第4話

「・・・・・・」


「目が覚めたかだぞ?」


・・俺は?・・・


「良く寝ていたぞ。やはり疲れていたんだぞ」


「!?ティナは!」


「まだ現れないぞ。大丈夫だぞ。勇者様は、何も心配しなくていいぞ」


アリスは、ベッドで上半身を起こした俺に、抱き着いてきた。


「勇者様を呼んだのは私たちだぞ。勝手に呼んでおいて、苦しくなったからと、攻めたりはしないぞ」


アリス・・・たった1日しか、一緒の時を過ごしていないが、


俺はアリスを、愛おしく思うようになっていた。




「アリス・・・」


俺はアリスの両肩を掴んだ。


「勇者様・・だぞ」


互いの目線は、逸れることが無く、もう言葉はいらなかった。


アリスは静かに横になる。俺はアリスの上になる。口と口が触れ合う。


「勇者様!約束のDVDだ!これを見て元気に・・・・」


レナが、部屋に飛び込んできた。




「既に元気になっていたようだな。では、私はこれを置いて戻るとしよう。あはははは、さぁ続きをやってくれ」


出来るか。


「マ、ママの所に、勇者様が起きたことを伝えに行って来るぞ」


アリスはベットに腰かけて、髪をいじりながら言うと、そそくさに出て行ってしまった。


「おしかったね~」


「レナコロス」


マオとターナが、テーブルの下から出てきた。


「お前ら、いつから居たんだ?」


「目が覚めたかだぞ~の前からだね~」


「結婚式では、ファーストキスの映像使う」


「全く、この国の連中は・・・」


「まぁまぁ、そう怒らずに、ですわ。親友の一大事を、友として見守るのは当然ですわよ」


「あんたも居たのか?」


アイリスはクローゼットの中から出てきた。


「あの子も意外とシャイですわ。レナさんに見られたぐらいで断念とは・・これでは女王の座は、当分譲れませんわね」


デリケートな行為だ。水を差されたら続けられるか!




「あ、ママ、ここに居たかだぞ。みんなも居たかだぞ」


アリスが戻ってくる。大分おめかしをしてきた。


綺麗な服、頭には髪飾り。戦闘態勢を整えに行っていたようだ。


「こいつら全員で、覗きをしようとしていたんだ」


「この世界では普通だぞ。見てる方も燃えるし、見られている方も燃えるぞ。一粒で二粒美味しいぞ」


「グリコか?・・・・俺の常識、通用しないんだな」


「勇者様が嫌なら、私の部屋に来るぞ」


アリスは、俺の手を引っ張る。


「お、おう」


俺は、アリスに手を引かれながら部屋を出た。




「ここが私の部屋だぞ。鍵もかけたぞ。誰も入ることはできないぞ」


アリスの部屋。


ティナの部屋同様に、綺麗に片付けられていた。


かじりかけの骨、ペットシートがある以外、普通の女の子の部屋だ。




「横に来るぞ。少し、お話しをするぞ」


アリスは、ベットに腰かけると俺を誘う。


「私は犬族だぞ。でもママのママは、普通の人間だったぞ」


アリスは話しを始めた。


「おばぁちゃんは、男日照りに耐えかねて、飼っていたセントバーナードのパトラッシュと交わったぞ。で、できたのがママだぞ」


「おい。犬と遣って、出来ちゃうものなのか?」


「生命の神秘だぞ」


神秘で済ませるんだ・・・。




「ママは天才だったぞ。1歳で魔法を覚えると、4歳では、敵う人はいなくなったぞ。5歳で魔法の師と共に、修行の旅に出たぞ。12歳で戻ると、女王の座を賭けて、この国の前女王に挑んだんだぞ」


「!?アイリスは、前から女王じゃなかったのか?」


「12歳で女王に成ったぞ。前女王は、重い税金を民に掛けていたぞ。一部の人間だけで贅沢をし、男を占領していたぞ。ママは税を撤廃し、民と共に、苦難を乗り越える道を選んだぞ」


アイリスって、すごい人なんだな・・・




「後17年で、勇者様が来る。勇者様に愛される国を作る。勇者様が守りたいと思う世界を作る。ママは3年で、この国を作り替えたんだぞ。そして16歳の春、王宮の庭で昼寝をしているとき、野良犬にやられて、私を身籠ったぞ」


いい話の中に、とんでもない話が混じってる!




