第17話 幼馴染イベント【帰り道編】
「洸と旅行~♪ 洸と旅行~♪」
すっかりと日が西に傾いた頃、俺と玲奈は並んで帰路についていた。鷲見は閉店までのシフトらしいので、頃合いを見て店を後にしたのだ。
『またのお越しをお待ちしております。この豚野郎』
というお見送りの言葉をにっこりと口にする鷲見は、委員長らしくアルバイトにも全力で取り組む女の子だった。……そう思わせてくれマジで。もしくは夢であれ。
「ね、洸はどこに行きたい?」
「また改めて三人で決めるってことにしただろ?」
「わかってるって! それでも候補くらいは考えておかないといけないでしょ」
両腕を伸ばしてくるくると回りながら、声を弾ませて話す玲奈。大きな弧を描く金色のツインテールが夕日に輝きを与えられ、本当に何かの舞台を見ているような錯覚に陥る。
それほどまでに、彼女は美しかった。そんな姿を見て、俺の決断は間違っていなかったのだろうと思う。
「そうだな……例えば海とか?」
ギャルゲーのイベントと言えば海! そして水着! 身も心も開放的なって一気にお互いの距離が進展……したらダメじゃん! 何言ってんの俺⁉
「う、海って……どうせ水着姿が目的なんでしょ⁉ 変態! エッチ! スケベ!」
身体を守るように両手で肩を抱く玲奈。これはチャンスだ! 嫌がっているようだし、追い打ちをかければ海は旅行先から除外されるだろう!
「フッ、その通りだ! 水着姿となったお前を舐めまわすように見続けて、永遠に記憶してやる! ……心のフィルムに、な」
どうだ! 言ってる俺ですらキモ過ぎてドン引きしているぞ! 流石にこれを聞かされて海に行こうとは思うまい!
「気持ち悪いこと言うんじゃないわよ!」
ほら、こうして玲奈も激高して……
「……でも、洸にならいいわよ」
あるぇ?
「か、勘違いしないでよねっ⁉ 旅行に行きたいって言いだしたのはあたしだし、せめて行き先くらいは洸の好きなようにさせてあげようってだけなんだから! 水着姿で悩殺しようとか、全然これっぽっちも考えてないんだからね!」
ああ、素晴らしきツンデレ。しかし彼女の優しさが今は憎いッ!
「あ~、でもよく考えたら時期が時期だしな~。夏になってからじゃないと寒いだろうし別のところの方がいいかな~」
「心配しなくていいわよ? 海外のリゾート地にいくつか別荘があったはずだから、今でも問題ないわ」
「海外⁉ それは流石に無理だって! そもそもパスポートすら持ってないし」
「大丈夫大丈夫。こんなこともあろうかと、パパに頼んで作成済みだから」
手際良すぎィ! 外堀を埋められるのってこういう感覚なのか。
「いやいや、それでも連泊になっちゃうだろ? 鷲見の都合もあるだろうし……そうだ! 唯を家に一人きりにしておくのも心配だからさ!」
「だったら唯も連れて行く? 絢香も付いてくることになっちゃったし、一人増えたところで変わらないでしょ」
藪蛇だった。ほんとに余計なこと言ったわ。
まだこの世界に来て二日目だけれども、正直なところ義妹の唯が一番怖い。理性の崩壊的な意味で。
鷲見は一線を引いている感じがするし、玲奈はツン部分があるから冷静になるタイミングが残されているけれど、唯は攻め一辺倒。常に可愛さを押し出してくる。さらにおっぱいも押し付けてくる。エロい。
そんな唯の水着アプローチに耐えれるだろうか。無理だ。唯と海のコラボレーションだけは回避しなければならない! どげんかせんといかん!
「と、とにかく海外は止めておこう! 実は俺って飛行機に乗ると心臓発作が定期的に起こる体質みたいなんだよな! だから海外はおろか国内でも飛行機移動は事務所的にNGっていうか⁉」
自分で言ってて呆れるくらい適当な言い訳だった。大体ずっと一緒に居る幼馴染にこんな
「大変じゃない! 普通に生活していて大丈夫なの⁉」
通じた⁉ やっぱり馬鹿だ。
馬鹿で、それ以上に優しい女の子だ。
「……ごめんな」
「気にしなくていいわよ。今時、電車でも国内ならどこへだって行けるしね」
「ああ、そうだな」
俺の言葉を信じて疑わない玲奈の様子に心が痛む。やっぱりまだ彼女たちと本気で向き合う勇気は沸いてこない。
けれど――
「……玲奈」
「なに?」
数歩だけ先行していた玲奈は俺の呼びかけに応えて振り返る。
「どこへ行くにしても、楽しい旅行にしような」
「――ッ。うんっ!」
大きく頷き、これまでで一番の笑顔を浮かべた。
ヒロインたちの好意に応えることは出来ないけれど、逃げずに受け止めようと思う。
それだけが、今の俺が示せる覚悟だから。
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