人には仕えないと決めましたけど、ケイン様の意思と名前を受け継がれては、従わざる得ないです」


・・・。


「彼女は、4代目に仕えていた、神剣使いの剣士ですわ。レベルは400。頼りになる仲間ですわ」


200歳?魔女か?


「レナさんから聞いてないのですか?」


セレスからレナの名?知り合いなのか?




セレスは一歩下がると、背中で結わえてある胸のタオルを外す。


見事な胸が露わとなった。


「本当は、人に見せるような所ではないのよ」


確かに。良いモノを拝ませて・・・!!!


胸が観音開きに開いた!中には機械。ロボットなのか!?


「間違いではないですが、余りその呼び方は嬉しくないわ」


胸を開いたまま、俺に近寄る。


「男の子はメカが好き。私の大事なところを見て、ほら」


!!!俺の股間に手が!


俺は性的興奮を感じているのか?


ただの機械だ。だがなぜだ?セレスの胸の中から目をそらせられない。


「後で、私の中を弄らせてあげる。あなたの玩具に成ってあ・げ・る。だから今は私に、あなたのココを」


上手い。俺の股間で動く指捌きが、絶妙だ。


セレスは俺を押し倒そうとする。


上手すぎて、力が入らん・・アリス・・すまん!




「はい此処までですわ」


アイリスが、横からセレスの胸の中に手を差し込む。


「ちょ!アイリス!約束が・・・・・」


セレスの目から光が消え、操り人形の糸が切れたように崩れ落ちた。


「ごめんなさいね。事情が変わりましたのよ。この方はね、私の娘の旦那様ですわ」


動かぬセレスに向かってアイリスが言う。




「大丈夫なのか?セレスは」


「ええ、電源を切っただけですわ。ほらココ、もう一度押せば動きますわ」


アイリスは、セレスの胸の中のボタンを指さした。


「さぁ婿殿、あれを」


アイリスが指さす先に、アイテムが。


「覚醒薬!!」


俺は覚醒薬を手にいれた。






「おかえりだぞ!千秋の思いで待っていたぞ」


多分40分ぐらいだ。


「レナさんは、すぐ治るそうですわ」


「そうか良かった。アイリス、済まないけど、セレスを動けるようにしてやってくれ。そして、みんなを集めてもらえるか」


「ええ、すぐに集めますわ」




俺は壇上に上がる。


俺の前には、300人の先鋭部隊。


横にはアリス、アイリス、レナ、セレス、ターナ、マオが並んだ。


「みんな聞いてくれ。今日は俺のために、本当にありがとう。感謝の言葉もない。折角手に入れてくれた覚醒薬だが、今は使わない。


俺が、自他共に認める勇者としての力を手に入れる時まで、この薬は保留する」


「成程、男子3日会わざれば、刮目せよ・・か」


「いい顔になったね~」


「オスの顔」


「流石は私の旦那様だぞ」




「そしてもう一つ! 俺は、これからケインと名乗る!


先代の意思と名を受け継ぎ、この世界を仲間と共に守って見せる」


大歓声と拍手が巻き起こる。


そして天空が光る。ティナ…いや違う。




「どうやら、覚醒薬は手に入れたようですね」


!?女神?にしては、顔つきがきつそうだが。


「私はリリス。ティナの上司で部長をしています」


「まさか?」


「ティナは現在謹慎中です。重大な規則違反をしましたので」


バレたぁぁぁぁぁ。


「分かりません。あの真面目だけが取り柄のドジっ子が、こんなに大胆な事をやるとは」


「ティナはどうなる?」


「女神と名乗りましたよ。口の利き方も知らない下民に、なぜ入れ込んだのか?」


「俺がたぶらかした。俺がやれと言ったんだ。ティナは騙されただけだ。天罰なら俺に落とせ!」


「・・・・あなた達に試練を与えます。ティナの見込んだ、あなた達の力を、私に見せなさい」


「試練・・だと?」


「20日以内に、人魚族の持つアイテム「人魚の雫」を手に入れなさい」


「人魚の雫?。。手に入れればティナは?」


「不問にします。この試練の難易度はSS級です。準最高ランクの難易度です。あなた達の力が、私の予想を超えているなら、クリアできるでしょう。20日です。おまけはありません」


消えた・・・。




人魚の雫だ!ティナを守るぞ!


休む間もなく次の戦いが始まった。

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