「私はパパを知らないぞ。さっき勇者様に抱き着いたとき、男の人の背中の広さを知ったぞ。肩を握られたとき、男の人の力強さを知ったぞ」


アリス。


俺は、ゆっくりアリスを押し倒す。


「初めてだぞ。優しくするぞ」


俺も初めてだ。だが俺のアーカイブには、膨大なデーターがある。


任せろアリス。俺はアリスにキスをする。そして初めての・・・。






・・・・ここは?


草原?海が見える。


ああ、目の前にアリスが居る。


アリスは背を向け、海を眺めているようだ。


「いい風だぞ。気持ちいいぞ」


!?声は、俺の横からした。アリスは俺の隣に居る。


前に居るのは?・・アリスと同じ姿の少女は?誰だ?




前に居る少女が振り向く。アリスと同じ顔の少女。


「パパ!ママ!」


パパ?ママ?俺たちの娘なのか?


「また会えたね」


また?


・・・・・・・。




「起きるぞ、勇者様、起きるぞ」


ああ、夢か・・・あの少女は・・。


「ティナ様が現れたぞ。寝ぼけてないで表に出るぞ」


「!?あっ!ああ、すぐに行こう」


アリスの部屋。アリスのベット。アリスとのHは夢じゃないようだ。


だが、その後のあれは?夢?




俺は、アリスに連れられ、表に出た。


アイリス、レナ、マオ、ターナも既に来ていた。


「皆さん、見つけました。過去の事例を調べたんです。そうしたらありました!」


俺は勇者に成れるのか?


「はい。過去に1例だけ、勇者の資格を取りこぼした方が居ました。その時に取った策が『覚醒薬』です」


「危なそうな名前だぞ」


「覚醒薬は、本来スキルなどのステージを、上げるために使います。スキルレベル1→2と言った感じです」


「勇者スキルならわかるが、勇者そのものに効果があるのか?」


「はい。意外ですが有るんです。勇者様は今「5代目勇者(仮)で登録されています。覚醒薬を使う事で(仮)が外れて「5代目勇者」になります」


「よし!その覚醒薬は何処にあるんだ?すぐ探しに行こう」


「この世界のどこかにあります」


微笑みながらティナは言うが、世界は広い!


「無理ですわ!この世界と言っても、広すぎますわ。私たちは、人類域から出る事すらできないのですよ」


アイリスの言う事はもっともだ。


仮に人類域を出られても、世界のどこかでは、探し出す時間がない。




「えっへんです!そこで考えました。アイテムドロップ申請書の裏に『緊急案件。王都近隣を望む』と書いて、部長の印を拝借しました」


「うぁぁぁぁぁ不味くね?」


「落書きです。裏なんか普通見ません」


感情のこもらない声が帰ってきた。


「流石の私も、不味いと思うぞ。OUTぽいぞ。真っ黒だぞ」


「不味くありません。シロです。私はシロです」


さらに棒読みだ。・・・だが元はと言えば、俺の不始末。


ここはティナの努力に、ケチをつけてる場合ではない。


「分かった。よくやってくれたよ。感謝する」


「はい。頑張りました。で、来た回答がこれです」




ーーアイテムドロップの件ーー


日々の業務ご苦労様です。


お急ぎの案件、取り急ぎ対応いたしました。


王都西ダンジョン内へドロップを確認済みです。


なおこの書類は、速やかに破棄をお願いします。


アイテムドロップ課 1係




真っ黒だ!


