部活の先輩が苦手な新入生

@1kf

第1話

「夢…だったのか…」

こんな感じの夢を見るのも久しぶりだった。

「もしかしたら、久しぶりに女子にあったからかもな」


私、大田渚は中学受験をしたため、中学校は男子校だった。

というよりかは、男子校に入りたくて受験した、という方が正しいのかもしれない。

しかしいざ高校入学となると話は別だ。

高校も男子校に行きたかったのだが、親にもっと女とも話そうとしなさい、と言われて泣く泣く共学校に入った。それでも知り合いとは会いたくないと無理を言って、上京して一人暮らしをしている。

そんなこんながあって入ったのが大前方高校であり、昨日その入学式があったところだ。

ここで一つ言っておこう、私は女子と話すことが嫌いなのでは無い。女子と一緒にいる事であの頃を思い出すのが嫌なのだ。


そう、今日見た夢もその頃だったのだ。


あれは私が小学校1〜3年の頃だった。先述の通り私の名前は渚(なぎさ)だ。実はこの名前男女どちらでも使われるレアな名前なのだ。それだけなら良かった。本当のストーリーはまだあるのだ。

私はあくまでも男だ。小学校時代カッコいいと言われたかった。しかし親戚から先生、更には道行く人にかわいいと言われる始末だった。終いの果てには、道案内をしてあげた老人に「お嬢ちゃん、ありがと」とまで言われてしまったのだ。

たしかに口調は女子っぽく、顔も男よりは女寄りだ。声もロクに変わってないせいで合唱で男声パートが歌えない。

だけどもう一度言う、私は男だ。

ちょっと待てよ、私という一人称が悪いのか…?

ならば僕…、いや俺のほうがいいだろうか。


まあそんなことがあったのだ。そして女子を見るとそれを思い出す。それが女子を避けてきた理由なのだ。


ただこの高い声だけは役に立つ部分があったのだが…このことについては後に回そう。

そろそろご飯を食べなきゃ遅刻してしまう。

さて準備と。


今日の朝食はスクランブルエッグとパン。

やっぱり一人での朝食は寂しいものだ。


慌てて制服を着て駅まで走る。


最寄り駅の大賀谷駅は幸京メトロ幕の内線の駅で、この時間は2分に一本列車が来るので乗り遅れても被害は少ない。

逆に言うと急げば一本や二本前に乗れることもザラだ。

だからこう急いでいるのだが結果はどうだろうか…

結論は遅刻一本前に乗れた、要はセーフだ。

これで一安心。

後で考えたら、そう思っていられるのはこれが最後だったかもしれない。


普通のホームルーム、普通の学活、とすぎて時間は部活動見学へと移った。

実際のところ、私…いや俺は既に部活を決めている。

「大田は何部を見に行くんだ?」

話しかけてきたのは目の前に座る江島だ。

「インターネット部が気になるから行ってみるかな〜」

気になるとは言ったもののほぼ決定していた。


ここで一つ私の自慢をしておこう。

私は「NA TV.」というアカウント名で「Yoi Tubo」という大人気投稿サイトに動画投稿をしている。主にゲーム実況とかをあげているわけだが、なんと登録者は5200人。

超人気と言うわけではないがある程度の人気がある。

なぜこんなに人気があるかって?理由は簡単だ。

先に述べた通り私は声が高い。これを利用して、男なのに女声でゲーム実況…なんてことをやってるのだ。でも、よく考えたら人気が集まりやすいのはいいが、改めて言うと恥ずかしいかもしれない…


そして時は来た。慣れない校内を、インターネット部が活動するPC室まで歩く。しかしここでちょっとした問題が発生する。扉の前まで行くとそこはかとない違和感を感じたのだ。なぜか、パチンパチンという音が聞こえてくる。

「なんだこの音、まあいいか…」

「あのーインターネット部に見学に…」

と言ったところで目の前にあったのは9×9のマスが入った木の板と五角形の駒だった。

「えっと…ここはインターネット部ですよね…」

「あっ、初見さんか〜いらっしゃい」

「Welcome to internet and shogi club」

よくわからん英語の勧誘を…ってインターネットと将棋部が一緒にやってるだと。

どうりで駒の音がしたわけだ。

「この書類に名前と希望の部活を書いといて〜」

「あっ、はい」

大田渚とゆっくり書いた。

「そしたら私が案内するね。」

そこにいた女の先輩が案内してくれるらしい。

「私は歌梨渡名花。一応将棋部の所属なんだけど、インターネット部の活動もやってるよ。」

どうも話を聞くと活動は週4、うち2日は将棋部と部屋をシェアしてるらしい。活動内容は流行を探して毎月の新聞を作る…というのは表面に見えるものだけらしく、動画見たり、SNS見たり、ゲームやったりしてるらしい。うん、私にあってる。

「こんな感じかな〜なんか質問ある?」

「大丈夫です。」

「そしたら適当に見といて。」

「了解です。」

ふー… やっぱり会話は苦手だ。

なんというか話が続かない。


しばらくして激動の一日が終わった。

そういや編集をしなきゃ、とやる事を思い出し取りかかったのだが…


気付いたら朝になっていた。

しょうがない、授業で寝るか。


今日の朝食もスクランブルエッグとパン。

またなのかと思われるだろうが仕方ない。

これが男の飯だ。


さーてと、今日は余裕がある。

学校に着いたもののやることが無い。寝よう。


しばらくして時間になると廊下から甲高い靴の音が聞こえ、おばさんが入ってきてHRが始まった。

おばさん曰く今日の授業は6時間、1限は国語、2限は英語、3限は数学A、4限は物理基礎、5限は数学I、6限は地理との事。

数学2回とはなんとめんどくさいことを。


うちは国語が嫌いだ。

心情や指示語を探せと言われてもよく分からん。

そもそも私自身が一人称ブレまくりなせいでどこのことばかすら分からん。

それに対して、めんどくさいといった割に数学は得意だ。

3限はサイコロの確率を求めた。

問題 サイコロ1個を投げた時、偶数の目が出る確率はいくつか。

回答 3/6=½

流石に簡単だった。

6限は地理。関西についてやるらしい。

なんだ、今度イベントで行くとこじゃないか。

イベントと言っても見に行くんじゃないぞ。

あくまで開催側だ。

とにかくつまらないから寝てしまおう。

zzz…

笑い声が聞こえたと思ったら…

「大田くん、聞いてる? 教科書の今のとこ読んで。」

やらかした。聞いてない。

「聞いてなかったの?」

「その通りでございます。」

「この時期から寝るとはなかなかの度胸ね。次は無いわよ。」

「申し訳無いです」

「とりあえず20ページの5行目から読んで。」

「はい。」

こんなに恥ずかしい音読は初めてだ…

にしても地理で音読って意味あんの…?


さて授業も終わった。今日は部活もないし家に帰って収録するか。


無事帰宅したのでカメラとマイクを用意した。

今日の企画は『get your engine』という曲を原キーで歌えるか、というもの。

この曲はキーが高いことで有名だ。

『slipshut』というボーカル1人と作曲やその他演奏担当が1人のグループの曲で、ボーカルの北辻愛香は声優としても有名だ。


うむ、こんなもんか。

自分としては100%の出来ではないがよしとしよう。

あとは簡単な字幕付けと出力。慣れてしまえば大したことは無いのだが慣れるまでが長かった。まあそんな昔話を考えてる間に字幕が付け終わった。

出力には時間がかかるのでその間に夕飯の準備だ。


と言えども夕飯は冷凍食品のオンパレード

毎日ご飯を作ってくれる彼女でもいればな…


なんて妄想をしてまた一日が終わった。

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