第12話 時を跳ぶ。

宴に戻った僕は席について水を飲みながらトキタマがどんなアーティファクトなのかを考えていた。


「もう、これからは1人の身体じゃないんだからちゃんと2人分食べなきゃダメよ!」

リーンが冗談なのか本気なのか悩む事を言いながらナックとリーンはそのまま僕の為に食べ物と飲み物を取りに行ってくれている。

2人は僕が倒れたのは疲れと空腹だと決めつけていた。


生まれてこの方疲れや空腹で倒れた事は無いのだが、S級のアーティファクトを授かったのだから疲れるかもしれないしお腹だって空くかもしれないと言うことを言っていた。


トキタマ

僕のアーティファクト、まだどんな能力があるのかわからないがこうして眺めていると小鳥にしか見えない。

そして驚いた事にトキタマは宴のご馳走を肉や魚、野菜などを問わずに食べている。


「君は、なんでも食べるんだね」

僕の問いかけにトキタマは

「僕は美味しいものが大好きです。でも別にご飯は食べなくても平気ですよ」

と返してきた。

それを聞くと空腹が原因ではない気がする。


「ねえ、君の能力は何?神の使いは教えてくれなかったんだ」

「ふっふっふ、お父さんは僕の能力を知りたいんですね?」


トキタマがそう言った時、後ろの方で酔っ払った男性陣の誰かがとろみのついたイノシシのシチューを器ごと落としていた。

ナックのお父さんが「よくも俺の仕留めたイノシシのシチューを!」と叫んで居たが、すぐさま「まあいい、今日は息子の晴れの日だ!気にすんなー!」と言い笑っていた。

酔っ払った男性陣はつられて笑って誰もシチューを片付けなかった。


僕はトキタマに視線を戻す。

「うーん、お父さんに僕の能力を知ってもらうには説明するより体験してもらうのがいいのですが、いいのがないなぁ…」


いいのがない?

それはどういう事なのだろうか?

時の力でモンスターを一瞬で退治するとかそう言う能力なのであろうか?


そんな事を考えていると…


「きゃぁ!!?」

リーンが先ほどのシチューに滑って転んでしまった。

手に持っていた飲み物は全てこぼれてしまっている。


…男性陣がイノシシのシチューを片さなかったからリーンが滑ってしまった。


「それです!!」

突然トキタマが言い出した。


「さあ、お父さん準備ができました。僕を使ってください」


何のことかはわからないが、トキタマが自分を使えと言っている。

言われるがままに使っていいのであろうか?

普段の僕なら絶対に使わないと思う。

先ほどの父さんの「うむ、だがアーティファクトが使い手を貶める事は無いだろう。きっと大丈夫だ」と言う言葉が思い出された。


それは言い訳でしかない。

僕は自分のアーティファクトを使ってみたいのだ。


何が起きるのだろう?

ワクワクした気持ちを抑えながら意識をトキタマに向ける。

「【アーティファクト】!」


その瞬間、小鳥サイズのトキタマの羽根がみるみる大きくなって僕を包んだ。

何が起きるのだろう?それとも何かが既に起きているのであろうか?

そう思った瞬間、僕の意識は一瞬遠のいた。


ふと意識が戻った。

僕は席についていた。


「もう、これからは1人の身体じゃないんだからちゃんと2人分食べなきゃダメよ!」

リーンがそう言いながら去って行った。

ああ、食べ物と飲み物をナックと撮りに行ったのだ。


…これは先ほどあった事だ。

僕は夢を見ているのであろうか?

目の前のご馳走を食べているトキタマに目を向ける。


トキタマは居なかった。


「お父さん、僕はここですよ」

僕の右からトキタマの声がした。


右を向くとトキタマは僕の肩に止まっていた。


「これは夢?」

僕はトキタマに問いかける。


「違いますよ、これが僕の能力です。時を跳んで過去に戻る事ができるんです」

「え?」


僕の頭はトキタマの言葉に付いていけなかった。何を言っているのだろう?