だが、もう引き返せない。このまま何事もないことを祈るしかない。




「王都西ダンジョンなら、近くですわ」


「ああ、兵を引き連れ、ダンジョン攻略に出よう」


「久々の~大規模戦闘だね~」


「気合入る」


「良し準備にかかるぞ。出発は明朝7:00だぞ」


俺たちはダンジョン攻略の準備に取り掛かる。




俺はアイリスと、明日の装備選びをしていた。


「婿殿のレベルですと、剣はこれかしら?」


「それはペーパーナイフと呼ばれるものだ」


「盾は・・これぐらいですわね」


「折りたたみ傘と呼ばれているな」


「兜は、これが良いですわ」


「両手鍋だ」


「まだレベル1ですわ。いい装備はレベル不足ですわよ」


「まだ1回も戦ってないし、仕方ないが、まさかの勇者候補の姿がこれとはな」


ペーパーナイフ片手に、折り畳み傘を広げ、両手鍋を頭にかぶる。


「これも使えますわ。防御マントですわ」


「唐草模様の風呂敷だ。小学生のやる怪獣ゴッコになった。


「今時の子はやりませんわよ。昭和テーストですわ」


なぜ昭和とか知っている?


「ママ!ママ!大変だぞ。大変なことだぞ」


アリスが飛び込んできた。


「どうしましたのアリス?」


「一発受胎したぞ」


「!!!まぁ!!!!告知は、告知があったのですね」


「あったぞ。女の子だぞ」


受胎?妊娠の事か?


って、さっきやったばかりだぞ?


「婿殿!!!」


アイリスが抱き着いた。


前の時とは違う。これは喜びの抱きしめだ。


「婿殿!よくぞよくぞ・・・」


涙で言葉にならないが、喜んでいるのは確かだ。


「勇者様、うれしいぞ。私たちの娘だぞ」




娘!?  


   「パパ、ママ。また会えたね」


俺の脳裏に、夢の中の少女が浮かなんだ。




「残念ですが、アリスはダンジョン攻略には、不参加ですわ」


「この世界では、Hの後に受胎告知があるぞ。他の世界より早いぞ。特に犬族は、生まれるのも成長も早いぞ。今は大事な時期に成ったぞ。明日のダンジョンは、行けないぞ」


「ああ、体を大事にしてくれ。俺たちの娘を産むんだ」


「夜も一緒には寝れないぞ。生まれるまでは、他の人で辛抱してほしいぞ」


ここで、他の人が出てくるのが、この世界特有だな。




「婿殿の下半身は、私が守りますわ」


ウぁぁ。もう枕抱えてるよ。


「ダメだぞママ。明日は大事な闘いが有るぞ。ママの相手をしたら、干からびちゃうぞ」


淫魔・・レベルだったな?


「大丈夫ですわ。先っぽだけなら、大丈夫ですわ」


男が、嫌がる女に言うセリフだ。


「今日はマオの所に泊まると良いぞ。ママの側は危険だぞ」


ああ、わかった。マオの所に行くとしよう。


俺は逃げるように王宮を出た。でもマオの家ってどこだよ?




とりあえず庭に出た。外壁に向かい歩き出す。


3つある月の明かりが、足元を照らす。


思えば3日前は、まだ日本という世界に居たな。




5年ほど前に、ディーバと言う馬鹿女神は、日本と言う国に俺を召還し「世界を救ってみない?」と言うと、俺を、レベル300の勇者にした。


剣や鎧、盾などの装備は支給され、結構な良品だった。


俺は7回目の挑戦として、仲間を集うべく街に出る。


が、この国の衛兵に捕まる。


「銃刀法違反」とかいう法律違反で投獄された。




1年間の獄中生活を終えて、戻った俺を待っていたのは、ディーバのあざ笑う姿だった。


「まさか、あの格好で出て行くと思わなかったよ~」


俺は引き籠った。毎日ゲーム三昧の日々。


この世界と違い、日本と言う世界は、世界そのものが腐っている。


が、引き籠るには、良い環境の世界だった。




そして2日前、俺はこの世界に来る。激動の2日間だった。


今、冷静に思い返しても、大人の階段を上り、妻(内縁)と、娘(母胎内滞在中)が出来た。


2年分が、2日で・・・と言う感じだな。




外壁に辿り着く。


左右どちらかに行けば、門ぐらいあるだろう。右か?左か?


