第14話 委員長イベント【喫茶店編】そのに!
そんなこんなで案内された席に着き、サービスの水で頭を冷やしてから改めて店内を見回す。そこには外観と統一されたアンティーク調のテーブルと椅子が並べられている。
加えて外から確認した通り、満席では無いけれど数組の先客がいた。
……何故だか全員鼻息が荒い気がするけれど、思い過ごしだろう。
そして鷲見を含む数人の美少女メイドたち。もちろん、全員がミニスカメイド服に身を包んでいる。うむ、眼福眼福。
「な~んか、いやらしい目をしていない?」
「え、あっ、いやっ、そんなことない! スカート短いな~とか、屈んだらパンツ見えそうだな~なんて決して全くこれっぽっちも考えてませんからっ!」
「……最低ね、この豚」
「ぶひぃぃぃぃぃぃ!」
いつの間にか注文を取りに来た鷲見に虐げられ、思わず萌豚化してしまう。
というか、早くもキャラが毒舌方向に変わりつつないか? もうテコ入れ始まってるの? まだ元のキャラクターすら定まってないのに?
「ふ~~~~ん」
「俺が悪かったから、その蔑んだ視線を止めて頂けないでしょうか……」
「あら、嬉しくなかった?」
「これ以上ドМキャラを増やそうとしないでぇ⁉」
女神と湊で十分だから! 俺まで加わったら、ヒロインズ対ドМズとかいう意味不明な構図が仕上がっちゃうから! ……確かにちょっと足を踏み入れかけたけど。
「冗談よ。日下部君も男の子なんだな~って思っただけ」
「そりゃま、メイド服は男の夢だしな。目に穴が開くほど見つめても飽きないってもんさ」
「ちなみに、ロングスカートの日もあるのよ?」
「な、なんだって⁉」
まさか、マスターもバイだったとは。もちろんメイド服的な意味で。
「じゃあ、日替わりで制服を変えてるのか?」
「それがね、従業員にも当日まで知らされないの。だから来てからのお楽しみ」
なんという策士! 目当ての制服を拝むためには通い続けなければならないということかっ! いやしかし、そういった焦らしプレイが本命を引いた時の感情を爆発させるスパイスとなるのだ。
ここのマスターはかなり出来ると見た!
「日下部君は、どう? 違う私も見てみたい?」
「……愚問だな。そんなの当然――」
見たいに決まってるだろう! と言いかけた所で思い至る。
別パターンを見る為には、ここに通い続けないといけない。
それはイベント画面で委員長を選択し続けるのと同義っ! 攻略ルートまっしぐらである。
「……当然?」
「……見たいけれど、俺って一期一会を大事にする系男子だからさ。『当たるまで引き続ければ排出率百パーセント』の重課金が悪いとは言わないけれど、無課金で引いたのを大切にしたい的な?」
「そう、それは残念」
伝わった⁉︎ 自分でもイマイチ意味不明な言い訳だったのに⁉
委員長にはこれほどの理解力が必要だということなのか。
「……チッ」
ん? 舌打ち? どこから?
妙だな、近くに他の客はいないんだけど……
「そういえば、注文まだだったね。どうする?」
「えっと……、オススメとかある?」
「う〜ん、人気なのは『マスターの一期一会セット』かな?」
マスター⁉︎ あなたも一期一会を大事にする系なのね⁉
もはや運命すら感じる……。これぞ正に一期一会、ってね。
「じゃあ、それにしようかな」
「はい、承りました」
メイドらしい所作で不要になったメニューを回収し、カウンターへ歩いていく……かと思いきや、踵を返してこちらへ戻ってきた。
「忘れてた。待っている間はこれ、付けててね」
そう言って手渡されたのは、小さくてフニフニとした円筒状の物体。
「……なにこれ?」
「耳栓だけれど、見たことない?」
「そうじゃないよ! whatじゃなくてwhyだよ! なんで喫茶店で耳栓しなきゃいけないんだってこと!」
「それはほら、やっぱりイロイロと聞かれるのは……恥ずかしいから」
「急にいかがわしくなった⁉」
「ちなみに、それは私が合図するまで取れない系耳栓だから」
「なにそのタイプ⁉︎ どの耳栓でも自力で取れるよ!」
「勝手な真似をしたら、分かってるよね?」
「承知しました! 不肖日下部洸、全身全霊を持って耳に栓をさせていただきますっ!」
勢いよく耳栓を装着した姿をしっかりと確認して、鷲見は満足そうに戻っていった。ふむ、イヤホンとは違う、なんとも形容しがたい違和感だ。
しかし完全に手持ち無沙汰である。仕方がないので、ぼんやりとミニスカ店員たちを眺める。……仕方なくだからね。
すると、俺のオーダーを終えたらしい鷲見が手ぶらで客のいるテーブルへと向かった。注文の為に呼び出されたのかと思ったが、机の上には既に食べ終えたであろう皿が置かれている。
不思議に思っていると、唐突に鷲見が男性客の頬を叩いた。それも、かなりの勢いで。
何事⁉ セクハラでも言われたの⁉ それにしてもパワフル過ぎない⁉
男の表情はこちらから確認できないが、いきなり激高しないとも限らない。止めに入らなければと思い、耳栓を外して席を立とうとした瞬間……
「この豚! 変態! いつまでも駄弁ってないでさっさと帰りなさいよ!」
「ぶひぃぃぃぃ! ありがとうございますぅぅぅぅ!」
動き出そうとしていたはずの全身が、時間が、完全に停止した。
一瞬の硬直の後、音を立てないようにゆっくりと座りなおす。
……なんてこった。
ここは喫茶店なんて生易しい空間じゃない。
紛れもない、養豚場である。
「ほんと、趣味悪い店よね。洸はこれっきりにしておきなさいよ。洗脳されて豚化したアンタなんて見たくないから」
「けれど、メイド服が……っ!」
まだ見ぬロングスカートタイプが、俺を待っている!
「そ、そんなに見たいんだったら……あ、あたしが着てあげないこともないんだからねっ!」
「本当か⁉︎ だったら……って、どうしてお前がここにいるぅぅぅぅ!」
ついさっきまで俺しかいなかった丸机の対面に、見事な金髪ツインテをぶら下げた幼馴染たる二階堂玲奈が鎮座していた。
……まったく鎮まってはなかったけれど。
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