第14話 敵襲 その1。

僕がナックに「いい加減にしなよ」と言った時、男性陣の方で誰かが倒れた。

酔いつぶれたのかと思い見てみると、背中に何か棒みたいなものが刺さっていた。


続けて女性陣の方でも誰かが倒れて悲鳴が上がった。

倒れた人を見てみると背中に矢が刺さっていた。


慌てる皆に村長が落ち着くように声をかけた。

パニックになりかけていた人たちは村長の声で少し冷静さを取り戻して女性陣が広場の中央に、その周りに男性陣が守るように固まった。

矢は飛んでこなくなったが嫌な緊張感が広場には充満していた。


倒れた人たちを見てみると最初の人は背中に槍が刺さっていた。

次の人は矢で。どちらも背中に刺さっている。

2人は北を向いていたので南からの攻撃かも知れない。


先ほどまで酔っぱらってヘラヘラしていたナックのお父さんは「剛力の斧」を構えて辺りを見回している。

ナックも「大地の槍斧」を構えている。

男性陣に促されてリーンは広場の中央に連れていかれてしまった。

いけない。アーティファクトを返し忘れたままだった。

これが無ければリーンは心細いだろうに。


数分が過ぎた。

もしかすると一分も経っていないのかもしれない。

この村にくる道は北の道しかない。


みんな北側を見ている。

そんな頃、北の村はずれにある茂みの中から1人の男が歩いてきた。


男は長いフード付きのローブを纏い、フードを深々とかぶっていて表情が読めない。

手にはなにも持たず悠然としている。


ナックのお父さんが「剛力の斧」を構えて「何者だ!」と男に言う。

男は何も聞こえないのか黙っている。


もう一度ナックのお父さんが「答えろ!」と言うと男はこちらを見た。

こちらを見ている男をナックのお父さんが睨みつける。

その表情からは返答次第では許さないと言う意思が感じられた。


村長が村はずれに居る男の方に向かって歩き出した。

村人たちが口々に村長に危ないから行くなと言っているが村長はフードの男の前まで行き、「私はこの南の一の村の村長だ。あなたは何者だ?今槍と矢を放って私の家族を殺したのはあなたか?」と聞いた。


フードの男がフードを取った。

その中の顔は山賊なんかとは違い、高貴な顔立ちをしていてとてもいきなり矢を放つようには見えない。

よく見るとローブも上質の生地で出来ている。


男は村長の問いに何も答えない。

ナックのお父さんは村長の後を着いていき、怒りに震えながら今にもフードの男に襲い掛かろうとしている。ナックもその後ろをついて行っている。

僕はその更に後ろ、場所にしたら村はずれと広場の間で状況を見ている。


ナックは怒りに震える父親を見たことがなかったのであろう。フードの男よりも父親に怯えてしまっている風に見える。


「私は…」

フードの男がようやく口を開いた。


「私は南の国の王の勅命でこの村に来た…」

「王の命令だと!?それで何故攻撃をする!」

ナックのお父さんが話を最後まで聞かずに怒っている。

村長が話を聞こうとナックのお父さんを制止してフードの男に話を続けるように言った。


「王は力を求めている。強いアーティファクトの力を求めている。村の全てのアーティファクトを要求する。」

フードの男は抑揚なく淡々ととんでもない事を言い出した。


「それは出来ない!アーティファクトは神様からの授かり物、それを奪われたら私たちはどうすればいいのですか!?」

村長が口調を荒くしてフードの男に抵抗をした。


次の瞬間。

「ぐあぁっ!?」


村長が剣で貫かれていた。

フードの男は何も持っていない。

しかし剣が飛んできて村長を刺していた。

一瞬で絶命したのか村長は何が起きたかなんてわからなかったと思う。


「王はこうも言っていた。命を回す。次の命から更にアーティファクトを貰い受けると…」


フードの男がそう言い終わると周りの木々の中から

「「「「「【アーティファクト】!!!」」」」」


一斉にアーティファクトを発動させる声が聞こえた。

四方八方から矢が飛んできた。

一部の人はテーブルの下や椅子を盾に何とか矢を凌いでいたが防ぎきれない人が何人かまた死んだ。


父さんと母さんは無事であろうか?

僕は心配でたまらなくなり今すぐ確かめに行きたくなった。


「行け!」

フードの男がそう言うと、フードの男の後ろの茂みや木々から三人の兵隊が出てきて広場に走った。

1人の兵隊は村長の亡骸から剣を引き抜き構えている。この兵隊が村長に剣を飛ばしていたのだった。

ナックとナックの父親が兵隊を制止するが村長を殺した兵隊とは別の兵隊が1人、それを振り切り走ってくる。

その兵隊は僕に襲い掛かってきた。


後ろでも悲鳴がする、いろんな方向から広場を襲っているのかもしれない。

ナックの父さんが「剛力の斧」を構えて「【アーティファクト】!!」と叫んで兵隊に立ち向かっている。

「剛力の斧」は木を切るもので人を切るものではない。

サクサク切れる恩恵はなく木以外のものには切れ味の落ちない普通の斧になってしまう。


ナックの方は覚えたばかりの「大地の槍斧」の能力で兵隊と互角に戦っている。


僕には攻撃手段がない。かわすしかできない!?

今はかわせているが徐々にきつくなるだろう。

トキタマはいつの間にか僕の肩から居なくなっている。

本当に攻撃力の無いアーティファクトなのだろう。



「【アーティファクト】!」

兵隊が能力を使ってきた。

どうやら剣のアーティファクトのようで剣が光っている。

切れ味が上がるタイプの物かと思い注意していると、剣を振るうスピードが飛躍的にアップした。


あわや切られる所だった。

何とかかわせた僕は手の中のアーティファクトに気が付いた。

リーンの「万能の柄」だ。

今、正当な持ち主ではなく僕が持ってしまっている。

これを使ってこの場を乗り切るしかない。


兵隊がもう一度剣を振るってきた。

今度は剣が思いのほか遅い。

多分、一度使うと次に能力を発揮できるまでに間を開ける必要があるようだ。


「今しかない」

僕は手の中のアーティファクトに武器のイメージを送り込む。

ナイフではあの鎧を貫通できる気がしない。

かと言って神の使いは柄の長さに比例した武器ではないと精製できない場合があると言っていた。


僕の脳内にイメージできた武器はとても剣に比べれば頼りない。

ただ、今できる中では一番なのは確かだと思う。


「【アーティファクト】!」

僕は可能性に賭けることにした。

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