右の気分だ。


「お待ちなさい、勇者よ」


!?不意に後ろから声がした。


振り向くと、光り輝く美女、たぶん女神だ。


「私はアルテミス。女神です。アリスの守護者にして、NPO「女神慈善友の会」に属しています」


「アリスの守護者だと!?」


「アリスに至福を与えたあなたに、啓示を与えます」


「!!神の言葉か!?」




「あなたはいずれ、重い2択に迫られるでしょう。何方を選んでも、バットエンド。アリスの事だけを見て、第3の選択を選びなさい」


「どいう事だ?」


「これは運命です。道はあります。アリスを想う心が道を示すでしょう」


「ちょっと待て!具体的に頼む。いつなんだ?それは?」


「規則で具体的には言えませんが、いつかは大体の時期を教えましょう」


「緩いな。大概言い終わると消えるんだが・・・」




「聞きなさい、神の声を。シーズン3の後半で、あなたは重い2択に迫られます。何方を選んでもバッドエ・・」


「待て待て」


「はい?」


「シーズン3ってなんだ?」


「今がシーズン1の序章、事が起こるのがシーズン3の後半です」


「遥か未来の話だ!?」


「運命です」


「運命ですじゃない。それより、マオの家を知らないかな?」


「神の啓示で啓示です。マオさんの家は、西門を出て、広場をまっすぐ(以下略)です」


アリスの守護者とやらが、役に立ったが、全く女神という連中は・・時々わけのわからんことを言い出す。




ここがマオの家か。深夜に女性の家に押し掛けるのもアレだが・・。


「いらっしゃ~い~勇者様~」


!!ドアから出てきた。まだ呼び鈴は押してないぞ。


「ピーちゃんが気が付いたんだよ~」


「ピーちゃん?」


「いらっしゃい、ケイ・・いえ、勇者様」


声はするども、姿は見えず、ほんにあなたは屁のような。


「まぁ、都都逸もご存じなのね」


マオの肩に乗る鳥が、しゃべってる様な気がするが・・


「正解よ。私がピーですよ」


って俺、声に出してないぞ!


「ピーちゃんは~テレパシーで会話するんだよ~」


「さぁ、夜も遅いし、中へどうぞ」




「ピーちゃんは~料理、掃除、洗濯~完ぺきにこなす鳥さんなんだよ~」


カナリア程度の大きさの鳥が、料理?掃除?洗濯だと?


「ピーちゃん~お茶入れてくれるかな~」


「いいわ。勇者様もお茶でいいかしら?」


「ああ。お願いします。!!」


一瞬で目の前のテーブルに、お茶が並ぶ。


「美味しいコーヒーゼリーがあるのよ、召し上がる?」


「あ、ああ。頂きます」


また一瞬でコーヒーゼリーが、俺の前にスプーン付きで現れる。


「凄いでしょ~ピーちゃんは~超能力鳥なんだよ~何でもできるんだよ~」


マジか?ピーちゃんだよな?くーちゃんじゃないよな?


頭のピンクのアレ、制御装置だったか?刺さってないよな?




「ねぇ、マオ。魔王を倒す戦い、私も協力するわね」


ピーちゃんは、器用にお茶を飲みながら、マオに伝える。


「うんうん~一緒に戦おうね~」


マオは、種?ひまわりの種を食べながら答えた。


「超能力鳥なら、大きな戦力だ。大歓迎だよ」


「それから勇者様。おめでとうございます」


「アリスの事かな?」


「びっくりだよ~いずれは遣っちゃうと思ってたけどさ~まさか~1発受胎だとはね~羨ましいよ~」


よく知ってるな。


「アリスさんの喜びが伝わったのよ。それは強い喜びの感情で、国全体に広まったわね」


「読み取れるのは~ピーちゃんだけだけどね~」


アリス・・嬉しかったんだな。


「で~逃げて来たんだよね~女王陛下から~」


「ああ、よくわかるな。それもピーちゃんか?」


「アイリスの淫魔ぶりは一部で有名よ。アリスが大事な時期に入ったら、狙うのは当然だわ」


あははは・・有名なんだな。


「明日は早いよ~今日は寝ようね~」


マオは迫ってこなかった。


これもアリスのプリンセス特権のせいかな?




俺は、マオの横でよく寝た。

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