第15話 敵襲 その2。
光とともに武器の精製が成功した。
兵隊は一瞬も驚くことなくこちらを見ている。
出来た武器は柄から長く伸びてしなっている。
鞭の精製がうまくいった。
僕の狙いは何とか足を奪い転ばせて、兵隊の剣を奪ってそれで倒すこと。
今できるのはそんな物かもしれない。
「行くぞ!」
僕は身軽さを利用して何とか横に回り込んで鞭を振るってみるが未経験者の僕に上手に使えるはずもない。兵隊には当たるが巻き付けるのが難しい。
それにしてもおかしい、兵隊は一撃を食らっても意に介していない。
まるでダメージが無いようにも見える。
だが、頬に当たった一撃で兵士は出血をしている。
どういうことだ?
そう思っているとトキタマが肩にとまってこう言った。
「お父さん、巻き付くことをイメージして使うんです」
イメージ…そうか、それもイメージの力に左右されるのか。
後でリーンに教えてあげよう。
「【アーティファクト】!」
僕は鞭に意識を集中して足に鞭が巻き付くイメージをしてから振るった。
鞭が兵隊に巻き付いた!
僕は間髪入れずに兵隊の足に巻き付いた鞭を思いっきり引っ張る。
バランスを崩した兵隊は仰向けに転がった。
今だ!剣を奪って刺してしまおう!
そう思った時、ナックが僕の元に来て「大地の槍斧」を兵隊に刺していた。
「父さんの仇!!」
そのナックの声に驚いてナックのお父さんが居た場所を見ると、「剛力の斧」で頭を割られている兵隊と刺し違えたナックのお父さんの姿があった。
村のみんなはどうなった!?
僕が広場の方を向くと男性陣が茂みにの方に行き、数人がかりで何とか兵隊と戦っている。
1対1でなければ何とか勝てたらしい。
ガサガサガサ…
まだ居た。
茂みから兵隊が出てきた。
「ナック!!」
ナックに声をかけて2人が狩りで倒そうと思った。
「ここは俺が戦うからキョロはリーンの所に!」
ナックが出てきた兵隊と向き合いながら僕に行くように言っている。
リーン、彼女はどうなっただろう?
僕は父さんと母さん、リーンの事が心配で走り出していた。
「キヨロス君!」
僕は女性陣の所に行くとリーンのお母さんに呼び止められた。
「リーンをお願い」
リーンのお母さんはそう言うとリーンの手を渡してくる。
そしてリーンのお母さんはリーンのお父さんが居たと思う場所に向かって行く。
「キョロ!何コレ?どうなっているのコレ?」
リーンが僕を見るなり色々聞いてくる。
「僕にもわからない」
今は僕の父さんと母さんを見つけたい。
僕はリーンの問いかけに集中しないで辺りを見回した。
「あなた!!」
母さんの声がする。
声の方向を見ると父さんが倒れていて、母さんが必死に呼びかけている。
僕の頭は真っ白になった。そして次の瞬間…
「「「「「【アーティファクト】!!!」」」」」
また木々の奥から声がした。
見ると木々の奥が明るくなっている。
火だ。
あれは火だ。
生きている兵隊の居なくなった広場に矢の雨、火の塊、火の矢が雨のように降り注いだ。
この火はアーティファクトなのか、踏んでも中々消えない。
助けるにもどうすることもできない。
そうしたら火の向こう側から声が聞こえてきた。
「キヨロス君、リーン!」
リーンのお母さんだ。
「お母さん!」
リーンが叫ぶ。
「ここはもうダメ!あなた達は逃げなさい!」
リーンのお母さんが僕たちに逃げろと言っている。
何処に逃げる?
僕は酷く混乱していた。
「嫌ぁぁぁっ!」
リーンの声で僕は何とか現実に引き戻された。
「今はこの場から逃げるのが先決だ」
僕はリーンのお母さんに渡されたリーンの手を引いて北の村はずれに走って行った。
村はずれを目指す僕の前にナックが歩いていた。
「俺の前に出てきた兵士は全部倒してやったぜ」
ナックは酷く疲れているが大きな怪我はしていない感じだった。
「ナックはどうするつもりだったの?」
「火の矢を放った奴がまだ居るはずだ、後はフードの男。あいつらを倒さないと…」
ナックは戦うつもりだ。
「キョロは?」
「僕はリーンのお母さんにリーンを頼まれて、安全そうな所に逃げようと思ったんだ。
安全そうな場所は相手が火だったから<降り立つ川>しか思いつかなかったんだ」
「そうか」
そう言いながらナックの家を通過した。
最初はナックの家で休むことも考えたが火を放たれたり待ち伏せをされてはどうにもならない。
今は<降り立つ川>で火に対抗しながら逃げおおせるのが正解だろう。
朝になったら<南の二の村>を目指して保護してもらおう。
考えがなんとかまとまった頃、僕たちは<降り立つ川>に着いた。
昼には何気ない日常の中でアーティファクトを授かった。
それなのにたった数時間で世界が激変してしまった。
これはなんだと言うのだろう?
そんな僕たちの前にまた兵隊が現れた。
今度の兵隊は弓と剣を持っている。
「そうか、遠距離では弓。近距離では剣を使うのか…」
「そんな事知った事か!!」
ナックが勢いをつけて兵隊に向かって行く。
僕は何か嫌な予感がした。
「ナック駄目!!」
横にいたリーンが急にナックに向かって叫んだ。
「【アーティファクト】!」
ナックが「大地の槍斧」の能力を使って突きを放った。
とても今日授かったとは思えない槍さばきだ
だが先ほど見た動きに比べるとだいぶ鈍い。
疲れているのか?
そう思った時、ここが水辺だと僕は気が付いた。
リーンは気が付いていたからナックを制止したのだ。
ナック本人ももっと経験を積んでいれば気づいたのかも知れないが今日授かったばかりのナックには無理な話だった。
「【アーティファクト】」
兵隊がそう言うと剣が光った。
次の瞬間、兵隊の剣劇で「大地の槍斧」は軽々と弾かれてしまった。
唖然とするナックの胸に兵隊の剣が刺さる。
「嫌ぁぁぁっ!」
リーンがその状況を見て叫んだ。
助けに行かなければ。
僕はリーンをその場に残してナックの元に向かった。
「【アーティファクト】!」
剣が無理でも刃渡りの長いダガーナイフなら精製出来るだろう。
そう思って突っ込んでいった。
柄からは何も出ない。
僕は精製に失敗した。
僕のイメージ力が弱かったのか、万能の柄ではダガーナイフが無理だったのかはわからない。
ただ、無理だったのだ。
そして次の瞬間、僕は兵士に殴り飛ばされて川に落ちて流された。
ゆっくり流れる世界の中で、胸に剣を突き立てられて悔しそうに涙を流すナックの顔とリーンが見えた。
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