第三話

「ぼくは 中学生時代までは優等生だったんですが 中学二年生くらいに統合失調症を発症したらしくて 成績が凋落して 進学できなかったんです そこで 両親のコネで零細鉄工所に就職しました 仕事はきつかったんですが 希望がありました 毎月千円をUNICEFに募金しはじめたんです すると どんなにつらい作業でも 『この作業の御蔭で阿弗利加の子供においしいごはんをたべさせられるんだ』とおもって なんとかたえられました でも 元来のヘビースモーカーだったぼくは 政府による煙草の値上げのために 寄附金を捻出できなくなり 軈て 毎月五百円しか募金できなくなって さらなる値上げで 月に一円も募金できなくなりました」

「あなたはやさしいんですね」

「いやあ―― そこで はたらく意慾がなくなり 『すべて統合失調症がわるいんだ』とおもって インターネットの情報を鵜呑みにして 自力で病気をなおそうとしたんです その方法が間違っていて異常なストレスとなって発狂しました つまり 陽性症状の発症です」

「なるほど」

「ぼくには片思いのひとがいました 人生であれほど愛したひとはいません 発狂したぼくは『最後にあのひとに逢えたら病気がなおる』と興奮して そのひとの自宅にむかって走っていって 不審者あつかいされて 逮捕されました」

「まあ 人生では一度や二度くらい逮捕されるものです(暴力団員個人の意見です)」

「そのときにですね 世界で最愛のひとに迷惑をかけたという慚愧の念から自殺未遂して 閉鎖病棟に強制入院させられ そこでも首を吊ったんです」

「なるほど なるほど はなしがつながりました」

「お医者様や薬剤師様の尽力で病気は寛解し また 鉄工所に勤務することになったんですが 陰性症状がのこっているからだでは 一日二時間半の労働でもきつすぎて 死のうとおもったんです そこで 首吊りはもう厭なんで さきほどもうしあげたとおり 拳銃で自殺しようとおもったのですが―― 駄目なんですよね」

「はい 駄目です 拳銃は売れません」

「ですよね でも ちょっと氣氛が楽になりました ありがとうござい――」

「では つづいてわたしのはなしを聴いてもらいましょう」

「え」


――つづく

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