第3話

ティナが現れた。真剣な表情だ。


「勇者様、今回の件は、私の指示です。姑息な手だとは分かっています」


「そんな顔するな。俺は今、モーレツに感動しているんだ」


「大リーグボールが完成したんですか?」


「違う!!!!」




「女神であるティナが、よくこの策を思う付いたものだとな。たいしたもんだ。俺は好きだよ、この手の作戦がな」


ティナの表情が変わる。真剣な顔→笑顔→ドヤ顔。


「はい。考えました。そして思いつきました。ルールなんかチョロイと」


「お、おう。俺が言うのもアレだが、あまり無理はするなよ。多用すると、信用にかかわるからな」


「はい!たまににします」




「で、俺は何もしていないが、これで試練は2つ片付いたわけだ。3つ目の試練に挑みたい。今の俺なら、どんな試練でもこなす自信がある」


「頼もしいです!では、女神として勇者に、第3の試練を与えます」


女神の顔になったティナ。


「勇者の試練 その3【勇者登録を済ませる】を与えます」


「…なに?登録・・だと?」


「はい。お役所に、天界からの派遣窓口があります。そこで勇者登録を済ませるんです」


「そ、それだけか?登録だけなのか?」


「はい。簡単な適性試験も受けていただきます。では勇者よ!登録を済ませなさい。さすれば彼方は名実共に勇者です。世界を救う冒険が待っています」


「お、おう。登録だけとは、なんか拍子抜けだ」




「ママは、勇者様の歓迎パーティーの準備だぞ。私たちが同行するぞ」


アリス、レナ、ターナ、マオが案内役として来てくれた。


「天界窓口は6Fだぞ。天界への階段を駆け上がるぞ」


「ああ、頑張って駆けあがってくれ。俺たちは文明の利器、エレベーターで行くよ」




「ハァハァ、私の勝ちだぞ。先についたぞ」


元気な奴だ。犬は駆けるのが、大好きだからな。


「勇者様、1番窓口だ。天界関係を扱ってくれる」


よし、では登録だ。




「いらっしゃいませ。5代目勇者様」


・・そうか、俺は5代目になるのか。


「ティナ様より、勇者様がいらっしゃると、伺っております」


すごくかわいい子が、眩しいまでの笑顔で迎えてくれた。


「あなたも女神?」


「私は天界から派遣された、天使です。まだ女神ではないんですよ」


確か、天使を経て女神となる。誰かに聞いたことがあった。


「あまりに美しいから、女神かと思いました」


「もう!お上手!」


天使は気さくで、女神の重圧感は無かった。




「勇者登録をお願いします」


「え!?まだ勇者登録は、お済ではなかったですか?」


「はい。ティナ様から済ませるようにと」


「では、今は5代目勇者(仮)ですね」


「仮なのか?よくわかりません」


「お調べします。ここにお名前をご記入ください」


「はい。・・・・あれ? アリス、ちょっと来てくれないか?」


俺はアリスを呼んだ。




「俺の名前って?知らない?」


「知らないぞ。本人が知らないのに、今朝会った私が知るはずないぞ」


ごもっとも。


「俺は自分の名前を忘れている。今、気が付いた」


「転生や召喚の際に、一部の記憶が無くなることはよくあります。仮名でも構いませんので、この世界の名前を登録してきていただけますか?」


天使は、優しく丁寧な口調だった。




「名前登録は2F。2番窓口だ。私が先に行って、順番カードを確保しておこう」


レナは階段を駆け下りて行った。


「エレベーター来た」


ターナはエレベーターを呼んでいた。


賢いと思っていたが、意外とバカかもしれないな?レナも。




「ハァハァ。私の負けか。昔は、スピードには自信があったのだが、老いは怖いものだな」


老いと言う年かよ。


2F「名前申請課」にきた。


やはり綺麗なおねぇさんが、対応してくれる。


「記入用紙に、住所と・・」


「まて!住所だと!?」


「王宮でいいぞ。でも、転入届がまだだぞ」


綺麗なおねぇさんは、先に転入手続きをするように言う。


「転入課は5Fだ。今度は負けないぞ」


あいつは、何と戦ってるんだ?




5F転入課


やはり美人の、おねぇさんが対応してくれた。


「転出届は、お持ちですか?」


召還された俺が、持ってるはずないだろう。


「召喚窓口で、召喚手続きからですね。同じ階の12番窓口です」


次は12番だ。




可愛いおねぇさんが対応してくれた。


「召喚手続きですね。ここに名前をご記入ください」


ループに嵌まった。




名前を登録するのは、住所登録が必要。


住所登録をするには、転入届が必要。


転入届は、転出届が必要。


転出届が無い時は、召喚課で登録が必要。


召還課では、名前が必要。


無理ゲーーーだ。




「めんどくさいぞ。私が何とかするぞ。プリンセスの地位は、伊達じゃないぞ」


アリスが、鼻息荒く、窓口に向かって行った。


・・・が、どうやらダメなようだ。


「ママを呼んでくるぞ!」


涙目で駆けって行った。ジャイアンに虐められ、ドラエモンに助けを求める、のびた君のごとく。




程なく、のびた君とママが来た。


「アリス、あなたは権力と言うものの使い方を、知りませんわね」


「プリンセスと名乗ったぞ。それがどうしたって顔されたぞ」


「だから、ダメなのですわ。よく見ていなさい」


アイリスは窓口に行く。


そして軽く微笑む。


30秒ほど微笑んだまま、微動だにしない。課内が慌ただしく動き出す。


なにも記入されていないかった「召喚認定書」が出てきた。


名前、住所の欄は無記入だが、承認印は押されている。


「これが権力ですわ。かざすのではなく、無言でプレッシャーを与えるのですわ」


忖度をさせる・・恐るべし女王アイリス。




その後アイリスは、各窓口で無言の微笑を見せる。


必要な書類を手に入れるのに、苦労はしなかった。


俺は晴れて、カモミールの住人となる。


「さぁ勇者様、これをもって天界窓口へ」


「ああ・・・ありがとう」


名前は勝手に決められていた。性は「5代目」 名は「勇者」だ。


仮名だから良いけど・・・。




6F天界窓口


「5代目 勇者さん・・ですね。そのまんまですね。これでお調べして、登録しますね」


天使は、手際よく作業をしてくれた。


「はい。確認が取れました。推薦人からの推薦状は届いていますので、後は適性試験だけです」


推薦状?