「お友達のお姉さんを見ましたよね。お父さんが跳ぶ前は転んで食べ物と飲み物で汚れていました。でも、今ここに居たお姉さんは汚れる前のお姉さんですよ。お父さんは時を跳んだんです」

トキタマの言っていることが本当だとすると、これは夢ではなく確かに時間を跳んでリーンが転ぶ前に戻ってきたのだろう。


「お父さん、僕が跳ぶ事を勧めるのは事件と解決の条件が揃うことです。お父さんはお姉さんが転ぶのを見ました。お姉さんが転ばないで済む方法、解決策はお父さん自身が「男性陣がイノシシのシチューを片さなかったからリーンが滑ってしまった」と言っていました。イノシシのシチューがこぼれない、もしくはこぼれた後、お姉さんが来る前に片づければいいのです」

僕がシチューを何とかすればリーンは転ばないで済む。そういう事か…


ここで一つ疑問が出てくる。

「トキタマ、もしここで僕が何もしなかったらどうなるの?」

「どうにもなりません。さっきと同じことが起きます。でも、お父さんが後になって「やっぱり助けてあげたい」って思った時の為に僕は今の場所を覚えておきます」


「トキタマが覚えていれば跳べるの?」

「はい、それ以外でもお父さんが僕を使えば跳べますし、ほかにも色々跳べます。ただ、確実に事件に対して結果を変えられる条件が揃った時は、僕からお父さんに「跳べるよ!!」って教えます。でもそれ以外だと確実じゃないから跳んでも失敗することもあります」


大体言っていることは理解できた気がする。

トキタマは時間を戻してやり直すことができるアーティファクトで、僕が事件を見て確実に結果を変えられる場合にはトキタマが教えてくれるらしい。

これは確かに、生活は便利にはならないが村のみんなの為になるアーティファクトだ。


「トキタマ、君を使う時の注意点は何?」

「そんなのないです」


それはない、神の使いも注意点はトキタマから聞くように言っていた。

だから必ずあるんだ。

でもなんでトキタマは言ってくれないのだろう?


「B級以上のアーティファクトには必ず注意点があるんだ。だからトキタマ、君にも何か注意点があるんだ。それを言ってくれ」


……

「わかりました。言います。何回跳んでも解決できない出来事があったりします」

「それはどういうもの?」


「相手が相当強くて何度戦っても勝てない場合とかです」

「それだけ?」


「そうです。僕が万能じゃないとお父さんが僕を使わないんじゃないかと思って黙っていました」

S級アーティファクトだからまだ何かある気がするが、今はこれ以上トキタマを追及しても教えてはくれないだろう。

少しずつ試していけばいい。

とりあえず今はイノシシのシチューだ、リーンが無事に転ばないで済むかやってみよう。


僕は男性陣の席に近づいてシチューの器を男性陣から離した。

酔っぱらったおじさんが「何やってんだ?」と言ってきたが「落としそうだったよ」と言うと「そうか?ありがとな、流石A級さんはよく見ているな!」とからかってきた。

僕は謙遜してその場を離れ席に戻った。


これでシチューがこぼれる状況は回避した。

トキタマが「後は待っていてください」と言ってきた。


リーンがきた。

男性陣の横を通った。


当然だがシチューが無かったのでリーンは飲み物を持ってきてくれた。

後ろから食べ物をもったナックが帰ってきた。


「おかえり」

「ただいま。少しは元気になった?」

「ありがとう、今は大丈夫だよ。」


「お、なにかいい事あったのか?顔がすっきりしてるぞ?」

ナックが聞いてきた。


僕はトキタマの能力を2人に説明するかを悩んだ。

言って信じて貰えないのも仕方がない事で、トキタマと僕は跳んだことを知っているが2人は知らない。リーンが転んで汚れてしまった事実はもうないのだ。


だが、期待してくれている2人に何も言わないのは失礼にあたるとも思った。

僕は2人にトキタマの力を説明した。


2人はとても驚いていた。

リーンの話をしたが信じられない感じだったのだが、トキタマが「本当です。お父さんは嘘なんかつきません」と言った辺りで信じてくれたようだ。

これをあと数回するのかと思うと気が重い。

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