「天界から2名。この世界の有力者から2名ですが、すでにこちらに届いております」


「天界はティナと?」


「ディーバ様です」


「あのディーバが、だと?」


「カモミールは、私とアリスですわよ」


クィーンとプリンセスなら納得だが、あのディーバが、良く推薦なんかしてくれたな?




「適正試験は簡単な問題が3問出ます。3問とも2択です。殆ど事務的なものです。お気楽に」


それは助かる。正直試験の類は苦手なんだ。


俺は案内された部屋に入った。


部屋は狭く、1人でゆったり満員。正面にはモニターがある。


「では始めます。音声と映像で問題が出ますので、答えは言葉で構いません」


「ああ、答えは言えばいいんだな」


「はい、そうです。では幸運を」




「この試験は、あなたがこの世界を守る勇者としての資質があるかを問う試験です。正直に、偽りのない答えをしてください」


音声が流れた。


資質って、どんな問題なんだ?




「第一問 男の子と、女の子が虐められています。何方を助けますか?」


①男の子


②女の子


!?これが問題なのか?


虐め?いや、この問題に裏などない。普通に答えるしかなさそうだ。


②だ!男は自分の力で切り抜けろ。助けるべきは、か弱い女の子の方だ。




「第二問 あなたに子供が生まれました。おめでとうございます」


「あ・・ありがとうございます」


「生まれたのは?」


①男の子


②女の子


正解など、ないはずだよな?


②女の子だ。可愛い女の子が生まれたんだ。




「第三問 あなたの息子が、3人の女性と付き合う、3つ股を掛けていました。あなたは父親として?」


①怒る


②褒める


簡単だ。俺はこれでも常識の塊だ。


①勘当するだ!




「試験は終了しました。お疲れさまでした。結果は音声にて通達します。部屋を出てお待ちください」


俺はアナウンスに従い部屋を出た。




「どうだったぞ?」


「ああ、よくわからない問題ばかりだ。答えは簡単だが、あれで資質が分かるとは思えんが」


「勇者様、どんな問題が出ましたの?」


「男女が虐められてるから、どっちを助ける?だの。 生まれたのは男か女か?どう考えても、答え自体は無いような気が・・・」


「なんて答えたぞ!?」


アリスがいきなり大きな声を出した。




「適性試験の結果発表です」


アナウンスだ。


「5代目 勇者様 0点。不合格です」


な!なんだとぉ!!!!!




アリスが膝から崩れ落ちた。


マオとターナは血の気を失った。


レナとアイリスが窓口に駆け込む。


???なんだ?どうしたというんだ?


俺は、事態が飲み込めていなかった。


「不味いぞ‥不味いぞ…」


アリスがうつろな目で呟く。




「ダメですわ。やはり天界の方には、わたくしの権力は通用しませんわ」


「再試験はできないそうだ。規則だからと・・どうにもならん」


試験そのものがおかしくないか?


「正解のない問題で、0点はおかしい」


「・・・正解はあるぞ。ここはカモミールだぞ。男が神にも等しい世界だぞ」


「!!!!!!し、しまった」


この世界を守る勇者が、この世界を理解していなかったことになる。


俺には、この世界を守る資質が無いんだ。


俺は事の重要さに気が付いた。




「とにかく、ティナ様に相談ですわ」


アイリスも力なく俺に言う。


なんて馬鹿だったんだ・・俺は馬鹿だ。






「なんてことを!?」


夕闇の天空に映し出されたティナは、一瞬だが、怒りを顔に出した。


「済まない!俺が、俺が悪かった」


ただ平謝りしかできない自分が情けない。


「・・いいえ、私たちの責任ですわ。勇者様に、世界をもっと強く説いてさえいれば」


ティナは大きく深呼吸をした。


そして、いつもの笑顔の眩しい女神へと戻った。


「地上で起こる全ての事は、守護者である私の責任です。どんな手段でもと、決めていた私が・・・。勇者様に責任はありません。私の詰めが甘かったのです」


「ティナ・・・・」


「なんとかします。ですから少しだけ時間をください。必ず解決策を見つけます」


「頼む。頼むよティナ様!俺に1度だけチャンスをくれ」


俺は、土下座をして女神に懇願した。


ティナは微笑みながら消えていく。




「もう夜だぞ。食事を作るぞ」


「・・・今は喉を通らんさ」


「なら、通る物を作るぞ。今はティナを信じるぞ。私たちは、今できる事をするぞ。ティナが見つけた策を、私たちでクリアするために、体調を整えておくぞ」


「そうだ、勇者様、まだ終わりではない。次の戦いのために、体力を蓄えておくのだ」


「うんうん~今できる事は~今するべきだね~」


「喰え、そして寝ろ」


みんな・・・・。


「そうですわ。あなたは一人ではない。失敗も苦しみも、一人で背負うことなく、仲間と共に分かち合い、前に進むのですわ」


アイリス・・・。


分かった。アリス、作ってくれ。無理やりでも喉を通して、力に変える。




俺は食った。そして寝た。


今朝、俺はこの世界に来た。長い1日だった。


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